第四章 私の知らない時間 一
一
三年生になって二週間が過ぎるころには、別々のクラスで過ごすことにも少しずつ慣れてきた。
朝は郵便局の前で待ち合わせ、同じ電車へ乗る。校舎へ入ればD組とF組へ分かれ、昼休みには階段の踊り場で落ち合う。放課後は互いの部活が終わる時間を連絡し、合えば一緒に帰った。
二年生まで自然に繰り返していたことを、私たちは一つずつ約束へ変えていった。
葉子の家の卵焼きは、春休み前より少し甘くなった。
母親へ頼んだらしい。最初の日、弁当箱へ入れられた卵焼きを食べた私は、思わず葉子を見た。
「甘すぎる?」
葉子が聞いた。
「前より甘い」
「桜が甘いやつって言ったから」
「言ったけど、ここまでとは思ってない」
「注文が細かい」
そう言いながらも、葉子は翌日から少しだけ砂糖を減らしてもらっていた。
私の弁当に唐揚げが入る日は、葉子の分が一つ増える。母には何も説明していないのに、いつの間にかそうなっていた。
変わらないものがあることに、私は安心していた。
一方で、一緒にいられない時間も着実に増えている。
三年生は進路指導が多い。選択科目によって授業の教室も変わり、昼休みに委員会の集まりが入る日もあった。
葉子は小夜と同じ進路委員になった。
本当は委員を引き受けるつもりがなかったらしい。最初のホームルームで誰も手を挙げず、小夜に「一人では無理だから」と頼まれて断れなかったという。
葉子らしかった。
人前へ出ることは苦手なのに、困っている人を放っておけない。そのせいで仕事を抱え、あとから私へ愚痴を言う。
これまでは、葉子の愚痴に出てくる相手の顔をだいたい知っていた。
三年生になってからは違う。
F組の担任。隣の席の生徒。委員会で一緒になった人。葉子の話には、私の知らない名前が少しずつ増えていった。
小夜の名前は、特によく出た。
小夜は予定を立てるのが得意で、配布物をすぐに整理する。葉子が締切を忘れる前に教えてくれる。美術系の進路にも詳しく、県外の学校について一緒に調べてくれた。
葉子が楽しそうに話すので、私も最初は素直に聞いていた。
けれど何度目かになると、胸の奥に小さな引っかかりが生まれた。
小夜のことばかりだね。
そう言いかけ、飲み込んだ。
私だって部活の話をするとき、真琴や紗季先輩の名前を出している。
別のクラスになったのだから、知らない時間が増えるのは当然だった。




