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さようなら  作者: 加羅
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5

「すぐに必要な荷物は纏めといて、仕事が終わったら迎えに行くから」


 敦也はそう言うと、綾の唇に軽くキスをして車を走らせた。


 初めての他人の唇は柔らかかった。


 綾は車が走り去るのを、暫しボーっと眺めていた。


 マンションのエントランスで、コンシェルジュに誠也と優里亜を取次不可リストへ入れて貰う。


 部屋へ入るとノートパソコン、タブレット、充電器を仕事に行くときに使っているバッグに入れる。服はスーツケースを引っ張り出してきて詰めた。


 荷物はもとより少なかった。家具や大型テレビは誠也と選ぼうとまだ購入してなかった。一人用の冷蔵庫とレンジレンジ、ベッドは処分を依頼した。アルバム等の思い出の実家に置いている。


 誠也から貰った物は返そう。


 コンシェルジュが運んでくれた宅配便の荷物を開封する。ダンボールの箱の中に、ピンクの包装紙に赤いリボンのド派手なラッピングを施されたギフトボックスが入っていた。添えられメッセージカードには『綾!結婚おめでとう!素敵な夜を過ごしてね!愛を込めて 茉莉より』と書かれている。


 茉莉は綾の親友だ。高校で友達になり、大学も一緒。彼女は今、モデルとして世界的にも活躍している。


 スマホが鳴る。画面にはマリカの文字。


「ハロー、綾!結婚おめでとう!!」


 テンションの高い茉莉の声


「ありがとう」


「ねえ、初夜はどうだった?あのムッツリ、どんな感じよ?」


 茉莉の不躾な質問に、苦笑いが漏れる。


「誠也とは別れたわ」


「はぁ?マジ??じゃあ、結婚はしてないの?」


「結婚はしたわよ。敦也と」


「敦也って、誰よ!!」


 茉莉の甲高い声が、スマホのスピーカーから耳を直撃する。綾はハンズフリーにして作業をしながら、話すことにした。


「誠也の兄よ」


「ふーん。まあ、誠也と別れたのは結婚より喜ばしいわね!あんなグズ男、別れて正解だわ!ほーんとに良かったよ。やーっと、目が覚めたのね綾!!あゝ、別れたお祝いをしなきゃ!今日はテキーラ、飲むわよ!生ハムに、チーズも用意しなきゃ!あっ、友達も呼んでパーティーするわ!」


 結婚より、誠也と別れたことをこんなにも喜ぶ親友に笑いが漏れる。


「もう、テンション高すぎよ、マリカ」


「テンションが上がらない方が、おかしいわよ。で、その敦也っていうのはハンサムなの?」


「はははは、もう、質問はそこ?」


「当たり前でしょう!一番重要よ!」


「ええ、ハンサムよ」


「Oh!イイじゃない!日本に帰った時に紹介して!プレゼントはそのハンサムなダーリンと使ってよ!で、綾、ファーストキスは済ませたの?初夜はどうだった?」


 矢継ぎ早に質問する茉莉に苦笑いが漏れる。


「もう、ドラマや漫画の見過ぎよ。それに、昨日はそれどこじゃなかったわ」


 車の中でのキスを思い出して、顔が熱くなるのを感じる。


 尊お祖父様から、籍を入れまではキスも婚前交渉も禁止されていた。綾にペナルティはないだろうが、誠也が多大な被害を被ることになるのは明白だ。


「Oh...残念。綾、ノンノン、私が見るのはラブロマンスのドラマやマンガじゃないわ!18禁のホラーよ!」


 そうだった。茉莉はぐちゃんぐちゃんのホラーを見ながら、アルコールを飲みつつギャハハと笑う人だったわ。


「ははは、そうだったわね。で、プレゼントは何?派手なラッピングで開けるのに勇気がいるんだけど?」


 冗談めかして綾が尋ねれば、茉莉は声を弾ませる。


「それは開けてからのお楽しみよ!そうそう、久々に日本に帰るわ!詳しいことが決まったら、連絡するから!久しぶりに会おう!じゃ」


 時差と忙しい合間を縫って、綾に迷惑がかからない時間帯を選んで電話をくれる茉莉に胸が熱くなる。


 プレゼントはあの家に帰ってから開けよう。


 綾はショートケーキの苺は取って置くタイプだ。


 また、スマホが鳴る。今度は知らない番号。


 仕事関係?と、訝しみながらも、電話に出る。


「おい、なんでブロックしてるんだよ!婚姻届出す日が延びたくらいで、そこまで拗ねる必要はないだろ!」


 電話に出るなり、誠也の怒号が部屋いっぱいに響く。


「貴方と結婚するつもりはもうないわ。別れたの。もう、電話はかけてこないで」


「あー、もう、そんなに拗ねるなよ。結婚はしてやるから、な。だから、ちゃんと、優里亜に謝るんだぞ」


 言葉が通じない。


「貴方と結婚はしないし、優里亜さんにも謝らない。別れるって言ったわよね?」


「あー、わかったよ。そうだな、来週の土曜日に婚姻届を出しに行こう、それでいいだろ?13時に役所の前な」


『えー、本当に結婚するの?せめて、どっちかの誕生日とか』


  優里亜の声がスマホから聞こえる。誠也の横に優里亜がいるのだろう。


 気持ち悪い。従兄弟で四六時中くっ付いているなんて。


 優里亜のSNSには今日は体調が悪い。誠也お兄さんがケーキ買ってきてくれた!とか、クリスマスに一緒に過ごせて嬉しかったとか写真付きでアップされている。


 綾は消される前にと全てスクリーンショットを撮った。


 一応、婚約をしていらのだから、難癖をつけられた時に対応する材料は必要。最悪は弁護士も入れなきゃならないかもしれないし。さっきの電話も録音している。

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