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殺人鬼食堂  作者: 高瀬凪
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24/25

【24品目】嫉妬?




仁《じん》と明日花《あすか》が決死の逃避行を繰り広げていたその頃。

「...Umm...」

唸るミカエルの前、柘《つ》姫《き》は1人思案していた。

2人は今、どこかの部屋に隠れていたわけでも、厨房などに踏み込んで「アクション」を起こしていたわけでもなかった。ただ行き当たりばったりに廊下を歩いていただけだった。直線をひたすら歩み、曲がり角が現れたら立ち止まり、顔をゆっくりと覗かせ、行く先に誰もいないことを確認する。それを繰り返していた。

「…Was that really OK?」

不意に、背後のミカエルが言った。呟きに近かった。けれど柘姫にははっきりと聞こえた。

……これで本当によかったの、か。

柘姫は何も言わず、前に進んだ。ただ、ため息だけはついていた。柘姫の意識の外側で。

何も返さないこと、ため息をつかれたことにいらついたのか、あるいは聞こえていないと判断したのか、もういちどミカエルが口を開いた。

「Tsuki...did you hear my...」

「Stop(止めて)」

遮った。ミカエルはそれ以上何も言うことなく、しかし足を止めて、じっと柘姫を見ていた。

「If we had stayed there, we would have been taken out too. Besides, it didn’t seem like he would listen, no matter what we told him.(もしあのままあそこに留まっていたら、私達までやられてる気がする。それに、彼は言っても聞かなそうだった気がする)」

言った。しかしそれでも、ミカエルはまだ納得していなさそうだ。出会った時にひどく怯えていたことが信じられないほどだ。

「But...…So, are you saying it would have been better to just leave things as they were?」

あのまま見殺しにした方が良かったと言いたいのか。ミカエルの口は、そう動いていた。

───見殺し。

その言葉に、なぜか苛立った。あくまで、せめてミカエルと仁を助けようと動いただけ。別に明日花を死なせようとしたわけではない。

だがしかし、ぐっとこらえた。感情が動いている。自分の中で。

「It was to help you. Besides, this is something she said, too. Please, try to understand.(2人を助けるためだった。それに、彼女も、明日花さんもそう言ってた。だから、理解してほしい気がする)」

ミカエルはやはり不満げな表情を崩さなかった。だがようやく頷き、下を向いた。

柘姫は再び歩みを始めた。平常であった。靴音がやけに耳に入る。ミカエルの足音も、少し遅れて聞こえてきた。

前方、暗がりの中に、分かれ道が見えた。「ト」の字を逆にしたような、「┫」という形状だった。直進するか、左折するか。柘姫はすぐに左折を選んだ。

その時。

「Once we part ways… we’ll never meet again…」

また、ミカエルの声が後ろから聞こえた。弱々しい声だった。だがそれを柘姫はまた噛み砕いた。

一度離れたら、もう会えない。

一瞬、心臓が大きく拍動したような気がした。大量の息が漏れそうになって、喉につかえた。

それらを飲み込んだ代わりに、こんな言葉が口から吐き出された。

「Sometimes we have to let go.(それでも諦めなきゃいけないときはある気がする)」

それは説得だった。誰に対しての?

……ミカエルに……対しての。

「If I hadn’t, I wouldn’t be here.(そうじゃなきゃ、ここにいない)」

今度こそ納得したのか、それとも柘姫に訴えかけることは無理だと判断したのか、再び口を閉ざした。

「…」

歩き始める。先程と同じような靴音が耳に入る。左に身体を向け、進む。左には、直進した時と同じような道が広がっていた。でも、戻らなかった。

柘姫にはわかっていた。ミカエルと初めて会ったとき、混乱する中で明日花が話しかけた。その時からの、彼女を見る目。

ミカエルはきっと───

だから、自分にはどうしたらいいのか分からなかった。それに対して、いらつくことも、面倒だと思うことも、一切なかった。

なのに、自分の感情の起伏は、わずかではあるが引かれた線を踏んでいる。自分をずっと握っている。

それは、一種の「嫉妬」なのだろうか?

柘姫には、それが分かるようで分からなかった。

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