第4幕 君が知らない物語。①
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目が覚めると、知らない天井が見えた。
──何だか、こんな感じの台詞がある物語がなかったか?
そんな頓珍漢な事を考えながら目線を彷徨わせていると、不意に視線を感じた。
気配の先を探せば、20センチほど空いた扉の隙間から、縦に4つ顔が並んでいる。
そのうちの1人と目が合うと、他の者も一斉に目を見開いたのちに逃亡された。
アッと言う間に、ドタドタと走る足音が遠ざかる。
そして入れ違うように、先ほどとは違う顔ぶれの男性が3人現れた。
「お。起きたかぁ?」
最初に声を掛けてきたのは、自分を助けるために剣を振るってくれた灰髪の男だった。
少し間延びして、どこか気の抜けた喋り方をしながら笑う彼に、あの場所で見た姿とのギャップを感じて、思わず驚いてしまう。
「え……っと、あの……すみません」
若干の焦りと緊張。
そして、何処からともなく湧いてくる、途轍もない申し訳なさ。
そんなゴチャゴチャした感情に振り回されながら、慌てて身を起こそうとするが、体には思った以上にガタが来ているようで、素早く姿勢を正す事は不可能らしい。
だとしても、だ。
寝そべったままで、恩人に挨拶するのも如何なものかと思い直す。
その結果、清寿はぎこちなく滑稽な動きで、重く軋む身体をなんとかして起こし、彼らの方に身体を向けて座り直した。
清寿の、そんな突拍子もない仕草がおかしかったのか、3人は苦笑を浮かべていた。
だが、懸命さだけは汲み取ってくれたようだ。
「びっくりしたぜ。アンタ、あのまんま寝ちまうんだもんなぁ」
彼は、そう言いながら軽く笑う。
助けられた直後の行動も、今の清寿の行動も、彼らには想定外だったと言う事だ。
そんな彼に清寿は「その節は、ご迷惑を」……と、頭を下げながら言い掛けたが、
「現在進行形でご迷惑掛けていますね。……誠に申し訳ありません」
そう言い直して、さらに頭を深々と垂れた。
案の定と言うか何と言うか。あの後、御多分に漏れず襲われかけた。
本物を見た事がないので憶測ではあるが、あれが多分『山賊』とか『ならず者集団』とか言うヤツなのだと思う。
馬車が見えなくなって暫く、黒い森からワラワラと人と馬が湧いてきた。
保護先の関係者ではない。それは見た目で一目瞭然だった。
……いや、あの風貌で『小ミリヤド公国の役人です』と言われても、それはそれで別な意味での不安材料にしかならないのだが。
とにかく、屈強で小汚い大男どもが『ヒャハー!』とか何とか、叫声と共に押し寄せて来たのだ。
──あっという間に、ゲームオーバーか。
清寿が、何処か他人行儀な思考で、その光景を眺めていた時だった。
轟音と巨大な火の玉が清寿の目の端を通り抜け、あと数十メートルの所まで迫っていた男どもの先頭一団を、爆音と共に吹っ飛ばした。
後続の阿鼻叫喚と、タンパク質が焦げた匂い。
そして、黒く抉れた地面と、白い世界に散らばる赤の彩り。
その光景は、あまりにも非現実的で、まるでファンタジー映画のワンシーンを見ているようだった。
自分の死角から飛んで来る怒号と、馬の嘶き。
風と共に駆け抜ける馬が2頭。
その馬に跨っている男性は、剣を大きく振りかぶり、集団に臆せず突っ込んで行く。
そして鈍色に光る剣は、容赦なく振り下ろされた。
──ああ。飛び散る赤が、やけに鮮やかだ。
それ以外に感想が出てこない。
頭が正常に動かない。まさに、思考回路はショート寸前だ。
「兄さん。アンタ、こんな所で何しよるんな」
突然降って来た声の方に顔を向け、何か返事を返さねば……と、思った瞬間に、世界が暗転した。
ここから記憶は完全に途切れる。
次に気がついた時には、知らない天井が広がっていたのだ。




