↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
好きと言うには近すぎた  作者: 桔梗鹿々
第四章 私の知らない時間
PR
17/36

第四章 私の知らない時間 一

 三年生になって二週間が過ぎるころには、別々のクラスで過ごすことにも少しずつ慣れてきた。

 朝は郵便局の前で待ち合わせ、同じ電車へ乗る。校舎へ入ればD組とF組へ分かれ、昼休みには階段の踊り場で落ち合う。放課後は互いの部活が終わる時間を連絡し、合えば一緒に帰った。

 二年生まで自然に繰り返していたことを、私たちは一つずつ約束へ変えていった。

 葉子の家の卵焼きは、春休み前より少し甘くなった。

 母親へ頼んだらしい。最初の日、弁当箱へ入れられた卵焼きを食べた私は、思わず葉子を見た。

「甘すぎる?」

 葉子が聞いた。

「前より甘い」

「桜が甘いやつって言ったから」

「言ったけど、ここまでとは思ってない」

「注文が細かい」

 そう言いながらも、葉子は翌日から少しだけ砂糖を減らしてもらっていた。

 私の弁当に唐揚げが入る日は、葉子の分が一つ増える。母には何も説明していないのに、いつの間にかそうなっていた。

 変わらないものがあることに、私は安心していた。

 一方で、一緒にいられない時間も着実に増えている。

 三年生は進路指導が多い。選択科目によって授業の教室も変わり、昼休みに委員会の集まりが入る日もあった。

 葉子は小夜と同じ進路委員になった。

 本当は委員を引き受けるつもりがなかったらしい。最初のホームルームで誰も手を挙げず、小夜に「一人では無理だから」と頼まれて断れなかったという。

 葉子らしかった。

 人前へ出ることは苦手なのに、困っている人を放っておけない。そのせいで仕事を抱え、あとから私へ愚痴を言う。

 これまでは、葉子の愚痴に出てくる相手の顔をだいたい知っていた。

 三年生になってからは違う。

 F組の担任。隣の席の生徒。委員会で一緒になった人。葉子の話には、私の知らない名前が少しずつ増えていった。

 小夜の名前は、特によく出た。

 小夜は予定を立てるのが得意で、配布物をすぐに整理する。葉子が締切を忘れる前に教えてくれる。美術系の進路にも詳しく、県外の学校について一緒に調べてくれた。

 葉子が楽しそうに話すので、私も最初は素直に聞いていた。

 けれど何度目かになると、胸の奥に小さな引っかかりが生まれた。

 小夜のことばかりだね。

 そう言いかけ、飲み込んだ。

 私だって部活の話をするとき、真琴や紗季先輩の名前を出している。

 別のクラスになったのだから、知らない時間が増えるのは当然だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。