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さようなら  作者: 加羅
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 仕事を途中で投げ出した形になったが、これ以上、会社に通うだけの気力も残っておらず、綾は退職手続きと、荷物の引き上げ、デスクの整理をして、有休消化をすることにした。


 何か言いたげな同僚達の視線を感じつつ、デスクの整理をする。慌てて作った引き継ぎ書、もう直ぐ発売の靴に関するデザイン画と、その原案を一つのファイルに纏め、パソコンのチームが見れる共有ファイルに格納した。


 まだ、誰にも見せていない作品のラフ画はUSBに保存して、会社のパソコンからはデータを削除した。


 我慢ができなくなったのか、隣りの席の同僚が話しかけてくる。


「ね、本当に辞めるの?」


「はい。明日から有休消化するつもりです。迷惑をかけてすみません」


 同僚が少し残念そうな顔をしてくれことに、綾は胸を撫で下ろした。

 

「優里亜って人が原因なんでしょう?SNSで炎上してるわよ。バクロ太郎ってインフルエンサーが纏め記事を投稿してから、こぞって、他のインフルエンサー達もその手の記事をアップして、youtube Tubeにも動画が沢山上がってるわ。自称美馬の縁戚の優里亜って人、一滴も美馬の血、入ってないんだってね。ウケルーゥ。まあ、気にするなってことよ。こっちは大丈夫よって言いたかっただけだから」


 綾は定時で退社し、敦也が迎えの車をよこすと言ったのを断り、タクシーで家まで帰った。


 タクシーの中でSNSの画面を開く。


 優里亜が消した投稿、雑誌の切り抜き、アユラの謝罪記事がアップされ、懇切丁寧に時系列でことのあらましが纏められている。それも、優里亜の過去SNSから拾った投稿と他の人が投稿した彼女がどのような人物かの特定までされていた。


 優里亜はカギアカウント以外は閉じていた。


 優里亜のカギアカウントを開くと、山のような愚痴が投稿されていた。ウケルことに会社から懲戒解雇の通知が来たらしく、2週間の猶予期間の間に弁明がなければ、解雇手続きを進めると、言われているらしい。

 

 綾のスマホが鳴る。また、知らない番号。


 綾のスマホには今日だけで、非通知も含めて数十件の着信履歴書が残っていた。


 また、スマホが鳴る。今度はマンションの管理室からだ。


「昨日から、数度、竜崎様の婚約者の母親だと仰る方がいらしてまして。ご不在だと伝えると、帰ってきたら連絡してと事付けを賜りましたので、一応、ご連絡だけでもと思いまして」


 麗香が来たのだろう。


 綾の疲れがどっと増した。


 家に着くと、また、スマホが鳴る。イライラしながら画面を見ると、マリカの文字。


「Oh...やっと繋がったよ。ずーっと話し中で、誰とそんなに電話してたのよ-」


「電話してたわけじゃないの、ずーっと私のスマホならす人が居ただけよ。あっ、充電少ないわ。ちょっと、待ってて、充電器繋ぐから。その間にバクロ太郎って人のSNSでも見てて」


 部屋へ慌てて入り、充電器の上にスマホを置きスピーカーに切り替える。


「お待たせ」


「大変なことなってるじゃん。優里亜、顔、フルネームに親のまで晒されてるヨー。綾は大丈夫なの?」


 ジャケットを脱ぎ、ブラウスの袖ボタンを外す。


「会社辞めたの」


「Oh〜No!ウソでしょう?why?何でよ?」


 耳を劈くような茉莉の声、ハンズフリーにしてて良かったと、綾はクスリと笑った。


「居れないわよ。私が竜崎製菓店の娘だって知れ渡ったし」


「Why??竜崎の娘がなぜダメ??それより、今まで誰も知らなかったの?そっちがビックリよー!」


 靴下を脱ぎ、時計を外す。敦也から貰った時計だ。


 綾の心は時計を見る度に少し嬉しくなる。


「忖度されたくないの!」


「何でよ?優里亜なんて血も繋がってないのに!美馬の親戚よ!!って、あんなに必死にアピールしてるじゃない?」


 優里亜を出されて、吹き出しそうになった。


「いやよ、美馬のおじいさまに会わせて欲しいとか思われるのよ?見返りを求めない親切なんて信じない主義なの!」


「優里亜の厚かましさ、少しくらい見習っても、バチは当たらないわよ」


 厚かましさを見習えって、茉莉らしい発想に綾は笑みが溢れる。


「そんなことより、何か用事があったんじゃないの?」


 ピアスを外しトレーに置く。


「そうだ、金曜の19時に日本に着くわ!」


「迎えに行くわね!」


 電話を切ったところで、ネックレスを外そうと髪を横に流すと、背後に人の気配がして振り返った。


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