↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
殺人鬼食堂  作者: 高瀬凪
PR
4/25

【4品目】鋼の扉




あの気味の悪い色の作業服を着た男が目の前を通り過ぎ、そして向こうへ歩いていくのを見送る間、心臓の音が鳴り止まなかった。うるさすぎて、相手に聞こえてしまうのではないかと心配するほどだった。

「よし、もう大丈夫ッスよ。行くッス」

部屋の入口から廊下を覗き、明日花《あすか》は頷きながら呟《つぶや》いた。それで、仁《じん》はほっと胸をなでおろした。

進都《しんと》と出会った部屋を出てから、どれくらい経っただろうか。それを確認するすべはどこにも無かった。時計などが廊下にかかっているわけでもなかったし、ズボンのポケットを探ってみても、スマホみたいにインターネットに接続できる物品もなかった。そういう物を持っていたのかどうかすら───記憶になかった。本当に何でこんな所にいるんだよ……。

そして″職員″が現れたら、引き返すか、廊下に面した部屋に逃げ込む。部屋と言っても、ほとんどは入口のドアがなかったので、部屋と言ってもいいのかは怪しかったが。ともかく、それで既に5人の″職員″をやり過ごしていた。1回だけ部屋をちらりと見てきたことがあったが、奥に寄って隠れていたため、ギリギリ見つからずにすんだ。なぜ生きているんだろう、とさえ感じた。


「こっちッスかね……?」

明日花の後を歩き、T字路を左に曲がると、またしても長い廊下が続いていた。光で照らされた廊下の奥に、″職員″がいる気配はない。3人はそのまま進んだ。

しばらくの間、沈黙が流れた。たまにその隙間に、蛍光灯の乾いた音が入ってくるだけだ。もちろん全員が気を張っていて、喋る余裕などなかったのかもしれない。

が、しかし。

「そーいや進都さんって、あたし達と出会う前は5人? でいたんスよね?」

唐突に、声が耳に入った。明日花の声だった。仁のすぐ前を行く彼女が、一瞬だけ振り返った。

「……うん」

「どんな人達だったんスか?」

もう一度、明日花が振り返る。″職員″がいないことを確認してから、仁も振り返る。2人に目を向けられた進都がたじろぐ。

「えっと……どんな人達だったか、って……」

進都はそこで黙り込んでしまった。再び、蛍光灯の、ブーン、という音が思ったより大きく鳴っていて、廊下にこだましていた。

「答えたくない?」

仁が言った。しかし進都はそれにも答えずに、下を向いている。どうしたんだろう。何か理由でもあるのか? すれ違いがあったとか?

その時。

「わっ!」

明日花が唐突に大きな声を出した。しかしすぐに振り返ると、2人に慌ただしく頭を下げた。どうやら大きな声を出したことについての謝罪らしい。

だが仁はその後ろ、彼女にそんな声を出させた原因のものを見ていた。おそらく後ろの進都もそうだろう。

「行き止まり……?」

「いや、違うよ」

そこには、暗い黄色の光沢を帯びた、重厚感のある両開きの扉が佇《たたず》んでいた(ついでに言うと進都の言葉に反して右に廊下が続いていた。少し先にドアも見える)。

明日花も振り返り、その扉をまじまじと見た。

「……何の部屋ッスかね、これ」

「普通の部屋の扉とも違う……」

……そして話しているうちに、3人全員が目を見合わせていた。

「……開けた方がいい?」

「いや、中に″職員″がいるかも……」

「とりあえず、そっと開けて中だけ見てみるッスか?」

そう結論づけられた。明日花がドアの取っ手に手をかける。明日花の小さな手と比べると、その取っ手はあまりにも大きすぎた。

ガタ、と音がした。

……。

「どうしたの?」

なかなか動かない明日花の背中と扉を見て、仁が口を開いた。進都も仁のすぐ隣まで近寄り、心配そうな顔でのぞき込む。

ガタ、ガタともう2回音がした後、明日花がゆっくり振り返った。

「……鍵かけられてるみたいッスね」

それで、仁と進都の2人が顔を合わせた。身長の大きな進都の顔を見るには、少し頭を上に傾けなければならなかったが。

「じゃあ、後回しでいいか」

「……そうだね」

「確かにここで無理に入るよりかは、脱出の方法探った方が良いッスからね」

「入った方がいい気がする」

「そんなこと言っても鍵閉まってるから……」

そこまで言って、仁は言葉をフェードアウトさせた。後の2人も口を閉じて、仁の後ろを見ていた。おそらく3人とも、こう思っていたに違いない。

……誰だ、今の?

「入らなかったら、先に進めない気がする」

ここでようやく、仁は自らの背後にその声の主がいることに気がついた。男か女か、微妙に判別のつかない声だ。こういう声は、中性的、とでも形容するのだろうか。

とにかく、振り向いた。

少女───が立っていた。白いカッターシャツに、紺色のスカートという格好。それだけならまだ、学校のヒロインという枠に収まりそうな気がするが、仁はこの少女に、得体の知れない何かを感じていた。

目が大きく、顔立ちが整っていて、とにかく───美しかった。人間離れしていると感じるくらいに。髪も異様に長く、彼女の膝まで伸びていた。しかしその大きな目は───無気力であることをアピールするかのように、ややまぶたが下《お》りていた。

口が開かれた。

「入るための手がかりを探した方がいい気がする」

仁が返す。

「入るって……わざわざ? それよりかは脱出の手がかりを……」

「あの中に『脱出の手がかり』がある気がする」

「で、でも、ここでもたもたしてると……」

「しばらくの間は大丈夫な気がする」

参ってしまった。この少女は譲る気がない。「気がする」だけで押し通すつもりだろう。しかし今は1人ではないのだ。仲間全員が、この急に入ってきた少女のわがままで全滅する可能性がある。

「2人とも……どうする?」

仁は2人を交互に見た。助け船を出してくれると思ったのだ。

だが。

「あの中って、人いないよね? 鍵かかってるし……」

「……? まあ、いないと……思うけど……」

「……じゃあ、いいかな。あの部屋に入る方法を探しても」

と、進都。

「まあ、別にあたしはいいッスよ。これで脱出のための手がかりがあったら儲《もう》け物だし」

と、明日花。

反対する者は仁だけだった。しかし仁自身、このままだと自分が「わがまま」を言うことになると分かっていたので、従うまでだった。

「……OK。これで上手くいく気がする」

要望は通ったが、少女は表情1つ変えずに言う。失礼だが、本当に人間なのかと疑ってしまうくらいには無表情だ。

「あの……ちなみに名前は?」

進都が言った。恐る恐る、といった感じだった。

「神原《かんばら》柘《つ》姫《き》」

それを受けた少女───柘姫は、最小限の言葉で返した。そして、呟いた。

「……そんな気がする」

「え?」

「……」

それはもしかすると仁にしか聞こえていなかったかもしれない。距離的に進都に聞こえてもおかしくなかったが、彼はそれに対して何の反応も示さず、「柘姫さんか……」と呟いている。

すると、またしても唐突に、柘姫が喋った。

「あと、貴方達を誰かが尾行してる気がする」

「え? 誰がッスか?」

「……分からない。でも大男ではない気がする」

「……と、とりあえず、ここを開ける方法を考えるッスよ! 何か案あるッスかね……?」

明日花がとりまとめたが……まともに考えを巡らせられなかった。

誰かがついてきている? 一体誰が?

それは、今に関しては、この施設の謎よりも、ずっと大きく感じられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。