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ハズレ召喚者Re:ライフ 〜異世界ほのぼの生活(仮)〜  作者: 四方末いそじ
第2章 ハズレ召喚者、拾われる。

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第6幕 夢見る頃を過ぎても。①


ー+ー+ー+ー

 

 あれから数日間。

 食べては寝るの繰り返しのおかげか、清寿の気力と思考は徐々に戻りつつある。

 やはり3大欲求に加えられるだけあって、『睡眠』と『食』と言うやつは、きちんと確保しないとロクな事にならないと言う事を、身をもって体験した気がしていた。

 

 そんな風に考えていたおり、コンコンと、遠慮がちに扉を叩く音に思考が向いた。

 促す返事をすれば。好奇心と、申し訳程度の遠慮が混じった、知らない顔が2つ覗く。

 一つは健康的な小麦色。もう一つはもう少し褐色、こんがり焼けた香ばしいパンの肌色だ。


「入っても大丈夫?」

 艶とハリのあるパン色の青年が大きな瞳を向ける。

 彼のキラキラした瞳には、隠しきれない好奇心が現れていた。


「もし、大丈夫やったら、お話したいなぁ……思うて」

 遠慮がちに尋ねた小麦色にも、言葉とは裏腹な好奇心が漏れている。

 何ともウズウズしたような、興味から目を逸らす事のできない子犬のような瞳である。


 ──何処かで見た記憶が……


 清寿は、軽い既視感に頭を捻る。


 ──ああ。目覚めた時、扉の隙間に並んでいた顔。その内の2人か。


「大丈夫ですよ。どうぞお入り下さい」

 清寿のその言葉に2人は顔を見合わせて、一気に破顔する。

 それから、待ちきれなかったと言わんばかりにいそいそと部屋に入ってきた。


 ほど良い身長のパンの肌色は、服越しにもスラリとしていて、手足が長い事がよく判る。

 肌色と、卵型の整った顔立ちが相まって、何処かオリエンタルを思わせる印象だ。


 小麦色は、それよりいささかこぢんまり。

 外見だけで言えば、『青年』と言うよりは、『元気な少年』。そんな印象を持ってしまう。

 けれども多分、先ほどの行動を見るに、彼の方が年上のような気がする。

 一応なりとも、初動では好奇心を隠そうとする態度が見て取れたからだ。ーーまぁ、隠しきれていなかった事は、ご愛嬌と言ったところではあるが。

 

 2人は一目散に部屋の隅に置かれていた椅子を移動させて、ベッドの脇へと並べる。


 ──これはもしや、あの時以外も覗かれていたのかもしれない。


 その迷いがない一連の行動に、あまりにも戸惑いがなくて、清寿は思わず苦笑してしまう。

 何せ、部屋の隅に置いた椅子は、扉を中途半端に開けた時には死角になっているのだ。


 それを探す事なく……いや、清寿の部屋にある椅子の存在を知っている事自体が、証拠を指し示しているようなものだろう。

 これは話し合いの時に3人が持ち込んで、そのあと端に寄せて置いていったものだから。

 まぁ、彼らがみんなに話している事も考えられるが、そんな報告は受けていない。

 察するに、『フライング訪問』と言ったところではなかろうか。


 そうして慌てるように腰を下ろすと、前のめり気味で話し始めた。


「ねぇねぇ。お兄さんは召喚者って本当?」

 艶々パンの青年は、そう切り出した。

 期待に満ちた目は、一層大きく開いて輝きを増す。


「私自身も正しく理解できていませんが、その様ですね」

 清寿から、思わず苦笑が漏れる。だが、その苦笑すら営業用だ。

 召喚者ではあるが『ハズレ』なのだから、意気揚々と返事はしにくい。

 どうもこの純粋な瞳に、バレる嘘はつきたくないが、然りとて上手い言葉は見つからない。


 そんなペテン師臭が漂う清寿の切り返しに、青年は首を傾げて思案する。


 ──怪しませてしまったかな?


