↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さようなら  作者: 加羅
3/27

3

 朝起きると、綾はベッドに一人だった。


 支度を済ませて、下へ降りると敦也が何やら電話で話しているようだった。並べられいる食事には手はつけられていない。


「わかりました。ちゃんと結婚相手を連れて行きますから、ご安心下さい」


 綾が席に着くと敦也はスマホを置く。綾を待っていたのだ。


 山根がお茶と味噌汁、ご飯をよそった茶碗を敦也と綾の前に並べてくれる。


「今日の予定は?」


「美馬のお祖父様の所へ結婚の報告に行く約束をしているの。後は家から必要なものを持ってきたい。今日は有給を取っているから」


 本来なら、誠也と一緒に結婚の報告に行く約束だった。今は相手が変わったけど、お祖父様の孫と結婚したのだから、挨拶には行くべきだろう。それから、新居となるはずだった家の片付けてをする予定だった。誠也を迎入れるために、まあ、今はこの家へ越してくる為の荷物の整理になったのだけど...


「わかった。お祖父様への挨拶は俺も一緒に行こう。申し訳ないが午後は外せない仕事が入っていてね。一人で大丈夫か?」


 小さな子供でもないのにと思うが、4つの歳の差があれば、いつまでも綾は手のかかる妹のような存在なのかもしれない。


 敦也の車で、美馬の本家へ行く。


「綾よく来たな。誠也はどうした?」


 尊は和かに綾を招き入れる。


「お祖父様、ごめんなさい。私、誠也さんとではなく、敦也さんと結婚したの」


 申し訳なさいっぱいで、綾は尊に頭を下げる。


「よいよい。誠也でも、敦也でもどちらもワシの孫じゃ。好きな方と結婚すればよい。なぁに、最初は敦也と結婚させるつもりだったんだ。まあ、あのボンクラよりも敦也の方がワシも安心じゃ」


 カッカと朗らかに笑う尊に、綾はそっと胸を撫で下ろした。


「美馬家の評判を傷付けることになります。弟から兄に乗り換えて、それを快諾したなんて噂が流れたら」


「そんな些細な事で、美馬家は揺るがんよ。綾が気にすることではない。のお、敦也」


 尊は少し厳しい顔で、敦也に視線を向ける。


「はい、お祖父様」


 敦也は尊の言葉は当然とばかりに、自信満々に返事をしたが、尊は少し考え込んだ。


「じゃが、綾が悪く言われるのは気に食わん。しっかりと、誠也と別れたことを世間に知らしめてから、式はあげた方が良かろう」


 尊は横にいた秘書に色々と指示をだし、綾に沢山の書類にサインをさせる。「美馬の一員となった、諸々の手続きじゃ。この箱に控えを入れておくから、暇な時にでも読むといい。しっかりと処理されたものは、後日、秘書に届けさせよう」と機嫌が良さげだ。


「式場はキャンセルしておいた。改めて、1年後に予約しておこう。よし、よし、これで安心だ。さあて、腕を貸しなさい」


 尊は綾の腕に美しい翡翠の腕輪を嵌めた。


「これは?」


「紗代子が生前使っていたものだ。魔除けになる。貰って欲しい」


 紗代子とは尊の恋女房であり、綾の祖母の親友だ。


「こんな大事なもの、いただけません」


 綾が返そうとしたが、尊に紗代子の遺言だと言われ押し切られた。


 もし、敦也に好きな人ができたら、これは返さなきゃならない。そんな惨めな思いはしたくない。


 綾にとって、紗代子は大事な存在だった。だからこそ、彼女の持ち物を返す行為は辛く、自分の腕にあったそれを、他の誰かが着けているのを見るのは耐えれないと感じた。


 美馬家で昼食をご馳走になり、上機嫌の尊の相手をする。尊はいかに紗代子と綾の祖母が仲良かったか、どれだけ綾の祖父である潔彦に助けられたか、こうして、綾が孫になったことが、どれだけ自分に取って喜ばしいことなのかを生き生きと語る。


 今でこそ揺るがない大企業だが、美馬は数回、倒産の危機に直面したことがある。銀行に見放される度に、無利子でお金を貸してくれたのが潔彦だった。


「はあ、こんなに気分が良いから一杯飲みたい所だが、この後、総会があるから無理じゃな、残念だ。綾、また、近々来なさい。もう正式にワシの孫じゃ、アポなんぞいらん。この家にも綾の部屋を用意しておくから、ワシが居らなんだら、そこでは寛いでおれ、気軽に泊まっても良いぞ」


 尊の言葉に敦也が呆れる。


「私はこの家に部屋を用意して貰ったことなどありませんが」


「ふん、煩いわ。綾とお前達は別じゃ」


 綾は元々は傲慢な性格だった。両親や祖父母からは姫のように育てられ、歳の離れた兄は綾を可愛がっていた。その上、大企業の社長(当時は)であり、自孫にですら抱き上げたり、甘い顔をした事がない尊がデレデレとなり、綾を膝に乗せ、手ずから菓子を与えていたのだからそうなるのは致し方ない。


 そんなお姫様だった綾が、ここまで他人の顔色を窺うようになったのだ。どれだけ、誠也に自尊心を折られたのだろう。


 敦也は奥歯を噛み締めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。