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茉莉を迎えに行った日、綾はチャリティーイベントに誘われた。
「母校でモデルや美術系、音楽に進んだ人達とチャリティーイベントをするの、綾も来ない?」
仕事があるからと誘わなかったが、辞めたのなら、どうか?と、いう事らしい。
「楽そうね」
「でしょう?まあ、まだ、日の目を見ていない卒業生や売り出したい在校生が企業やスポンサー、芸能事務所の関係者の目に止まる機会が少しでも増えれば、って、意味合いの方が大きいんだけどね」
美術や音楽、モデルや俳優業で食べていくのは本当に厳しい。見つけて貰って、評価されなければならない。もちろん、オーデションを受けたり、展示会に出展したり、事務所プロフィールを持ち込んだり、地道な活動も必要だが、こうしてイベントを開くことで、自分がチャレンジしなかった方向性で新たなチャンスが生まれることもある。
マリカみたいに海外で活動しているモデルなんかが参加すれば盛り上がるし、企業関係者も来てくれる可能性が増える。
「うん、行こうかな」
「本当!!嬉しい!あのね、私、服飾科の子が作った服着て、ランナウェイ歩くの!あっ、綾も一緒にランナウェイ歩こうよ!今回、ランナウェイ歩くのモデルだけじゃないし、綾は背も高いしスラットしてて、美人だからきっと映えるよ」
私のスタイルを褒めてくれるマリカは178センチ、手足が長く、パリコレにも呼ばれるナイスなスタイルだ。
「急に出ると、迷惑じゃない?」
「why?みんなでステージに上がってワイワイするだけよ!実はね、後輩から綾に出て欲しいってお願いして欲しいって、連絡を貰ってね。どこぞのインフルエンサーが出たいって言ってるらしく。大学のOBだから断り難いんだけど、服目立たせたいのに、自分が目立ちたいタイプだから、正直なところ迷惑なんだって。だから、断った口実として枠をOBで埋めたいらしい」
綾の記憶では、モデルや女優志望の子も多い大学だったから、目立ちたがりの人は多いだろうけど、インフルエンサーを全面に押し出すような人は聞いたことがない。自分の目標とする分野で世に認められたいと考える人ばかりだ。
そんな人居たんだ。
「そんなことなら、是非」
「オケ、連絡入れる」
茉莉はスマホをポチポチと触りながら、メニューに視線を向けた。
「ね、ここ、予約取りづらいお店でしょう?よく、こんな短い期間でよく席抑えれたね」
「敦也が予約してくれたの」
予約取り難い店。敦也はそのことを綾に伝えてなかった。これが誠也なら、予約が取りづらいこと、値段がそれなりにすることをこれでもかと言うほど強調するだろ。
綾は無意識のうちに、誠也と比べている自分に嫌気がさした。
少なめでちょこちょこ出てくるコース料理。最初に聞かれたのは、好き嫌いはないか。お品書きの中に外して欲しいメニューはないか。渡されたメニュー表はドリンクのみで値段も載っていなかった。
「敦也さんって、旦那様?ohー!私、今の旦那様の方がポイント高い!大事にしてくれてるじゃない!!別れて正解!敦也さんと結婚して正解!」
「誠也だって優しかったわよ。いえ、優しいわ。優里亜さえ関わらなかったら」
誠也は綾に優しかった。優里亜が電話さえしてこなかったら。優里亜が関わらなかったら。些細なわがままだって聞いてくれた。
綾が可愛いと言ったものだって、「安っぽい」とか、「これのどこがいいんだよ」とか、言いながらも買ってくれたし、行きたいと言った場所には付き合ってくれた。
全て、優里亜が関わらなければ...
「その、優里亜が関わらなければね、優里亜が関われば誠也は最悪なやつってことよ!」
そう茉莉に言われたら、ぐうの音もでない。散々、それで辛酸を舐めたのは綾だ。
両親の訃報を聞いた時、支えてくれたのは誠也だった。ショックで倒れた綾をベッドに運んでくれた。目を開けた時に誠也が目の前に居てくれた。
医者が来て、薬を飲んでそのまま眠った。
その思い出と、優里亜が関わらなければ、それだけで頑張れたけど、これがずっと続くとなるともう、無理だとなっただけだ。
居た堪れなくて、綾は話題を替える。
「マリカは仕事どう?順調?」
「ははは、死に物狂いでしがみついてるよー!もう、さ、みんな凄いのよ。毎日、私は世界一綺麗!私は世界一イケてるって、鏡見ながら呪文のように唱えてから、現場に行ってるわ。フランス語も英語も頑張ってる。細やかな指示が自分の力で聞き取れないと、やっぱり、損なのよね。出遅れるって、いうか」
外から見れば、順風満帆そのものの茉莉も足掻いていた。
飄々とし、ポジティブガールな茉莉が漏らすわけだから、相当厳しい世界なのだろう。