 青年は、顎に人差し指を添えて、斜め上を見ながら頭を揺らす。

 小顔の後ろに編んだ細い三つ編み。

 左右に頭を傾げるたびに、ゆらゆら揺れる。まるで何かの尻尾のようで、少し笑える。


 そんな彼は、頭の動きを止めて数度瞬きしたあと、ピコーン! と、音が鳴りそうな表情を浮かべ、満面の笑みで口を開いた。


「お兄さんって何歳?」


 ──よし、何歳に見えたかは聞かないでおこう。


 お年頃の女性じゃあるまいに、清寿は年齢を言うのが好きではない。

 親友には、最近やっと実年齢に容姿が追いついて来たと言われた清寿である。

 高校生の頃から成人に間違われた事もしばしば。

 派手でない顔の事もあるのだろうが、落ち着き払った所作が追い討ちを掛けている。


「29歳です」

 柔くニッコリと、渾身の営業スマイル。

 今の清寿には、これしか若く見せる術を持っていない。

 

「じゃ、グレたちと一緒じゃん! 俺のが年下だから、そんなに堅い喋り方しなくて良いよ!」

 彼が気にしたのは、堅苦しい喋り方の方だったようだ。

 ちょっと自意識過剰だった事に、清寿は思わず自嘲する。


 ちなみに少し言い訳すれば。

 初対面での堅い喋りは、清寿の意図的なものである。

 相手の素性が分からない以上、安牌の布陣は実に効果的なのである。

 丁寧な言葉や態度で起こるものは少ないが、大きな態度で出ても良い事はないのだから。

 清寿なりの、いわゆる『処世術』と言うものだ。


「そうか。ありがとう」

 晴れて許しを貰った清寿は、一段砕けた言い方にシフトする。


「俺の名前はアズハール。21歳だよ! 『アズ』って呼んでね!」

 アズハールこと『アズ』は、思っていた程度の年齢だった。

 光沢のある肌艶が羨ましい。

 少し猫っ毛の淡いミルクティー色の髪が、暗い肌色によく映える。

 若さ溢れる花の(かんばせ)を持った、中性的な青年だ。


「俺は『スゥ』って呼んでや! ほんで、年は25!」

 こちらは予想が外れていた。

 童顔と体型から、アズと変わらないくらいだと思っていたが、もう少し年上。

 少し外に跳ねた、濃淡が混じるオレンジマーブルは、夕映の海を髪に映したような印象だ。

 ニッカリ笑う口元から覗く、立派な八重歯。小麦色の肌に相まって、溢れる生命を感じる。

 ーーそして何故か違和感なく似合う、関西地方ニュアンスの言葉。

 

「ねぇ。お兄さんの事は、何て呼んだら良い?」

 アズの屈託のない笑顔が眩しい。何故か、新入社員を思い出させる。


「俺の名前は清寿。呼びにくいみたいだから、キヨって呼んでくれて構わないよ」

 適度にグイグイ来てくれるのも、ありがたい。

 清寿自身、お喋りは嫌いじゃないが、初見の会話は骨が折れる。

 今回みたいに、リサーチできていないなら尚の事だ。


「ねぇ、キヨ。俺さ、キヨの国のお話聞きたいんだ。グレたちがちょっと話してくれたんだけどさ、御伽話聞いてるみたいで、俺ワクワクしちゃった♡」

 ーーワクワクが止まらない。

 アズは、また少し身を乗り出しながら、興奮気味に破顔する。


「な! 魔法もないんに、馬の必要ない乗り物やら、竜やら魔法具に乗らんでも空飛べるとか。何や、むっちゃ信じられんような物が有る世界から来たんやろ!?」

 ーーロマンティックも止まらない。

 大きな吊り目を嬉しそうに細めながら、スゥも争うように身を乗り出す。


 そうして清寿は、その希望に応えるべく、聞かれるままに答えを返す。

 その度にくるくる変わる2人の表情は純粋で、見ていて飽きが来ないのだ。


「凄いなぁ! ホンマに別世界から来たんや!」

「ねー! ほんと、御伽噺を聞いてるみたい!」


 清寿にとっては、こちらの世界の方がよほどお伽噺の世界のように感じるが、彼らにとっては清寿のいた世界の話こそが、お伽噺の世界に感じるようだ。


「ただ、こちらの事は殆ど分からないから、実感が湧かないところが多いかな?」

 少し本音が漏れてしまったのは、是非のない純粋な雑談だからだろう。

 

 ──いつもの3人との話とは、やはり感覚が違うな。ある意味、新鮮だ。


 勿論、グレイスたちと話すのも楽しい。

 けれども、お互いの立場上、どうしても擦り合わせや段取りが必須になってしまう。

 故に、聞きたい事を遠慮して、次のタイミングを見付けられずにいる事も事実だ。


「だったら、俺が教えてあげる!」

「俺も教えたるわ!」

 察したのか、無意識か。

 2人から降って湧いた申し出に、清寿は笑顔を向ける。


「ありがとう。助かるよ」

 清寿がそう返せば、2人は得意気に笑って見せた。

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