第6章 夢見る頃を過ぎても。③
「ところで、方舟商会は何を取り扱ってる商会なんだい?」
自分で作ってしまった空気に居た堪れなくなった清寿は、話題を変えた。
「ん~? それは俺にもよく分かんないや」
「な。俺も分からへんわ」
そう言って、ケラケラと2人はあっけらかんと笑う。
ーー何と言う事でしょう。
まさかの答えが湧いて出た。
だって、商会と言うからには、何らかの商品を扱っていると思うのが一般的だ。
副業があるにしろ、だ。
【商会】 商業上の目的で作られた会社や組織。また、商店の呼称。
【商業】 生産者と需要者の間に立って商品を売買し、利益を得ることを目的とする事業。
ーー日本では、これが一般回答なのだから。
「じゃあ、そう言う戦闘の仕事を専門に請け負ってる団体とかかな?」
確かに『サービス業』のカテゴリーもあるのかと思い至り、清寿の再チャレンジ。
「いやぁ、それもちゃうねん。商品は扱っとらんけど、下請け内職しとるヤツもおるし」
──ここで、生産業が入ってきた……。
「雑務の手伝いとか、役場の臨時手伝いやってる人もいるしね~」
──だったら、総合商社……でもないか。聞いてる限り、派遣業に近い感じを受けるな……。
だったら、やはり。何故、『商会』と名乗っているのだろうか。
聞いて余計に謎が増える、おかしな現象に見舞われてしまった。
「人数は居るんやけどな。出身も前職もバラバラやし、戦闘に向いてないヤツも居るし。今は、個人が出来る事しながら維持費を稼いどる感じやわ」
──相互扶助と言えば相互扶助だが、崩壊待ったなしの状態……
「団体名に『商会』って付いてるけど、商売してるってより、集団生活してるだけな気がするよね~」
──確かにそんな気もするが、成り立っているかと言えば疑問が残る。
「せやな。金の手に入れ方が真っ当なだけで、集団の体系的には、殆ど山賊とかと変わらへんわ」
愉快そうに笑うスゥは、身も蓋もない事を言っている。
「まぁ、ぶっちゃけそうだよね~」
だが、賛同するアズの様子を見ると、誇張と言った事でもなさそうだ。
それと同時に、清寿の中の概念も一部崩壊してしまったらしい。
何せ、『商会』を名乗り、業種は『派遣業』に近く、実態は『山賊』
ーーだったらそれは、『商会の皮を被った山賊』なのではなかろうか。
ここまで来ると、完全に情報に踊らされている気がする。
「でも、グレたちは私腹を肥やすタイプじゃないしぃ。そう言った意味で言えば、住みやすいんだよねぇ」
そう言いながら腹を抱えて笑うアズの言葉に、清寿は少し思うところがあった。
実際のところ、自身も情で捻じ伏せられて方舟に居着く事になっている。
そこを鑑みれば、グレイスが言っていた『寄せ集め』の意味が何となく理解できた気がしたようだ。
「せやな。それに、地位やら年齢やらの上下関係にも厳しくないしなぁ。そう言う意味で言うんやったら、確かに『共同生活』言うた方が良えんかもしれへんわ」
スゥの言葉は、清寿の自問自答に対しての肯定の言葉に聞こえた。
こうやって屈託なく笑う2人には、名前も実態も、至極どうでも良い事なのだろう。
つまりここは、彼らにとっての『拠り所』。
グレイスたちの善意で囲われた、安全地帯と言う事である。
「キヨは何の仕事してたの?」
箸が転げてもおかしい年頃なのだろうか。笑い過ぎたのか、アズの目尻に涙が溜まっている。
不安定な事すら笑い飛ばしてしまえるのは、きっと若さと性格のせいだろう。
清寿は少し羨ましく思った。
「簡単に言えば、商売と商売を繋ぐ仕事かな?」
きっと『営業企画』なんて言っても通用しないだろう。
方舟には、それ以前の概念も泥濘状態なのだから。
「ほーん。せやったら、仲介業者みたいなモンか?」
年の功と言ったところか。
スゥが自身の知識の中から、思い当たりを返してきた。
「そうだな。広い意味で言えばそんな感じだよ」
正確には異なるが、清寿の言った通りではある。
自社の取り扱っている商品を売るために、人と人、企業と企業を結ぶ企画、それを練る仕事が清寿の在籍していた部署の仕事だ。
「じゃあ! 空飛ぶ鉄の箱売ったり、馬の要らない馬車売ったりしてたって事!?」
再びアズの目が輝きに満ちる。
御伽話の鱗片に胸を躍らせているようだ。
「それは専門職になってくるから、俺じゃ無理かな。主に取り扱ってたのは、食材と食品。後は、その周辺産業の商品だね」
そこは夢を見せるよりも誠実さに重きを置いて返事を返す。
ここで背伸びしたって良い事はない。それに、誇りを持ってやってきた仕事だ。
「なーんだ。錬金術とは関係ない仕事かぁ……。じゃあ、作り方は分かんないかぁ」
思いの外、アズから斜め上の返しが来て、清寿から思わず苦笑が漏れる。
まぁ、例え飛行機や車を売っていても、作り方など分からないのだが。
「何やねん。自分、キヨに作って貰うつもりやったんか……」
スゥは口をへの字に、アズを横目で見ている。
彼も流石にアズの返しには呆れているようだ。
「だってぇ、見てみたかったんだもん!」
アズが吠える。ぶん剥れて不満を露わにされてしまった。
気持ちは分かるが、無理は無理。諦めてもらうしかないのである。
「それにキヨが作れなくても、作り方知ってたらワンチャンあるじゃんかぁ!」
アズのもうひと吠え。これはほとんど逆ギレだ。
そして、ない。ワンチャンなんて、微塵もない。あれは科学の結晶だ。
その光景に清寿は、小さくプッと吹き出してしまう。
笑いを堪えようとしても余計に可笑しくなって、顔を覆って肩を振るわせてしまった。
清寿につられて、スゥも同じ状態に陥ってしまう。
「ちょっと! キヨ笑わないでよ!! スゥも!! 俺、真剣に考えたんだから!!」
そうやってムキになって騒ぐアズ。
そして、それが拍車をかける形になって、肩を振るわせる2人。
この場には、小さなカオスが生まれていた。




