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ハズレ召喚者Re:ライフ 〜異世界ほのぼの生活(仮)〜  作者: 四方末いそじ
第3章 ハズレ召喚者、思い立つ。

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第14幕 前哨Second Push。⑤


「ん! これも美味しーい!!」

 ポテトサラダを頬張ったアズが、頬に手を当て、オーバーリアクションで身体を捻った。

 キュッと瞑った目は、嬉しそうに綺麗な弓形をしている。


「凄い……確かに魔法みたいだな……」

 口の端を汚したまま、セディが惚けながら呟いた。

 彼の皿にはジャガイモのガレットとタルタルソース。呟いた後に、夢中で頬張り出した。

 どうにもその組み合わせが、甚く気に入ったようである。


「本当だ! このイモ、パンに乗っけて食っても美味いぜ!」

 ユルは清寿のオススメに素直に従ったようだ。

 硬いパンに、てんこ盛りのポテトサラダ。

 ガブリと豪快に齧り付いて、これまたエールを豪快に流し込む。


「何かもう、訳分かんないんだけどぉ?」

 グレイスは首を傾げているが、手は止まらない。

 困惑しながらも、エールと玉ねぎのマリネを交互に口へと運んでいる。


 先ほどまでとは違う賑やかさが、この場にまた降り積もる。

 なんだろうか。大人数のせいなのか、方舟の特性なのか。

 まるで回転灯籠のように、くるくると目まぐるしく空気が変わっていく。


 ──タイミング、なかなか難しいな。


 清寿は目の前の光景を見て、笑いながら小さく短く息を吐いた。

 組織生活には慣れている清寿ではあるが、集団生活には不慣れである。特に、こんな大人数の。

 新鮮さはあるものの、タイミングが色々と上手く掴めないでいた。

 まるで、大縄跳びに上手く入れず、少し離れた場所から眺めている気分である。


 ──まぁ、なんだ。異世界云々より、集団生活に慣れる事が優先か……。


 ここが標準的かどうかは計りかねるが、それにしたっての話なのだ。

 会社なら、家に帰ってしまえば、強制的に終わりなのである。

 けれど、ここでは『おはよう』から『おやすみ』までが、社会生活としてパッケージされている。

 しかも、清寿の予想だにしない方向に会話が転がり続け、挙句に着地点も見えない。

 加えて新参者の清寿だから、どのタイミングで、どこまで何をどう線引きをすれば良いか。そこが見極めきれずにいるようだ。

 

「こちらも合格点が貰えたようで何よりだよ」

 ただまぁ。だからと言っても、急いては事を仕損じる。

 今日の着地点は、結局これに尽きるだろう。清寿は、そこで区切りをつけたようだ。

 何事も、一朝一夕にはいかないのだから。細かく刻んで、慣れていくしか道はない。


「てか……イモって、こんなに美味い食い物でしたっけ?」

 ほら、こうやって思ってもいない方向に会話が転がる。

 眉間に皺を寄せたアーリーが、苦情のような言い方で、褒め言葉のようにも聞こえる言葉を零した。


「だよね? いつも食べてるのって、表面がベチョっとしてて、中身はゴリゴリじゃない?」

 セディが『魔法』と言葉を放った根拠だろうか。

 相変わらず口の端を汚したままで、心底不思議そうな顔をしながら、目の前のガレットをフォークで突いている。


 だが、セディが言う事はもっともで、今までの食卓に並んだジャガイモは、考えなしに調理されていて、『料理』とは言い難い物がほとんどだった記憶なのだ。

 

「ホント、ごめんね〜」

 エヴァが苦笑いを浮かべて、バツが悪そうに謝罪を口にする。

 食事の用意を担っているのはエヴァだから、どうにも耳が痛かったようである。


「エヴァがどうこうじゃなくて、街で買っても大差ないだろ?」

 ナイフとフォークを使って、ガレットを綺麗な所作で食べているアルが、サラリと口を挟んだ。

 これもまた、ごもっともな意見であろう。

 本当に、店で買ってきたと言っても、格段に品質が上がるわけじゃなし。エヴァの調理に毛が生えた程度の料理でしかないのだから。


「まぁ、実際そうなんだよね。てか、ジャガイモって、今までそう言う食べ物かと思ってたし」

 レニーはそう言って笑っているが、内容はわりと恐ろしい現実だ。


 ──……なん、だと?


