↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハズレ召喚者Re:ライフ 〜異世界ほのぼの生活(仮)〜  作者: 四方末いそじ
第3章 ハズレ召喚者、思い立つ。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/56

第13幕 ドキドキFirst Time。④


「全然ダメじゃん!」

 レニーはクワッと目を()き、小憎ったらしい笑顔を浮かべた2人に噛み付くように口を開いた。

 だが、そんなレニーの抗議も虚しく、当の本人たちはゲラゲラ、うふふ、と満足そうだ。

 その反応に、レニーは益々顔の中心に皺を寄せる。


「ほうじゃが、そこは心配しなさんな。この偉大なる薬法の魔女、マリィ様がおるんじゃけぇ。安心して、腹下しんさいや!」

 そう言って、マリィはドヤ顔ともゲス顔とも取れる表情を浮かべた。

 しかしながら『安心して腹を下す』とは、これ如何(いか)に。

 自信に満ちている事は理解できたが、言っている事は(はなは)だ理解し難い。


「ええ。マリィさんのお薬は、ほんに良う効きますからねぇ。2、3日の辛抱ですよ」

 リッカの方は冗談なのか、はたまた本気なのか。

 言葉からマリィの実力は垣間見れたが、こちらも理解に苦しむ内容である。


「だから! それを言われて、どうやって安心したらいいんだよ!!」

 然もありなん。レニーの反応は当たり前。

 その証拠に、大半の者が同調して頷いたり、がっくりと肩を落として長いため息を漏らしていた。

 ファーストペンギン云々で誘導しようと目論んだ清寿も、この流れには苦笑いしか出ない。

 何はともあれ、一筋縄ではいかないようだ。


「せやけどな。話のネタにはなるやろ? せやったら、良い経験と思わんか?」

 マヨネーズを付けた玉子焼きを頬張りながら、クオンが首を捻る。

 柔らかい笑みを浮かべて、そんな事をサラリと言ってのけた。

 なるほど。流石はリッカの兄である。ーーただし、こちらは随分と『天然』寄りではあるが。


「意味が分かんねぇ……何で戦場でもねぇのに、腹壊す前提で、わざわざゲテモノ食わなきゃいけねぇんだよ……」

 アーリーが苦々しい顔でボソリと吐き捨てた。

 彼の言う事は至極真っ当な事であろう。

 何せ彼らにしてみれば、マヨネーズは今の流れで『怪しげな材料で作られた、腹を下すかもしれない食べ物』にレベルアップしてしまっているのである。


「『当たるも八卦、当たらぬも八卦』言うやないか。些細な事気にしたら損やで?」

 そんなアーリーに爽やかな笑みを向けながら、クオンはズレた助言を放つ。

 言いたい事は何となく理解できる気がするが、完全に言葉選びを間違っている。


「……阿呆が。使い方間違っとるわ」

 ほら見た事か。流石に黙っていられなかったのか、隣でマサムネが舌打ち混じりに語尾を強めた。


「てかさぁ。西方地域って『ゲテモノ喰い』って聞いてたけど、マジなんだ……」

 怪訝な顔のまま、レニーはくるりと周囲を見渡した。

 今、マヨネーズに手を伸ばしているのは、西方出身者と公言している5人だけ。

 レニーの言葉を裏付けるように、エヴァを除くほとんどの者は、その光景を『信じられない』と言った顔で遠巻きに観察している。


「で、でも……本当に美味しいんですよ?」

 空気の居た堪れなさに、エヴァがオロオロとしながら言葉を発した。

 味わう以前に()ぎった不安や忌避感があった。故に、彼が抱く感情は分からなくもない。

 されど、自身が受けた感動に間違いはない。ーーただ問題は、エヴァは西方組ほど図太くない。

 それが災いして、変な感じで精神的な板挟みになってしまっているようである。


「けどさぁ。冷静に考えてみなよ。生の卵に消臭液だよ?」

 レニーは嫌悪感を隠さない。

 どうにも、レニーは感情がオープンで、しかもド直球型タイプ。

 加えて、少々理屈っぽいところもあるようだ。

 ……でもまぁ、今回に限っては、拒否組の『代弁者』と言った感じではあるのだけれど。

 

 その証拠に、レニーの言葉に賛同の表情を浮かべている者が多い。

 結局のところ、西方組とその他の者には食文化に大きな壁があり、いくらマリィたちが賛美を示しても、それは信用に足らないのであろう。

 まぁ、あれだ。昆虫食を『美味しいから食べてみなよ』と言われたとて、そう言う習慣がない者にとっては、べらぼうにハードルが高いのと似ているのかもしれない。


 ──さて。この空気、どうやって収拾したら良いんだろうか?


