第7幕 赤と白のバラッド。①
ー◇ー◇ー◇ー
「ここが、エヴァが言っていた、外の貯蔵庫かな?」
本日は晴天なり。
清寿は、敷地内の散策に出ていた。
清寿が世話になり始めてから、間もなく1ヶ月が経とうとしていた。
辺りはまだ雪深く、寒くはある。
けれど、晴れ間も多くなり、雪の眩い輝きと寒さの和らぎを感じられるようになっている。
季節が着実に移ろっているのだろう。
その証拠に、真っ白の世界に淡い色彩の息吹。
雪を割り芽吹く植物たちの膨らみが、そこかしこに散らばっている。
あれからと言うもの、様子伺いついでに来るグレイスたち3人とぼちぼち話し合いを重ね、今後の方針を決めている状況である。
清寿から聞いた話を、方舟のメンバーにどこまで話すか。
清寿の立ち位置、往来の制限、支払う金額。
そんな内容だ。
ただ、話し合いといっても、雑談の延長線上が基本なので、決まる内容もふんわりざっくりなのだけれども。
今のところはとりあえず、方舟への残留決断、立ち位置などの大きな決定は、しっかり回復してからという事になっている。
そこが決まってから、正式な全体通達。
個人的なやり取りの制限は無し。
行動範囲の制限は、共有部分のみ。
プライベート空間への踏み入れは、許可がある場合に限る。
……そんな感じだ。
まぁ、今いる人員には、異世界人と召喚者である事は周知済みだが、そこは説明をする都合上、どうしても触れておかねば話にならない。
けれども、信じるかどうかは任意でとしている。
そして、今何をしているのかと言えば、先に書いた通り『散策』。
やる事の無さ、そして性分のせいだろう。
清寿の部屋を訪ねてくる者たちから聞いた情報を、明確な目的もなく確認している毎日だ。
グレイスたち以外の面子と会って、2週間ほど経つ。
あれからも、エヴァはグレイスたちの不在時に何度か食事を運んできてくれていた。
その時に雑談として、敷地内の話を色々教えてくれるのだ。
そして今いる場所は、先日の会話に出てきた場所である。
ここは、清寿が間借りしている部屋から近い裏口を抜け、住居から比較的近い場所。
道具の手入れや倉庫として使っている場所があると聞いていた。
清寿の目線の右奥に、大きな倉庫、その手前に少し小ぶりな物置小屋を捕らえた。
多分、アレがそうだろう。
清寿は目的地に向かって足を進めた。
「ここで正解みたいだな。酒樽が置いてある」
聞いた内容通りの場所。物置小屋だ。
ただ、清寿の想像と大きくかけ離れた光景に、思わず苦笑が溢れた。
雑然も雑然。
清寿の想像範囲を遥かに超える雑然さだ。
いや。男所帯と言っていて、居住区の環境を鑑みるに、ある程度は予想していた。
でも、目の前の光景までは考えてもいなかった。
開けた瞬間、アルコール臭と埃っぽい湿度が鼻腔を撫でた。
目に映るのは、整理整頓などと言う概念は霧散して広がるカオス。
奥には余白、手前は騒然。
管理など丸無視で、当たり前のように古く燻んだ樽が下方に佇む。
そして、小さな樽の上に、大きな樽を平気で積み上げる不用意さ。
そこを正すこともなく、考えなしのテトリス方式。
しかも、ジェンガのように抜き取りを行った後まで見える。
多分、後方に垣間見える散らばった木片は、その結果の産物だろう。
清寿に嫌悪はない。
けれど、目の前の実情に、ただただ苦笑が溢れるばかりだ。
──ここまでくると、いっそ清々しいものだな
この絶妙なバランスはどうやって保たれているのだろう。
下の酒は、まだ飲めるのだろうか。
そんな興味ばかりが湧き出てしまう。
そうやって、悲しいサガの状況観察。
少し気力と体力が戻ればこの有り様だ。
覗き込んだり、しゃがんでみたり。上へ下へ、右へ左へと忙しなく。
清寿は、自身の探究心を満たすために、目の前の興味へ没頭し始めた。