 清寿は、心の中で頭を抱える。

 どこの出身か分からないレニーだが、少なくとも今までの状況に、何の違和感も覚えず過ごしている地域が実在していると。

 ともあれ、清寿の知っている『当たり前』とは、何かが決定的に違う事は確定だ。


「まぁ。少なくとも中央で食べていた時は、ジャガイモが常にゴリゴリしてた記憶はないんですけどね」

 アルの言葉で、基準点が余計に霞み始める。

 中央、つまりは『ミリヤド帝国』とも基準が違うのだろうか。

 それにしたって、味の評価より、ゴリゴリかそうじゃないかが論点なのが嫌過ぎる。

 

「そうなんか! ミリヤドじゃ、そう言う食い方する芋か思うとったわ!」

「ワシもじゃ。アマハラじゃ、芋と言えばサツマイモじゃしのう。こっちに来て初めて食うたけぇ、正解は知らんかったしの」

 料理と酔いが手伝って、故郷の事でも思い出しているのだろうか。セロの細めた目は、随分と優しく遠くを見ている。


「なぁ。俺もや。ジャガイモ、こっちに来て初めて食べたし。変わったお芋さんや思うとったわ」

 と、クオンも昔を思い出したのか、ケラケラと楽しそうに笑っている。

 しかし。望郷も、追憶も微笑ましく思うが、言っている内容で別の不穏が加速した結果なのだけれど。


「俺だって、凄く衝撃的でしたよ」

 ラフィも何か思い出したような表情だが、こちらはあまり良い思い出ではないようで。

 随分と苦々しい顔で、大きなため息と一緒に言葉を溢した。


「まぁそもそも、貴族はジャガイモなんかの土物を食べる事もないだろう?」

 アルが茶化すようにフフフと柔らかく笑う。

 インテリ眼鏡に、落ち着いた優等生な面持ち。

 アルは、四角四面の冷笑系タイプかと思いきや、先程の機転と言い、仕事の出来る生真面目なタイプなのだろう。ならば、清寿とのビジネスライクなやり取りは、距離感の見極めだったのかもしれない。


「いやまぁ……そうなんですけど。……それを差し引いても、正直言ってこの街の料理自体が酷すぎます」

 ラフィが眉間の皺を深くして、ため息をもうひとつ。

 言い淀んだが、言わずにはいられなかったのだろう。言ってしまったついでとばかりに、強めの言葉も付け加えた。

 そんなラフィの返答に、アルは笑いを噛み殺している。


 けれどもしかして、今のやり取りから察するに、料理の前提にも格差が関係しているのだろうか。

 益々清寿の混乱が加速する。

 兎にも角にも、街の料理が酷い事も確定した。あとは、貴族がジャガイモを常食しない事も、概ね確定のようではある。

 

「でも、今度からは安心してよ」

 道具の整理が終わったエヴァが、席に着きながら嬉しそうに口角を上げた。

 清寿から促されて、遅ればせながら食事の輪に加われるようだ。

 

