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電話を切った後、誠也は綾の様子に違和感を覚えた。
綾から謝りの電話やLINEがないばかりか、今回は着信拒否されている。
別れる!結婚しない!と言う言葉は拗ねているだけだろが、流石に今回は長すぎる。優里亜に謝ることがそんなに嫌なのか?まあ、婚姻届を出す日をスッポがされたのだから、拗ねても仕方ないかもしれないが、着信拒否はないだろ?
綾は自分にベタ惚れだという自信が誠也にはあった。
少しでも好かれようと、あの王女様みたいだった綾がまるで秘書やメイドみたいに誠也に尽くすようになったのだから。
誠也にとって、綾との結婚はメリットが大きい。綾はお祖父様のお気に入りだ。彼女と結婚すれば例え他の役員から多少の反発はあっても、お祖父様がほぼ単独で株を持っている子会社くらいは任せて貰える。
今日の株主総会の遅刻は誠也の美馬での位置付けに大きく影響した。美馬はお祖父様がワンマンの企業だ。お祖父様の機嫌を損ねると、例え孫であっても居場所が無くなる。誠也の父が良い例だ。
「ねぇ、綾さん、まだ怒ってるの?ごめんなさい。私がお兄ちゃんを頼ったばかりに...」
電話を切った誠也に優里亜が謝る。
優里亜はこう言うと、誠也の怒りが綾に向くことをよく知っている。誠也は従順な甘えたな女が好きなのだ。綾のような勝気な女性は本来なら好まない。
「大丈夫だろ?なんだって、綾は誠也にベタ惚れなんだから、ちょっとプレゼントでもして、機嫌取っとけば、すぐに今まで通りに従順になるさ」
透が雑誌を渡す。新作のブレスレットが載っていた。綾が可愛いと言い、誠也はローズクォーツなんて安っぽいと一蹴したやつだ。
「可愛い系じゃないか、優里亜の方が綾より似合いそうだな」
智が雑誌を覗き込む。智の言葉に優里亜は満更ではない表情を浮かべた後、媚びるようにソファーに座っている誠也を上目遣いで見上げた。
「機嫌とっとくか、はあ、株主総会スッポがした会社に出勤とか地獄だろ」
誠也の言葉に4人の視線が集中する。
「は?今日の総会で社長就任じゃなかったのか?」
智の焦る声
「マジかよ。で、社長はだれになったんだ?」
「浅野」
ぼそっと、やってらんねぇとでもいう風に誠也が答えた。
「浅野さん...、終わった。やべぇじゃん、どうするよ。あの人、交際費とか経費の取り締まり、かなりエグいって噂だよなぁ」
透が頭を抱えた。
「優里亜、定時前に上がれなくなったんじゃないか?あの人、忖度しない人だから」
智が優里亜の方をみる。優里亜はハッとしたような顔をした。
優里亜はコネ入社で誠也が社長に就任する予定だった美馬の子会社の一つであるateで受付をしている。ちょくちょく体調不良を言い訳に早退していた。本当は別の子会社であるアユラにでデザイナーになりたかったが、誠也の力ではそこへの入社は無理だった。
アユラは働く女性をターゲットにした少しお高めの靴とバックのブランドだ。強さと可愛さ両方を兼ね備えていて、20代から50代まで幅広い層の支持を得ている。
「誠也お兄ちゃん」
優里亜は涙目で誠也を見上げる。
「無理だ。浅野は兄貴側の人間だから、俺がどうにかできる人物じゃない」
「マジかよ、ってか、なんでそんな重要なイベントをスッポがしたんだよ。美馬会長にお願いして、どうにかならないのか?誠也」
透の言葉に誠也が項垂れる。
「ならねぇよ。朝、綾と結婚後の挨拶に行くって約束もスッポがしたんだ。遅れて行った株主総会の部屋にじいちゃん残ってて、びっくりするくらい冷たい目で見られたよ」
「うわぁ、やべぇじゃんそれ。挽回は綾頼みかよ」
「なんで、美馬会長、そんなに綾に甘いんだ?自孫より綾なんだ?」
「あゝ、綾のじいちゃんがうちの会社が潰れそうな時に融資してくれて、倒産が免れたんだと。首をくくらなきゃならない状態だった。って、口が酸っぱくなるくらいじいちゃんが言ってる」
優里亜が不機嫌そうな顔をした。単純に綾が持ち上げられるのが気に食わないのだ。
「綾を宥めたら、どうにかなるんだよな?なら、簡単じゃん。後はいつも通り、綾が勝手に美馬会長の機嫌取ってくれるってことだろ?」
お前等、何悲観的になってんだ?とでも言うように、ケロっとした様子で、振っていたプロテインを飲む郷司の言葉に優里亜がニャっと笑った。




