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「綾と別れたんでしょう?交友関係に口出しする権利なんてないじゃん」
誠也は茉莉を睨む。
綾と誠也が別れたという言葉に、ギャラリーが騒つく。
「お前が綾に、俺と別れるように唆したのか?」
「はあ?唆す?付き合う前から、止めるように忠告してたよ!別れたのは綾の意志と、アンタが綾よりあの女を大事にしたのが原因でしょう?」
優里亜が申し訳なさそうな顔をする。
「綾さんには申し訳なく思ってるわ。私がお兄ちゃんに頼ってたばかりに、不愉快な思いをさせて」
茉莉は優里亜を鼻で笑う。
「キッショー!頼りって、従姉妹のデートに駄々捏ねて着いて行ったり、雷こわ〜いって夜中に部屋へ行って晩中抱きついてること?」
「おい、やめろ!」
誠也が怒鳴ると、茉莉はますますヒートアップしていく。
「あんたも、大概、頭沸いてるよね。婚姻届出しに行く日に、この女を迎えに行ってスッポがしたんだもん。別れない方がおかしいよ。そのあと、不法侵入」
「黙れ!!」
誠也の足が茉莉に向かって伸びる。綾は咄嗟に茉莉を庇って誠也の蹴りをもろにくらい吹っ飛んだ。
綾が宙に浮く瞬間に目にしたのは優里亜の嬉しそうな表情。
丁度、敦也が理事に案内されながら、この控室に入ってきた。ドアを開けた瞬間、敦也の目に飛び込んできたのは綾が誠也に蹴り上げる光景だった。
敦也は慌てて綾に駆け寄る。
「綾!」
蒼白になる理事。
呆然とする誠也。
笑みを必死で抑える優里亜。
泣きながら綾を支える茉莉。
動くこともできない観衆。
「綾、綾、大丈夫?ごめん、私を庇って、病院行かなきゃ!」
敦也が綾を抱き上げる。
「マリカ、大丈夫だから、ほら、マリカ撮影があるでしょう?」
綾は痛みを堪えて笑った。
「俺が病院に連れていく」
理事が大学の職場に指示を出し、道を開けて誘導の指示を出す。敦也は綾を抱き上げる。
「誠也、後で話がある。覚悟しとけよ」
敦也のどすの利いた声。
「敦也、お兄ちゃん、誠也お兄ちゃんは悪くないの。そんなに怒らないで」
優里亜が哀れっぽい声をだして、上目遣いで見上げるが敦也はまるっきし優里亜の存在を無視して歩き出した。
綾の荷物を持って車まで着いてきた茉莉に、敦也は自分の名刺に病院の住所を書いて渡した。
「落ち着いたら、見舞いにでも来てやってくれ」
茉莉は名刺の名前を見る。
「OH!貴方が敦也、綾の旦那様ね!綾を宜しくだよ。後、庇ってくれてありがとうって伝えて。綾の旦那様、ごめん、私が付いていながら、綾をこんな目に合わせてしまった」
涙を拭いながら、茉莉は敦也に謝った。
病院でレントゲンを撮った結果、綾の肋骨にはひびが入っていた。痛み止めを打ち、眠っている綾。
敦也は家政婦の山根が到着すると、綾を山根に任せて病室を後にした。
敦也は誠也の部屋へ上がり込む。と、誠也の胸ぐらを掴んだ。
「兄さん、そんなにキレることはないだろ?確かに、綾をみんながいる前で蹴ったのは良くなかった。でも、わざとじゃない。不慮の事故だったんだ。それに、竜崎との仲が拗れても、今の美馬ならどうってことないじゃないか!」
誠也は昔から、敦也が怖かった。
運動でも成績でも自分と圧倒的な差があり、自分の母親である麗香が敦也の母親が亡くなる前に自分を身籠っていたと聞いた日から、敦也は敦也が怖かった。
その敦也が、今の美馬を動かしている。
誠也はできは良くないが身の程知らずではない。父親と叔父はおじちゃんのお眼鏡に敵わなかった。だが、敦也はさっさとその座を譲られた。
それが、全てを物語っている。
そして、誠也は実力では美馬の社員になれないことくらい理解していた。だから、兄である敦也に嫌われることはなんとしても避けたかった。
敦也の冷ややかな視線に背筋が冷たくなる。
兄さんは綾と仲良かったわけじゃない。ただ、おじちゃんが『綾、綾』だから綾に気を遣っているだけだ。兄さんは絶対に損得で動くタイプだ。
誠也が喋れば喋るほど、敦也の顔がどんどん厳しいものに変わる。
「歯を食いしばれ!」
敦也の拳が誠也の顔に当たり鈍い音をたてる。誠也はバラスを崩して、尻餅をついた。
「お兄ちゃん、なんで綾さんのために誠也お兄ちゃん殴ったの?綾さんは他人だけど、誠也お兄ちゃんは兄弟なんだよ!」
飲み物の用意をしていた優里亜が、誠也に駆け寄る。
「おい、お前の兄ではないんだが?何度言えばわかる?その頭は飾りか?それより、こんな所で油を売ってていいのか?申開きの回答期限は月曜日だったと思うが」
敦也に心底軽蔑されたような視線を向けられ、優里亜の顔が羞恥に染まる。
懲戒解雇処分への不服申し立て期限。
「影響がない?は?お前の行動は影響が大有りなんだよ!不満が上がって来てる。弟だったことに感謝するんだな!」
「おいおい、じゃなきゃ、美馬グループから追い出してる。とでも、言葉が続きそうだな」
敦也の目が『そうだ』と告げる。誠也は推し黙るしかない。
「この女なくだらない我儘に付き合って時間を浪費する暇があるなら、自分の力で大きな契約の一つでも決めて来たらどうだ?じゃなきゃ、閑所へ飛ばされてても文句は言えないぞ。あゝ、後、ここは美馬グループの社員寮だ。懲戒解雇処分になった者は立ち入れない。誠也、わかっているよな?」
処分が確定したら、その時点から優里亜をここに入れたら、お前もクビだぞ。と、敦也は念押しして部屋から出て行った。




