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送らなくていいと言うのに、引かない敦也に根負けして、会社の側まで送って貰う。
綾は実家の影響や、美馬の力を借りずに自分だけの能力で勝負したくて、全てを隠して入社していた。だから、こんな高級車で送って貰うことは避けたかったし、雑誌にも載る有名社長である敦也と一緒にいる所を同僚に見られたくないと思っていた。
部屋へ入ると何やら、騒がしい。
「竜崎さん、大変なのよ。貴方のデザインと酷似したものが発表されるみたいで、素材は違うみたいなんだけど」
一緒に制作に携わってきた同僚の浅生がファッション誌の1ページを見せてくる。そんなに大きくはないが、美馬家の縁戚の女性がデザインして、アユラが形にした的なことが書かれていた。確かに、綾は美馬敦也と結婚したから美馬ではあるけど、それはまだ公表していない。なら、誰が?
このデザイン画、もしかして誠也が勝手に優里亜を連れて、部屋に上がり込んだ日に盗んだの?
綾の顔が真っ青になる。
何度もダメ出しをくらい、何度もデザインを練り直して、この靴を作る為に沢山の人に協力をして貰って、やっと形になった。コンセプト、売るためのストーリーを考えてやっと発表できる段階となったのに...
売り出すことができても、こんな形で先に発表されたら、素材や品質が違っていても二番煎感が出て売れ行きに支障がでる。
SNSが発達している今、パクリと言われて、こちらが中傷されかねない。
「第二会議室でいい?何かあるんでしょう?言いづらいこともあるだろから、取り敢えず私だけが良いかしら?それとも、課長にも同席してもらう?」
浅生が綾の様子を汲み取り気を利かせてくれた。
もう、隠せない。
綾は意を決した。
「課長も同席でお願いします」
綾は誠也のこと、優里亜のこと、そして、敦也と結婚したこと、自分が美馬尊と懇意にしていること、そして、優里亜にデザインを盗まれたかもしれないことを洗いざらい話した。
「はあ、デザインを盗まれて、まだ、1週間も経ってないわね。無理矢理印刷前にページを割いて食いこましたようね。かなり圧力をかけたみたいじゃない」
浅生が雑誌を睨みつける。
「申し訳ございません。私的なことに会社まで巻き込んでしまって」
頭を下げる綾に課長は優しい気な眼差しを向ける。
「デザインの窃盗だな。しっかり、準備して落とし前をつけてやっても大丈夫ですか?竜崎さん」
「はい」
「ありがとう。個人的なことも掘り起こすことになって、竜崎さんには嫌な思いもさせるかもしれないが、しっかりと準備をしておこう。靴の発表も大詰めだ、浅生さん、商品の方はお願いできますか?竜崎さんには盗作対応の方に時間を割いて貰わなければならなくなりましたから」
課長は、『じゃあ、アユラに抗議する為に上に掛け合ってきますね』と飄々と出て行った。
綾は課長に許可を得て、美馬尊に電話をした。優里亜の盗作のこと、優里亜を訴えること、迷惑をかけて申し訳ないと謝ると、尊は存分にやりなさいと言ってくれた。
敦也に電話しとくようにと課長に言われいたので、敦也にもかける。
「もしもし、敦也、今、大丈夫?」
「ああ、少しなら大丈夫だ。どうした?綾」
綾は優里亜が盗作したかもしれないこと、美馬グループの会社の一つであるアユラから、綾がデザインした靴と酷似したものが出ると雑誌に載っていたことを話した。
「わかった、しっかり落とし前をつけなきゃな。盗作を発表するような社員は我が社にもいらない。私やアユラのことは気にしなくてもいい。オレが手伝えることはあるか?」
「大丈夫。こっちで、できるから」
ここからは怒涛だった。浅生は焦る同僚を宥め、予定通り発表まで残りの時間、慌ただしく準備の殆どを引き受けてくれた。綾は顧問弁護士と法務部の社員達、課長と一緒にアユラを訴える準備をした。
流石に平日だけでは仕事が終わらず、土曜日も綾は出勤していた。
私用のスマホが鳴る。
誰よ忙しいのにと思いながら、外へ出て電話に出た。
「婚姻届を出す日だろ?今、どこにいるんだよ?」
呆れ返ったような誠也の声が聞こえる。
綾は盗作騒ぎで忙しく、婚姻届を出す約束などすっかり忘れていた。そもそも、行くとは言っていないし、もとより行くつもりもない。
「行くなんて言ってないわ。それに、貴方とは結婚しないって言ってるじゃない」
「はあ?まだ、そんなこと言ってるのかよ。婚約までしたんだ。来週、父さん達が帰ってくる。せめて、一緒に話そう」
「わかったわ」
綾は優里亜が靴のデザインを盗んだこと知っているか、聞こうと思ったが、止めた。




