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「今日、おじ様とおば様に婚約破棄したって、伝えに行くの。貴方の実家に」
「わかった一緒に行こう」
一緒に朝食の食器を片付けながら、綾が少し気まずそうな表情を見る。
綾から提案したわけじゃないが、結果的に弟から兄に乗り換えたのだから、バツが悪い。
「ありがとう。でも、自分で話すから大丈夫」
「わかった。別室に居る。呼べは助けに行くから安心しな」
綾は敦也が自分の気持ちを尊重してくれることが嬉しかった。
敦也は綾に視線を合わせながら、微笑む。
感情が昂っているときの綾はこちらの思惑通りに動かしやすい。煽れば簡単に思うように挑発に乗ってくる。沸点が低くて、感情的で勝気。自分の発言には責任を持つタイプで、懐に入れた人間には甘い。素直に甘える事ができない謂わゆるツンデレ体質。
ブチ切れて、冷静になって凹んで。人知れず後悔する。
昔から、ちょっとつつくと、フーフーと唸り声をあげ、毛を逆立てる子猫のようで可愛いかった。
からかいすぎて、身構えるようになったのは誤算だったが。
本当にタイミングが良かった。誠也が婚姻届を出すのとをブッチしてくれて、その直後、電話を綾が取ってくれたことが奇跡だ。
いや、綾が籍を入れると聞いて、居ても立っても居られず、最後の悪足掻きで帰ってきたオレを褒めるべきだな。
親父は問題ないだろ、これ以上お祖父様から見放されるのは避けたいだろうから。しかし、義母である麗香さんは問題だ。彼女の美馬での頼みの綱は誠也だから。
ブラウスにロングのフレアスカート、小さなバッグに控えめな化粧。
おいおい、婚姻届を出しに行くのをブッチされて、婚約破棄しに行くには、あまりにも好感度を狙った装いすぎないか?
あれだけ誠也に惚れていたんだから、持ちが全く無くなったとは考え辛い。綾の性格上、強がっているだけの可能性も無きにしも非ずな所が痛い。まあ、離婚してやる気は毛頭ないが...
綾に麗香さんや誠也が手を上げることを防げるように、いや、綾が誠也と結婚すると言い出さないように、敦也は同行を申し出た。
美馬の次男宅はあの本家に比べると驚くほど普通だ。確かに高級住宅街の一画にはあるが一部屋4〜5畳ほどの3階建の4LDK、リビングダイニングも12畳ほど。郊外の一般民家の方が立派かもしれない。敦也と綾が住んでいるデザイナーズ住宅の方が広くて贅沢な作りをしている。
それでも、毎日テレビで見ない日はないくらい売れている中堅人気芸人が、同じく区画に思いっきり背伸びして手に入れた家よりは立派だが。
この住宅は敦也と誠也の父の、美馬での立ち位置と同じだと敦也は思っている。属してはいるが、他の豪邸とは比べ物にはならないちっぽけな存在。他で場所を探せばそれなりにはなるのに、この場所に必死でしがみ付いている。
実家の駐車場には敦也の車を停めるスペースが無い為、近くに月極を借りている。敦也は綾を家の前に降ろすと、駐車場へ向かった。
綾がインターフォンを鳴らすと、誠也が和かに迎えてくれた。
「よく来たな。母さんと父さんが待ってる」
待ってると言われても、婚約破棄を告げるだけたけど...と、綾は小さく息を吐いた。
「あのさ、これ、可愛いって言ってただろ?」
敦也は喧嘩した後、いつも、こうやってプレゼントで機嫌を取ってきた。クローゼットの一棚が敦也からのプレゼントで埋まるくらいは綾を怒らせたということだ。
渡されたプレゼントは綾が可愛いと言って、誠也が安っぽいデザインだなとバカにしたローズクォーツをあしらったプレスレッドだった。
綾は挨拶もそこそこに、誠也の両親へ婚約破棄したことを告げた。
「綾、拗ねるなって、両親まで巻き込むのは流石に悪質だぞ」
「そうよ、婚約破棄だなんて、結論を急ぎ過ぎだわ」
麗香は綾を宥めるふりをしつつ、誠也の肩を持つ。
「尊お祖父様に婚約破棄の了承は貰っています。婚姻届を出す日に、従姉妹とイチャイチャして約束の場所に来ない人と結婚なんかできません。気持ち悪い」
綾の言葉に麗香の顔色が変わった。
「まあ、目上の人に向かって、なんて言葉使い。嫁に来た後は躾けてやらなきゃならないわね」
麗香の言葉が綾の心を抉る。
優しくしてくれていたのは...誠也ありきだった事実を突きつけられた。もし、誠也と結婚をして、誠也に蔑ろにされても、追い討ちをかけられるという未来しか見えない。
「誠也とは結婚しないわ。だから、どうぞ、優里亜さんとお幸せに」
「優里亜は従姉妹で、妹みたいな存在だと言っているだろ?」
「クリスマスも入籍の日も恋人より、その妹みたいな存在の従姉妹を優先したじゃない。まあ、それだけじゃないわよね、私より彼女を優先したのは。貴方と結婚したら、一生それが続くのよね?私、無理なの」
はあ、と大袈裟に誠也ご溜息を吐いた。
「あ、の、な。家族を優先するのが無理とか、どんだけ心が狭いんだ?取り敢えず、落ち着けよ」
誠也は帰ろうとする綾の手首を掴み引き止める。
「離して!貴方とは結婚しないって、言ってるじゃない」
「優里亜ともう、会わなきゃいいのか?」
お前のわがままで優里亜と会うなと言ってるんだよ?わかるか?
ぐらいの物言いに、綾はカチンときた。
「優里亜さんと会うのも会わないのも、好きにしたら?私は貴方とは結婚しないし、もう関係ないわ」
「わかったよ。もう、優里亜とは会わない。優里亜が体調が悪かろが、倒れて死にそうだろが、綾、君とのデートを優先する。それで気が済むだろ?」




