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ハズレ召喚者Re:ライフ 〜異世界ほのぼの生活(仮)〜  作者: 四方末いそじ
第1章 召喚されたのにハズレだった。

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第3幕 Time to Say Goodbye


ー◇ー◇ー◇ー


「此処から先は、(しょう)ミリヤド公国の領土になりますので、我々が無闇に立ち入る事ができません」

 

 清寿が降ろされた場所には、雪深く、凍てつく世界が広がっていた。

 鼻先と耳が、ジンジンとして痛い。

 吸い込んだ空気は、肺を凍らせそうな勢いで冷たく、まるで冷凍庫の中に放り込まれたようで、清寿の心まで凍らせていく。

 

 少し先にある壊れかけた石壁は、役割を果たせず物悲しく佇み、その後方に見える、雪を被った木々が連なる黒い森が、否応なしに黒い予感を連れて来る。

 来た道を振り返れば、荒野と遠くに(そび)える山々。

 雪が音を消しているのか、時折聞こえる鳥の鳴き声がやけに耳につく。

 

 何だか、モノクロームの風景画にでも迷い込んでしまった気分だ。

 それだけ、人の行き来はおろか、営みを感じる事ができない。

 綺麗だが、得体の知れない物寂しさを含んだ景色が広がっている。

 

 ──こう来たか……


 清寿の眉間にシワがよる。予想以上の状況である。


 窓の一つも無い、貨物コンテナのような車室。

 車内には、薄ぼんやりとしたランプの灯だけ。

 罪人用の護送車と言われても、素直に納得する空間だった。


 そこに荷物と一緒に詰め込まれ、有無を言わせずここまで運んでこられた。

 何処をどうやって、どれくらい移動して来たのかは分からない。

 持っていたスマホの充電も既に切れている。時間感覚など皆無なのだ。


 だが、向こうには積雪は無かった。気温もこれほど低く無かった。

 だから、随分と遠くへ運ばれてきたのかもしれない。

 ーーただ、ここが何処か分かった所で、今の清寿には大して役に立ちそうにないのだけれど。


「受け入れ先の小ミリヤド公国領主には申達(しんたつ)しております。大変申し訳ございませんが、迎えが来るまで、ここでお待ち頂きますよう」

 その言葉には、誠意も申し訳なさの欠片も感じられない。

 指示された通り『とりあえず言っておく』が滲み出る態度に、思わずため息が溢れる。

 

「もし、ここで待つ事がお嫌でしたら、自ら指定都市に出向いて、そこで迎えをお待ち頂いても構いません。この道を辿れば指定都市に着きます。そこには役場がありますので、役場に領主への取り次ぎをお申し出下さい。尚、……」

 黒い森にぽっかり空いた入口方向を指差しながら、棒読みの言葉は続く。


 ーー言っている内容が、実に鬼畜過ぎる。

 要は『ここまでしか送らないから、後は自力でどうぞよろしく』と言う事だ。

 御託を長々並べても、肝心な中身はスッカスカ。真面目に聞く価値もない。


 ──ここまで雑な扱いは、正直言って如何なものだろうかと思う。


 あの綺麗な白亜の監獄で数日を過ごし、ある日突然、外に連れ出された。

 相変わらず説明になっていない説明を受け、用意を急かされ、流れ作業のように馬車に詰め込まれた。


 そして今の状況が、彼らが出した答えと言うワケか。

 

 ──お粗末にも程がある。


 仮にも清寿が被害者なはずなのに、あまりの仕打ちではないだろうか。

 その上、彼らは清寿の安全などまるで考えてはいない。

 恐ろしい事に、土地勘がない事など明白な状況で、相変わらず雑な説明だけして、何処とも分からぬ場所で放置しようとしている。


 しかもご丁寧に、清寿の私物を隠すようにして、あからさまに金品が入っている事が分かるような荷物を、ソリの1番目立つ場所に乗せてくれる親切極まりないオマケ付きだ。

 用意してくれた被服だって、あからさまである。

 防寒の役目があるとは言え、上等な毛皮を着せられて、いかにも『金持ちでござい』な見た目になっている。


 ──これは鴨に葱どころの騒ぎでは無い気がする。


 鍋も薪も一式背負って、まるで『襲ってくれ』と言わんばかりの状況で、この辺鄙な場所に放逐しようとしているのだ。

 もはや、正気の沙汰ではない。


 ──むしろ、本当に襲ってくれる事を願っているのだろう。


 金品を持たせて放逐すれば、不穏な輩に目をつけられ易い。

 しかも、そこそこの大荷物で身動きも取りにくい。

 挙げ句の果てに、清寿は今から先は1人になる。

 そうなれば、相手が一般人でも複数人で来られれば、どう足掻いたって勝ち目など無い状況だ。

 

 まだ言えば、清寿自身、身を守る術も恩恵も持っていない。

 まさにそれが理由で、この様な放逐劇に追い込まれているのだから。


 それに、襲ってくるのは、何も人間だけでは無い。

 普通に考えても、野犬や害獣、肉食動物だって充分に脅威になり得る。


 ──だったら、荷物を捨てて逃げたとしても意味は薄い。


 しかも今は晴れているが、この雪と寒さだ。

 防寒着は恵んで貰ったとは言え、雪に慣れていない者が、この状況でアテもなく動くのはあまりにも無謀過ぎる。


 ──確実に殺しにきているじゃないか。


 要は、不要な召喚者を、自分たちの手を汚す事なく、何かが始末しやすいように、完璧なお膳立てをしてくれた。……と。


 つまり、ここから先は死出の旅。

 進んでも、ここで迎えを待っていても、命の保証は全く無い。

 ミシミシと音を立てて、心が軋む。


「……かしこまりました。ありがとうございます」

 清寿は、そう絞り出すのが精一杯だった。

 清寿の顔色で何かを察したのか、バツが悪そうな表情で兵士は手短に別れの言葉を述べ、雪がちらつき始めた中、そそくさと踵を返した。

 

 多分、彼らが見えなくなった後、カウントダウンは始まる。

 嫌な勘は外れて欲しいとは思うが、こう言う場合の勘は往々にして外れた試しが無い。

 だったら、ここが清寿の死に場所になる。


 清寿は目を瞑って大きく息を吐いた。

 ここに来て、何度目のため息だろうか。ため息を吐き過ぎて、もはや逃げる幸せも残ってなさそうだ。

 覚悟を決めたとか、そう言うことではなく。あるのは絶望感と虚無感。

 召喚直前の気持ちと似ている。


 ……いや、あの時はせめて『どうやって生きていこうか?』とは思っていたが、今はそれすら思うことが出来ずにいる。

 気力と思考が完全に死んでいる。

 

 『このまま全てを手放せば楽になる』

 脳内回路を動かそうとするたびに、ノイズと共にその選択肢が浮かんで、消えてくれない。五感すら、徐々に沈黙し始めた。


 包む静寂が冷たくて、痛い。

 清寿は馬車が遠去(とおざ)かるのを、ぼんやりと眺めるしかできないでいた。

 

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