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ハズレ召喚者Re:ライフ 〜異世界ほのぼの生活(仮)〜  作者: 四方末いそじ
第3章 ハズレ召喚者、思い立つ。

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第14幕 前哨Second Push。④


「キヨさん。卵、混ざりましたよ〜」

 エヴァの声で清寿は我に返る。

 エヴァはこの茶番劇を横に、着々と作業を続けていたようだ。

 そして作業の区切りを知らせる声に、止まった時間が再び動きだした。


「じゃ、今度はこっちの作業を手伝ってくれるかな?」

 清寿は眉毛を少し下げて、エヴァへと申し訳なさそうに笑いかける。


 そう。ここから先はテンポ良く、作業をこなす必要がある。

 清寿自身が宣言した時間がタイムリミット。多分、それ以上は間が持たない。

 今ここで興が醒めてしまっては、折角の好機が台無しになってしまうだろうから。


 そんなこんなで、エヴァには悪いが、最後まで付き合ってもらう事にしたようだ。


「はい。どれからいきます?」

 けれども、返ってきた声音は朗らかだった。

 どうにも、頼られた事が満更でもなかったようで、くすぐったそうにエヴァは笑う。

 

「玉ねぎを炒めようか。もう一度、お手本を見せるから、そのあと引き継いでもらっても良いかな?」

「はい!」

 けんもほろろに断られる事はないと分かっていても、答えを聞くまで不安である。

 エヴァの明るい返事に、清寿は安堵の息をこぼした。

 

 それでは早速作業に取り掛かろう。


 まずは、よく熱したフライパンに油をひと回し。

 そこに微塵切りにした玉ねぎを投入すると、ジャワワと音を立て油が小さく跳ね踊る。

 それから中火ゾーンに置き直し、塩をひと摘み。

 甘味を引き出し、効率的に仕上げるための小さなコツである。


 そこから少し放置して、淡い焼き色が付いたら全体を混ぜて広げる。

 また少し放置して、再び焼き色が付いてきたら全体を混ぜて広げる。

 透明を過ぎて淡い黄金色になるまで、しばらくそれの繰り返し。

 焦げ付かないように、混ぜすぎないように。ゆっくりじっくり火を通す。


 徐々に立ち込める、少し甘くて香ばしい匂い。

 食堂に漂う優しい空気が喧騒を覆い、柔らかな静けさを連れてくる。

 今聞こえるのは、調理の音と小さな会話。


「こんな感じで炒めててくれるか?」

 清寿は最初の方だけ手本を見せて、続きをエヴァに任せる事にしたようだ。

 嬉しそうに返事をしたエヴァは、手帳を見返しながら一所懸命に作業を進める。

 そんなエヴァの作業を横目で見ながら、清寿は必要な鍋やフライパンを並べ、並行作業を始めた。


 包丁が食材と共に、心地良いリズムを刻む。

 時折聞こえる金属音が、良いアクセントになっている。

 

