24.
シャワーを浴び、髪をセットすると誠也は優里亜を助手席に乗せて、美馬のグループが経営している病院へ車を走らせた。
誠也は受付で綾が何処に居るか聞くが、守秘義務がございますのでと取り合って貰えなかった。
外来をサラッと見て回ったても綾の姿は無かった。帰ったのか?と思ったが、もしかしてと思い、入院病棟へ足を延ばす。
「ビンゴ」
特別室の入り口に竜崎綾の名前のがあった。
「見舞いの花、買い忘れたな」
誠也がこぼすと、優里亜がにっこりと笑って包みを見せた。
「大丈夫よ、これがあるもの」
イベントの入場券と引き換えに貰えるクッキー。それとは知らない誠也は、優里亜を褒める。
「流石、優里亜、気が利くな」
ノックもせずにドアを開けた。
点滴を打ってもらいながら横たわる綾を見た、優里亜は嬉しそうな顔をし、誠也は罰の悪そうな表情を浮かべた。
「何の用?」
綾が睨みつけると、優里亜が小さな声で
「怖い」
と呟き誠也の腕にしがみつく。
「綾、睨むなよ。ほら、謝りに来たんだから」
綾は優亜を庇うように自分の背後に隠す誠也に、心底呆れた。
「なら、さっさと謝罪して、帰って!休みたいから」
「大したことないのに大袈裟に入院なんかしちゃって、入院すれば誠也お兄ちゃんが心配してくれるとでも思った?」
誠也の腕にしがみ付きながら、クスッと笑う優里亜を綾は睨む。
「謝罪する気なんてないんでしょう?謝罪する気なら、優里亜さん連れてなんか来ないわよね?さ、帰って!」
「はあ、蹴ったことは俺が悪かった。でも、ししゃり出て来た綾も悪い。そんなことより、デザイン盗んだってあれ、取り消すように会社へ頼んでくれ。優里亜が困ってるじゃないか、そもそも、あんなに大々的に大騒ぎしなくても良かったんじゃないか?」
結局はそれか、と綾は溜息を吐く。
「私の一言で、取り消せると思ってんの?そうだとしたら、本当のバカよ」
「何?」
誠也が睨みつけてくる。
「まあまあ、あっ、これお見舞い」
優里亜がクッキーを綾の横のサイドテーブルに置こうとした時、わざとポットに手を当て倒す。点滴をしていた綾の腕に熱い湯がかかった。
「ぎゃーーー!」
綾の叫び声が響く!それを丁度、電話を終えて部屋へ入って来た敦也が目にした。
「大丈夫か!」
敦也は慌てて、綾を抱き抱えてナース控え室へ走った。
処置が早かったから、幸い、跡は残らないだろうと先生は言っていた。
「敦也、私、家に帰りたい」
綾が漏らす。
「ああ、帰ろう」
敦也は綾を抱きしめた。敦也の怒りは凄まじかった。家に着くと、敦也は電話で病院に往診を要請した。事実を知った病院は優里亜を出禁にした。
サイドテーブルに学校名が書かれたクッキーが置いてあるが、どうするか?と病院の受付穣に聞かれた。敦也の怒りばボルテージを更に上げ、衝動で誠也を美馬グループから追放してしまいそうになるほどだった。
敦也はここ数日、夜中に魘される綾の為に、極力仕事は家で行った。どうしても外出しなければならない時は、綾に秘書の伊藤を付けた。
綾は鍵アカで優里亜が解雇されたことを知った。今は日銭を稼ぐ為に昼はスーパーで、夜は週3日キャバクラで働いているらしい。キャバクラは実入りがいいらしく。『早く辞めなきゃならないのに、辞めれない❤︎』らしい。
優里亜の最近の悩みは、誠也との結婚を麗香が阻んでいること。麗香が事あるごとに、誠也へ縁談の話しを持ってくるらしく、それを邪魔することに忙しいみたいだ。
痛みも引いて、火傷も処理が早かった為、跡形なく治り暇を持て余していた綾は尊から渡された書類に目を通す。
美馬の株の25%と、海辺の別荘が綾の名義になっていた。
「敦也!これ!」
慌てて書類を敦也へ見せる。
「貰ってやってくれ、おじいさまが潔彦さんに受け取って貰えなかった株だからさ。後、おばあさまの思い出が詰まった別荘は、綾に貰って欲しいんだろう」
「で、でも」
綾は焦る。簡単に譲渡する額ではない。
「これは、竜崎の孫である綾が受け取るべきものだ。美馬、いや、おじいさまの無理な経営の尻拭いをしたせいで、竜崎は投資諦めている。その投資が成功していたらと考えると、この株なんかでは補填できない。それに、オレとしては綾が貰ってくれると助かる。オレの持分の30%と綾の持分の25%を合わせると、50%を超えるから、経営がやり易くなる。おばあさまの宝飾品も、綾が使ってくれると、おばあさまも喜ぶと思うよ」
あの、海辺な別荘に保管されている紗代子の遺品も、別荘ごと綾の持ち物になっていた。
「あの別荘は」
「あの別荘には資産的価値がないから安心して欲しい。あそこは商業転用が難しい。高層の建物も建てれない場所だし、景観と環境保護の為緑地をいじれない」
敦也土地の資料を見せながら説明した。尊が、お金に困っていた友達を助ける為に購入したものだと。
「でも、紗代子おばあさまの思い出がいっぱい詰まっているわ。私が貰って、本当にいいの?」
「思い出が詰まっているからだろ?父さんや叔父様が貰っても、持て余して放置し、廃虚と化すくらいだ。綾なら、たまに訪れておばあさまを懐かしんでくれるだろ?それに、綾のものなら、オレにも使う権利があるわけだし、深く考える必要はないさ」
確かに、あの別荘は不便だ。近くに買い物に行ける場所もないけど...確かに、美馬になったから頂いた場所だ。敦也への意味もあるとするなら、そう、気を追う必要もないかも知れない。そう、綾は自分に言い聞かせた。