「え? エヴァ、どうしたの?」

 メイビーがイリーニャ越しに顔を覗かせていた。

 嬉しそうに意味深な言葉を口にしたエヴァの事が、どうしても気になったらしい。

 メイビーもエヴァの機嫌につられたのか、顔が柔らかく綻んでいた。


「ジャガイモの茹で方、教えてもらったんだ。だから、今までよりちょっとだけマシになるはずだよ」

 少しだけ誇らしげに。けれど、控えめにエヴァが答えた。

「え? じゃあ、エヴァはコレを作れるって……」

 そこにすかさずレニーが割って入る。

 今日の食卓を見渡しながら、期待に胸を膨らませたのだろう。


「そこは無理かな。今は、茹でジャガイモがどうにか、って感じだよ」

 てへへ。っと、悪戯に笑って見せるエヴァからは、いつもの劣等感が鳴りを潜めている。

 軽口を返せる余裕は、成功体験が背中を少しばかり押してくれたおかげのようだ。


「ですよねー!」

 聞いたレニーとて、答えは分かっていたのだろう。

 だが、分かっていても、見えた光が口を突いたと言う事だ。

 だけど今日の食卓は、それだけ特別な意味を持ったと言う事でもある。


「でも、茹でジャガイモは美味しくなるって事だろ? 良い事じゃねぇか!」

「はぇぇ、そっか! エヴァ、凄いやん!」

 ガハハと笑うアヴィと、輝かせた目をエヴァと向けるスゥの言葉に、パラパラと賛同の声が上がる。

 確かに、進捗で言えば些細な事だが、それでも大きな革命だ。その事実が喜ばしい。

 

「違うよ。凄いのはキヨさんだよ」

 思った以上の反応だったようで、エヴァは少し照れながら小さく身を捩った。

 それでも、尻尾がブンブン揺れている幻覚が見えてきそうなオーラがそこにある。

 

「キヨ。オメェ、本当に凄ぇなぁ!! こんな有能なヤツ手放した中央は、残念だったな!!」

 アヴィは再び「ガハハハハ」と愉快そうに笑った後、エールを豪快に飲み干した。

 他の者も飲んだり食べたりと忙しそうだ。ーーまぁ、清寿だけは、若干置いてけぼり状態ではあるが。

 けれど、思った以上の手応えに、清寿の心はまた少しだけ軽さを増した。


「でも、材料が一緒なのに、これだけ色々と出来るんですね」

 取り分けて貰った料理を口に運び出したエヴァも、目を輝かせて咀嚼している。


「喜んで貰えて嬉しいよ」

 最後の1品、スパニッシュ風の出汁入り卵焼きも焼き上がり。

 清寿は皿の上に乗せてから、一口サイズに切り始めた。

 ぼーっとこの景色を眺めている間に、少しだけ焼き色が強くなってしまったが、焦げてはいないのでご愛嬌と言う事で。


「これが最後の品だよ。これで今日の料理は終わり」

 切り分け、盛られた皿を差し出しながら清寿が静かに笑う。

 反応を見る限り、どうにか体裁は繕えた。プレゼン終了まであと少しの心境だ。


「うっわ! また、違う料理が出てきた!」

 さっきの卵焼きよりちょっと豪華になった1品に、レニーの笑顔が弾ける。

 

「もう少し食材の種類があれば、また違った物も出来るんだけどな」

 清寿はサラリとだが、自己アピール代わりの言葉を添える事も忘れない。


 何せ、先ほどエヴァが言った通り、今日の料理はジャガイモだらけではある。

 あとは卵と玉ねぎ。味付けも塩と酢、そして砂糖が少々。

 出来る限りの全力を尽くしてみたものの、今日の材料ではこれで限界だ。

 それでも、次があるなら、そこに繋がる足場は作っておくに越した事はないのだから。 


 グレイスは清寿の言葉に、はたと目の前の皿に視線を向ける。

「こんだけでも、充分だよぉ。……それに悪いなぁ、俺たちばっか先に食って」

 ほとんど空になっている皿を見ながら、への字口でポリポリ頭を掻いた。


「いや、それで良いんだよ。こう言う料理は、出来立てが美味いんだから」

 静かに椅子を引き、清寿も再び食卓へと加わった。

 清寿の言葉は優しさを装っているが、本当は結果を出すことに精一杯だっただけである。

 結果を残さねばならぬ一世一代のプレゼン中に、余裕など全くない。


 そうじゃなくても脱線脱線、また脱線の連続だったのだから、着地点を探す事が最優先で、腹を満たす事など二の次だ。

 故に、今の清寿は『安堵でお腹が一杯』と言った状態だった。


引き続きのお付き合い、感謝御礼申し上げます。


さて、投稿日時の修正です。

少しストックの余裕ができましたので、

当初予定の

【毎週金曜 21時10分】

に、加えて

【第2、第4土曜日 21時10分】

の、投稿追加をしたいと思います。

何卒、今後もお付き合い宜しくお願い致します。


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