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流石に喉が渇いた。
炭酸水を飲みたくなり、コンビニへ行こうとマンションの1階へ降りる。エントランスより裏口の方がコンビニへ行くには便利だ。
綾は裏口のドアを開けた。そこに郷司と優里亜が立っていた。無視して通り過ぎようとすると、郷司に腕を掴まれる。
「何するのよ」
「無視するんじゃねぇ」
「私、貴方に用事なんかないの」
手を振り払おうとしたが思いの外強く握られていて、腕が痛い。
アザになっちゃうじゃない。
「何、拗ねてるんだ?誠也が結婚してやるって言ってんだぞ?素直に喜んで、誠也に電話してやれよ。あいつ、今、大変なんだぞ!こんな時に役に立ってやるのが婚約者ってもんだろ?」
「何が大変なのよ?」
綾が二人を睨みつけると、優里亜は小さな声で
「こわーい」
といい、郷司のシャツの裾を攫む。満更でもない郷司と郷司の影からニヤニヤとこっちを見る優里亜に綾はイラっとした。
「チッ、知らないのかよ。誠也、今日の取締役会で社長になれなかったんだよ」
郷司の声がトーンダウンした。
「何をやらかしたの?今日の総会は出来レースだったはずよ。よっぽどのコトをやらかさなきゃ、誠也か社長になれたはずよ」
誠也、何をやらかしたの?よほど、お祖父様の逆鱗に触れなきゃ、そのまま信認されて社長の椅子座ることができただろうに。
「遅刻したんだよ!」
遅刻?
綾は首を傾げる。
「まさか、総会に遅刻したなんて言わないわよね?」
リマインドしてやらなかったら、人生を左右する株主総会が頭から抜けてたの?あいつ、バカなの?なんで、私、そんなやつ好きだったのかしら?
綾の頭の中は若干、その事やらかしの重大さを自分でどうにかしようと齷齪していない誠也に、驚きすぎてパニックになっている。
郷司と優里亜の表情から、誠也が株主総会をスッポがしたことが伝わる。
遅刻と言っているが、しっかりと始まる前にまでに連絡さえ入れていれば数分、いや30分くらい遅刻したとて、尊お祖父様がなんとかしてくれる。連絡すら入れずに、大方、終わった後に着いたのだろう。
秘書の斉藤さんも大変ね。多分、斉藤さんはお祖父様と一緒に会場へ行くとでも思って、会社で待っていたんだろうね。でも、誠也がお祖父様と一緒に来なかったから、慌てて電話したけど連絡がつかない。急いで誠也の部屋まで行った。そしたら、誠也がまだ寝ていたって所かしら?
「今から、美馬会長宅へ行って誠也の為に頭を下げてやれよ。このままじゃ、明日、会社であいつ居場所ないぜ」
「何故、私が誠也の為に頭を下げなきゃならないのよ!」
もう一度、腕を振り払おうとしたら、余計に強く力を入れた。郷司はラグビーをしていて、力が普通より強い。
「痛ッ」
綾の顔が歪むと優里亜の顔が綻ぶ。
綾は優里亜を睨みつけた。
車がすぐ側で止まり、敦也が慌てて降りてきた。
「何してる!離しなさい!」
敦也は綾の腕から、郷司の手を離す。綾の腕にはくっきりと郷司の手形がついていた。
「し、社長」
郷司の顔色が悪い。郷司は脳筋タイプで、敦也が苦手だ。
「敦也お兄ちゃん、郷司は悪くないの!綾さんが話しを聞いてくれないから、引き止めてくれただけなの」
上目遣いで甘えるように、被害者面して優里亜は訴えかける。
「私に妹は居ない。貴方にファーストネームを呼ばれる間柄ではないと思うが?」
優里亜を冷たく遇らう敦也に、綾の気分は上がる。
「赤くなってるじゃないか、このまま病院へ行こう。跡が残ったら大変だ」
敦也は郷司に冷たい視線を向けると、綾に車に乗るように促した。
引き止める優里亜を無視して、綾は後部座席に敦也と並んで座る。
「どうしてあんなことになったんだ?」
綾が事のあらましを伝えると、敦也は溜息を吐いた。
「どうしようもないやつだな。取り敢えず、病院で診断書を貰ったの後に警察にも行っておくか。大塚は契約更新はなしだな」
大塚は郷司の苗字だ。郷司は美馬グループのラグビーチームの選手だ。
「わかりました社長。診察をされている間に顧問弁護士にもその旨連絡をしておきます」
運転をしている秘書の伊藤が返事をした。
「ありがとう、伊藤。綾、頼むから危険なめに会うのはやめてくれ、これから、オレが一瞬に居れない時はこの伊藤を付けるから、一緒に行動してくれ。全く、君はいつからこんなに弱くなったんだ?前は君が通るだけで、道ができてたじゃないか」
綾は敦也の言葉にあんまりだと思う。
確かに、誠也と付き合うまでの綾は傍若無人だった。敵なし、怖い物無し、学校でも王女様然と振る舞っていた。人からどう見られているなんで気にもしなかったし、どう思われようとどうでも良かった。
「酷いわ」
「褒めってるだけさ」
「もう、私が美馬家や敦也の評判を落としたらどうするの?」
敦也は目を見開く。
「何をやらかしても、俺がどうにかするかは気にせずに好きに振るまえ。フッ、気前の良い夫だろ?」
あの綾が他人の目を気にするというのだ、敦也は誠也への苛立ちが増す。
「ふふふ、わかったわ」
腕は病院で写真を撮り、診断書も書いて貰った。湿布と念の為に痛み止めを貰い実績作りの為に警察へ行ってから、家路に着いた。