 櫛切りにした玉ねぎを、弱火でゆっくり揚げ焼きに。


 ジャガイモは千切りにして、荒微塵のベーコンと塩で味付け。

 それをフライパンに敷き詰め、多めの油で蒸し焼きに。

 ただ、合う蓋がなくて代用した木板は、すこぶる不恰好だ。

 けれども用は足りているので、今日は些細な問題だと割り切る事にした。


 合間を縫って、マリネ液とドレッシングも作っておこう。

 胡椒がないのは、諦める。その代わり、砂糖を少し多めに入れておく。


 最初の料理ほど、鮮烈な香りの洪水はない。

 けれども、今度は淡く暖かな空気が満ち溢れていく。


 ピチピチ、パチパチ。小さいながらも、油の爆ぜる音が心地よい。

 沸騰した鍋の中で揺れる卵は、微かだが小気味の良いステップを踏んでいる。

 食材たちが幸せの音を奏で、湯気と香りがふんわりと穏やかな帷を下ろしていった。


「ふぁぁ〜。良い匂いしてきた〜」

 アズは目を閉じて鼻から息を思いっきり吸ったあと、うっとりとした表情を浮かべた。

「ねぇ〜。絶対に、美味しい匂いだよね〜」

 イリーニャはスンスンと鼻をヒクつかせたあと、パァッと目を輝かせる。

 チラホラ他の者も、静かな香りを堪能するように息を吸い込むと、顔を綻ばせて頷いていた。


「上がった分から出していくから、食べてくれ」

 一品目の出来上がりまであと少し。

 概ね好意的な反応に、清寿の顔も僅かに綻んでいる。


 ほんのり香ばしさをまとった揚げ焼きの玉ねぎを、マリネ液の入ったボウルに放り込んでいく。

 ジュっと小さく音をたて玉ねぎが沈み、自身の熱をマリネ液に移して酢の香気を僅かに強めた。

 その香りにエヴァの動きが少し止まり、鼻が小さく反応する。


「少し冷めるが、エヴァの分は避けておくから、後で食べてくれ」

 手伝わせている事は申し訳ないと思いつつも、素直な反応がおかしくて、清寿はついつい笑みを零してしまう。 

「大丈夫です!!」

 エヴァは、えへへ、と少し恥ずかしそうに笑って、誤魔化すように元気よく返した。


 そうこうしているうちに、千切りジャガイモはこんがりと濃い狐色。

 くるりとひっくり返しバターを足したら、上にチーズをたっぷり乗せて、再び蓋をする。

 バターとチーズの少し焦げた香ばしさが次第に加わり、鼻先をくすぐる空気に花を添えていく。


 その間に、また次の作業。

 マリネ液が入ったボウルの中の玉ねぎを手早く和え、少しの時間馴染ませる。

「もうすぐ、2品出来上がるよ」


 千切りジャガイモもそろそろ頃合いだろう。

 様子を見るために木板を外すと、バターとチーズの香りが一段濃くなる。

 食材の湯気で一緒に蒸された木板が、微かに芳香を移して、思わぬ彩りを加えてくれた。


 ついでだから木板には、まな板の代わりも担ってもらおう。

 何せこのままでは分けにくい。

 と、いう事で、焼き上がったジャガイモは一旦木板の上に鎮座していただく。


 優しく芳しい空気が、食堂の中に柔らかく舞う。

 さて、第一弾の料理は完成だ。

 一度で全部焼けなかったから、残りの材料で同じ作業を繰り返さねば。


 大きく丸く焼けたジャガイモは、何ちゃってのガレット風。

 慎重に包丁を下ろすと、サクッと良い音を放つ。

 格子状に切り分け、そこから空いた皿に分けていく。


 まぁなんだ。今更『給食スタイル』への変更は無理だろう。

 今日は潔く失敗だと割り切って、今後があれば活かそう。……まぁ、今後があれば、の話だが。


「エヴァ。別に平皿が欲しいんだが、どこに置いてある?」

 本音を言えば、洗い物が増える事は喜ばしくない。

 だが清寿は、それを差し引いてでも、玉ねぎマリネの水分がどうしても気になってしまったのである。


 だって、折角カリカリに焼き上がったガレットだもの。

 それをマリネと一緒に皿に乗せて、この食感を捨てる選択はしたくない。


「ほな、俺が持ってくるわ。他に要るもんある?」

 ガガっと椅子を鳴らし、スゥが勢いよく立ち上がる。


「ありがとう。少し大きめの皿だと嬉しいな。あと、シチュー用の深皿が有れば、それもお願いしたい」

 仕事モードに傾いている清寿には、やはり『遠慮』と言う文字の存在が希薄なようで、ついでとばかりに頼み事である。

 それをスゥは笑顔で請けて、「あいあいさー」の言葉と共に食堂を後にした。


「パン、もう少し切っておこうかな……」

 レニーが少し取り繕うように声を出す。

 レニーの目の端には、ちょろりとフレームインしたリッカの顔が、ニラニラと狐の笑みを浮かべているが、気付かないふりをしてそそくさと席を後にする。


「ああ、お願いして良いかな? 今から仕上がる分は、パンに挟んだり、乗っけて食べても良いと思う」

 そう言って笑う清寿に、少し決まりの悪そうな笑みを返したレニーの後を追うように、メイビーとセディが追いかけていった。


「キヨさん、こんな感じでどうでしょう?」

 エヴァは少し心配そうな顔で、清寿の判定をまっている。

 フライパンから立ち昇る、まろくて甘い香り。

 飴色まではいかないけれど、艶やかな黄金色が品よく平らにならされていた。

 