 一見、清寿は微笑みながら状況を眺めているが、その実、目だけは遠くを見つめていた。

 起死回生の打開案をフルスロットルで探しているが、未だ見つからない。

 どの案も、帯に短し襷に長し。あちらを立ててればこちらが立たず。

 状況は違えど、エヴァと同様に精神的な板挟み状態である。


 だが、思わぬ所から空気を混ぜっ返す言葉が投げられた。

「そないな価値観やから、この国にはあないな食い物しか出てこんのやろ。人の国どうこう言う前に、この大陸の恥を省みや」

 口を開いたのはマサムネ。しかも、弩級に辛辣で棘のある言種だ。


 クオンに対しては兎も角、自身の故郷をディスられた事に対しては腹に据えかねたようで、抗議を含んだ冷ややかな目線を宙に投げる。

 目線は向けられて居なくとも、レニーには充分なほど効果覿面だったようで、ウッと詰まった後に気まずそうな顔で撃沈してしまった。


 その次の瞬間、不意にパンっ、と、手の鳴る音が響く。

「あははは! そう言われると、グゥの音も出ないな!」

 マサムネを指差しながら、ユルが快活に笑い声も響かせた。

 勿論、お得意のウィンクサービスも忘れずに、だ。


「まぁまぁ。物は試しじゃ。度胸試しと思うて食べてみんさいや」

 それに乗っかるように、酒が進んで頬を淡く染めたセロが笑う。

 そうして隣に座っているグレイスの鼻先に、ペットリとマヨネーズの付いたローズマリーポテトを差し出した。


「そうは言ってもさぁ……」

 ローズマリーと香ばしい芋の香りが鼻腔をくすぐる。けれど鼻の良いグレイスには、どうしても僅かに混じる酸っぱい匂いが気になったようで、眉間の皺を強めて首を引いた。


 そんな様子に、マサムネが鼻を鳴らしてせせら嗤う。元々細い目は、余計に細さを増していた。

「何や。大陸製の騎士も兵士も、大層なご高説言うくせに、勇ましいんは口ばっかりみたいやなぁ」

 独り言の体で。だがしかし、ある程度は耳には届く音量で。

 誰がどうとは言わなくても、全方向に挑発するような、喧嘩を吹っ掛けるような物言いである。

 そんな皮肉たっぷりの言葉には、彼の性格の鱗片が垣間見えた。


「食べれば良いんだろぉ! 食べればぁ!!」

 グレイスはイラッとした表情を浮かべたあと、ムキになって吠え立てた。

 美味しいとか美味しくないとかの話ではない。プライドの話である。

 コケにされれば反応してしまうのは、誰しもが持つ条件反射なのではなかろうか。

 まぁ、兎にも角にも。完全に話の軸はズレてしまっているが、売り言葉に買い言葉とばかりに、まんまとグレイスは乗せられてしまっている。


 ただそれでも、目の前に差し出されたマヨネーズ山盛りのローズマリーポテトには躊躇があるようだが、マサムネのダメ押しとばかりの短く吹き出した嘲笑に、憎々しく鼻頭を歪めて齧り付いた。


 目を瞑り、顔を(しか)めて咀嚼する。

 そのまま不貞腐れたように、黙々と口が動く。

 そして数度の咀嚼の後、一旦動きを止めると、そこから口の動きが加速した。


「うっま!! 何だよこれぇ!?」

 グレイスの三白眼は鱗が溢れそうなほど大きく開き、ペカーっと輝いた。

 否定的だった分、反動も大きかったようである。

 今度は自らスプーンでマヨネーズをたっぷり掬い、それを自分の皿の上に落とす。

 それからセロに倣ってローズマリーポテトにたっぷり付けると、いそいそと口に放り込み、ニンマリと目を細めた。


 現金なもので、グレイスの反応を皮切りに、各方向から手が伸び始める。

 我先にと、前のめりになってチャレンジする者。

 おっかなびっくりではあるものの、とりあえずの流れに乗って動く者。

 相変わらず半信半疑で、挙動に躊躇(ためら)いが見える者。

 そしてやはり、嫌悪感をむき出しにして動かぬ者。

 まぁ、反応は様々ではあるが、停滞していた空気が少しずつ流れ始めた。


「お! イケるじゃねぇか!」

 早速頬張ったアヴィが、眉山を上げてガハハと豪快に笑えば

「だな! キヨ、アンタやってくれるじゃないか!」

 ヒュゥ。と、ユルが口笛を鳴らしてウインクと投げキッス。

 これを合図に、戸惑って手を止めていた者も口に運び出した。


「想像してた感じと違って、嫌な匂いも味もしませんね」

 ラフィの言葉にアルも頷く。

 手を止めて(こまね)いていた者も、周りの空気に流されて徐々に口へと運び出す。


「前言撤回。俺が悪うございました」

 レニーは目を閉じて渋い顔をしたまま、静かに言葉を溢した。

 散々ディスった手前、何事もなく食べ進めることができなかったようである。


「な? 食べんと損やろ?」

 そうやってケラケラと笑うクオンは、何故か得意満面だ。

「だってさぁ、生卵と消臭液がこんなになるとは思わないじゃん……」

 などとクオンに対してブツクサ言いながら、レニーは拗ねたように口を尖らせるが、拒否の言葉は口にしないので気に入ってくれたようである。


 そんな景色を眺めながら、清寿は短く息を吐いて肩の力を緩めた。

 悟られないように繕ってはいたが、頭の中ではあたふたしていたのだ。


 ──異世界でマヨネーズ。受け入れられるまでに、こんなにも時間を要するのか。


 清寿は、日頃ならやらないノリで挑戦した結果、対処方法が迷子になってしまった事に反省しきり。


 ──勝ちに不思議な勝ちあり。……だったけか?


 途中で思わぬ方向からの流れで状況が好転して、現状どうにか事なきを得たが、それはあくまで『ラッキーパンチ』であって、快勝とは言えないでいる。

 見切り発車は、なるべく慎もう。興味のない事も、ちゃんと聞いておこうと思うのだった。


 ーーだが、今の清寿は知らない。

 一般的な物語なら、マヨネーズのくだりでこんなにグダグタにならない事を。

 それを知るのは、まだ随分と後の話である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。