第三章 別々の教室 二
二
新しいクラスの最初の一日は、名前を聞くことばかりで終わった。
担任の自己紹介。出席番号順の簡単な挨拶。委員を決めるための仮の座席。進路希望調査の説明。
二年間同じだった真琴が近くにいたので、困ることはなかった。
真琴とは陸上部でも一緒だった。教室のなかで話す機会は多くなかったが、知らない相手ではない。前の席には真帆がいる。ほかにも、授業で見たことのある顔が何人かいた。
私の番が来て、名前と陸上部に所属していることを話す。昨年も同じクラスだった人がいるので、特に新しいことはなかった。
席へ戻る途中、無意識にF組の方向を見た。
壁があるので、葉子の姿は見えない。
午前の最後に、クラス写真を撮ることになった。
中庭へ並び、カメラマンの指示に従って背の順になる。私は後列だった。真琴が隣へ立ち、担任が前の列の位置を直している。
葉子のクラスも、少し離れた場所で撮影を待っていた。
生徒のあいだから、葉子の髪が見える。
隣にいる女子が、葉子へ何か話しかけた。葉子が顔をそちらへ向け、笑う。
知らない人ではなかった。
小夜という名前だったと思う。二年生の文化祭で実行委員をしていた。話し方が落ち着いていて、準備中に廊下を走った男子を無言で止めていたのを覚えている。
小夜は手にした紙を葉子へ見せた。
二人でそれを覗き込み、また笑う。
「桜、前向いて」
真琴に肘で軽く押された。
カメラマンがこちらを見ている。
「ごめん」
私は前を向いた。
撮影音が鳴る。
そのあともう一度F組のほうを見ると、葉子たちは校舎へ戻り始めていた。
小夜が葉子の隣を歩いている。
同じクラスなのだから、当たり前だった。
私だって真琴と並んで歩いている。
それなのに、今まで自分がいた場所へほかの誰かがいるように見えた。
教室へ戻ると、担任が配布物を読み上げた。
私はその内容をほとんど覚えていない。




