第三章 別々の教室 三
三
昼休みのチャイムが鳴る。
教室のあちこちで机を動かす音がした。
二年生まで一緒に食べていた美咲はF組、真帆は私と同じD組。真帆が弁当を持って私の席へ来たが、私は立ち上がった。
「葉子のところ?」
「うん。昼どうするか決めてないから」
「初日からちゃんと探しに行くんだ」
真帆は面白そうに笑った。
「別に、近いし」
「はいはい」
私は弁当を持ち、廊下へ出た。
E組の前を通り、F組へ向かう。
扉のところから中を覗くと、葉子はすぐに見つかった。
窓際の後ろから二番目。机を四つ寄せた輪のなかにいる。
美咲、紬、小夜。それから葉子。
四人はすでに弁当を開いていた。
葉子は私に気づき、顔を上げる。
「あ、桜」
その声で、ほかの三人もこちらを見た。
私は教室へ入ろうとして、足を止めた。
私が座る場所はない。
机をもう一つ動かせばよいだけだ。誰も嫌な顔はしないだろう。美咲は昔からの友人だし、紬とも話したことがある。小夜も軽く会釈をしてくれた。
それでも、できあがった輪のなかへ自分から入ることが、急にためらわれた。
「昼、どうするかと思って」
葉子へ言う。
「ごめん。美咲に誘われて、そのまま食べ始めちゃった」
「うん。見れば分かる」
「桜も一緒に食べる?」
葉子は椅子を少し横へ動かそうとした。
「いいよ。真帆が待ってるから」
本当は、待っているわけではなかった。
でも今から机を動かしてもらい、葉子たちの輪へ入るより、自分の教室へ戻るほうが自然な気がした。
「放課後、連絡する」
「うん」
私はF組を出た。
廊下を戻りながら、自分が何をしに行ったのか分からなくなる。
葉子と昼を食べる約束はしていなかった。
新しいクラスの初日に、近くの席の人と食べるのは普通だ。葉子は私が来ないと思い、美咲たちに誘われた。それだけのことだった。
D組へ戻ると、真帆は真琴と机を寄せていた。私の分の椅子も残してくれている。
「食べなかったの?」
「葉子、もう食べてた」
「じゃあ、こっち来れば」
真帆は何も気にしていない。
私は席へ座り、弁当を開いた。
今日は唐揚げが入っていた。
いつもなら、葉子の弁当へ一つ移る。
代わりの卵焼きも、今日はない。
「桜、その唐揚げ食べないならもらうよ」
真琴が箸を伸ばしかけた。
「食べる」
私は弁当箱を少し引いた。
「何。そんなに守らなくても取らないって」
「葉子にはいつもあげてるのにね」
真帆が言った。
「交換だから」
「同じじゃない?」
「違うよ」
少し強く答えてしまった。
二人は顔を見合わせたが、すぐ別の話題へ移った。
私は唐揚げを口へ入れた。
いつもと同じ味なのに、何かが足りない。
たった一日、別々の教室で昼を食べただけだった。




