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「楽そうだね、綾」
敦也の指が綾の首筋に触れ、そのままネックレスに手をかける。綾の肌がピクリと跳ねた。
「あ、おかえりなさい。来週、茉莉が帰ってくるの」
外したネックレスを眺めながら、敦也がにっこりと笑ったが、目は笑っていない。
「ああ、あの刺激的な結婚祝いを贈ってくれた、人か」
「ええ、そうよ」
なんで、それで覚えてるのよ。
綾は落ち着かない様子で敦也から目を逸らす。
「ふーん。で、迎えに行くのか?」
「ええ、空港まで迎えに行こうかと思って...」
浮気している訳じゃないのに、問い詰められているようで、何故か後ろめたい気持ちになることに戸惑いを感じながら、綾はしどろもどろに答える。
「なら、夕食でも一緒に食べてくるといい、その友達は好き嫌いはないのか?」
「な、なんでも食べるわよ!ただ、モデルやってるから、ヘルシーなものが中心の食生活なの、後、アメリカ生活が長いから、和食にしようかな...」
「わかった、空港近くの店を予約しておくよ。支払いもこちらでするから気にせずに食べておいで、飲み物も勿論、追加注文もしていいから」
ネックレスを片付けて、スマホで店をチェックする敦也は普段の雰囲気に戻っていた。
「ありがとう。マリカも喜ぶわ」
「マリカ?」
「マリカは茉莉の仕事でのネームよ。ほら、コレがマリカ」
綾はスマホで検索して、マリカが広告で使われている写真を見せる。
ドリンクを片手に、日差しと水しぶきを目一杯浴びて、向日葵みたいな笑顔でポージングを決めている写真だ。
「ははは、根性あるな」
「あのね。私、仕事辞めちゃった」
綾がポツリと溢す。
「わかった」
敦也はそっと綾を抱きしめた。
「来月から無職よ。どうしよう」
綾は茶化すことで、精一杯の虚勢を張る。溢れる涙を見られなくなくて敦也にしがみついた。
「おじいさまから渡された書類にでも、ゆっくり目を通したらどうだ?仕事がないんだから、アメリカから来るお友達と有意義な時間も過ごそうじゃないか。少し、休んだら、結婚式の準備もしなきゃならないし。かなり忙しいて思うぞ?」
「あははは、そうね。忙しそうだわ。ねえ、おじいちゃんに一緒に会いに行ってくれる?後、お兄ちゃん夫婦にも」
敦也と結婚したと電話では伝えた。そしたら、一緒に帰っておいでと温かい返事を貰っていた。
「そうだね、お嬢さんを下さいって、挨拶に行かなきゃならないな。下さいじゃなくて、攫いましたか。はは、洋司さんには殴られるかな?」
洋司は綾の兄で、和菓子職人であり和菓子屋竜崎の社長。職人気質ではあるが妹思いの優しい兄だ。
「大丈夫よ」
顔を顰める敦也を見て、綾はそんな表情もできるのかと、微笑ましく思った。
敦也が綾のスマホを見て眉を顰める。ひっきりなしに電話がかかってきているのだ。
「誠也と麗香さんか。はっ、オレに電話する勇気はないくせに。綾、新しく携帯を契約しに行くか?これじゃ、使い物にならないだろ?」
敦也はひっきりなしに着歴が入るスマホに忌々しげな視線を向けた。