「あぁ、完璧じゃないか。助かったよ」

 清寿の言葉に、エヴァは安堵の笑顔を咲かせた。

「これ、次はどうしたらいいですか?」

 成功体験は、自信と積極性を連れて来る。

 この瞬間のエヴァの瞳からは影が消え失せ、曇りのない明るさで輝いていた。


「玉ねぎは、少し冷ましてから卵液に加えようか。それまで、他の作業も手伝ってもらえるかい?」

 清寿は、エヴァの小さな変化を感じ取ったようである。

 先ほど感じた申し訳なさには封をし、信用のおける助手として物を頼む事にしたようだ。

 エヴァの顔には弾ける笑顔。そして明るい声が返ってきた。


 そんなエヴァに、清寿は理由を添えながら幾つかの指示と小さな頼み事。

 エヴァは少し誇らしげに踵を返すと、テキパキと作業を始めた。


 清寿の指示通り、ベーコンを荒く刻んでいく。

 多少のばらつきは、かえって食感のアクセントになる事だろう。


 最初の油は入れなくて結構。

 方舟にある安物ベーコンには、脂身がたくさん付いているのだから。


 火加減も教えた通り。

 冷めたフライパンにベーコンを満遍なく広げ、弱火でじっくり火を通す。

 脂が溶け出し、芳ばしい香りが漂って来る頃に、中火に移して表面に少々焦げ目を付けていく。


 清寿はエヴァの作業を横目で時々確認しつつ、自身の作業も進めていく。

 

 茹で卵を剥いて、チーズは小さな賽の目切りに。

 ポトフのジャガイモとニンジンはボウルに取り出し、粗く潰す。

 今日は綺麗に潰さない。粗めに仕上げて食感を楽しむ寸法だ。

 そこにドレッシングと、隠し味の砂糖を少々加えて混ぜていく。


「もう良さそうですが、焼き上がったら皿に盛りますか?」

 エヴァは状況を測りながら、清寿に確認を仰いだ。

 ピチパチ、ジュジュっと鳴くベーコンは、こんがり焼けて美味しそうだ。


「いや。後もう少し、そのままで待ってくれ」

 清寿はそう言いながら、ボウルの中にカットしたチーズを入れて、手早くさっくり混ぜていく。

 その作業を終えたのち、エヴァに頼んで焼いたベーコンを脂ごとボウルに入れてもらった。

 それを再び軽く混ぜ合わせた後、マヨネーズを加えて、茹で卵の半量を潰しながら、ザックリサックリ混ぜ合わせていく。

 ポトフのジャガイモをリメイクした『ポテトサラダ』の完成である。


「何か、アッちゅう間に、めっちゃ美味そうなんが出来っとるやん!!」

 皿を抱えて戻ってきたスゥが、キラキラと目を輝かせて感嘆の声を上げた。

 他の者も既に目が釘付けで、スゥの言葉に笑いながら賛同している。


 清寿はその光景に小さく笑みを溢す。

 それから、ガレットとポテトサラダは新しい平皿へ。

 焼き玉ねぎのマリネは深皿へ。

 一応の見栄えも気にしながら、分けて綺麗に盛り付けていく。

 勿論、エヴァの分を取り分けておく事も忘れずに、だ。


「そのままでも良いが、パンに付けて食べても結構いけるぞ?」

 そう言ってポテトサラダを差し出すと、最初と違って我れ先にと一斉に手が伸びてくる。

 

 そうして始まる新たな喧騒。

 けれど、その喧騒は少しだけ温かで、柔らかいものに変わっていた。

 

 その空気を少し眺めてから、清寿は再び作業に取り掛かる。

 温度が落ち着いた黄金色の玉ねぎを卵液に加え、ポトフの豚肉を微塵切りにしたものとスープも一緒に加えて、フライパンへと流し込む。

 あとは卵に火が通るのを待つだけだ。


 それが終わったら、マリネ液に漬けておいた微塵切りの玉ねぎと残りの茹で卵、マヨネーズを使って、簡易のタルタルソースも作っておく。

 これで、卵が多めの簡易タルタルソースも完成。


 まぁ、タルタルソースに限っては、何に付けて食べるのか具体的に決めて作ったわけではないのだけれど。

 何に付けても構わないんだから、あっても邪魔にならないはずだ。

 ただ、多めに作ってしまったから、残った時は保存法を考えないといけないが、まだ夜間の気温が一桁台まで下がる気候だ。

 それなら、なんとかどうにかなる気がしなくもない。


 ──それに、最悪はマリィの薬で……。


 そんな言葉が清寿の頭を過った。

 半分冗談で、半分真面目。

 余裕なのか、開き直りかは推測しかねるけれども、細かい事は後にして、目の前に注力すると決めたようだ。


 タイムリミットまであと少し。

 清寿はラストスパートとばかりに、作業を早めた。

9月から週1の投稿になります。

今後も引き続きお付き合いいただければ幸いです。

よければ、ブクマ等も励みになりますので宜しくお願い致します。


次回の投稿は9月5日(土) 21:10の予定です。

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