第8話 下着をクンクン?
「……仕方ないな。黒豹をコンサルに選んだのは俺だ。アドバイスは素直に受け入れよう」
「やっぱり真面目だねw」
「うるせえ……」
俺はノートに「美容院予約」と書いた。
腹の立つやつだが、黒豹は意外と的確だ。コンサルとして優秀かもしれない。
◆
こうして、スーパー陽キャの黒ギャル『黒豹アゲハ』との契約同居生活が正式にスタートした。
黒豹には空いている親父の部屋を使ってもらうことになった。
親父の部屋……ということで、多少おじさん臭いかもしれないが、そこは我慢してもらうとしてだ……
黒豹の荷物はスーツケースひとつ分しかなかったし、部屋の大きさは問題ないだろう。
飯は当分俺が作ることにした。黒豹に作らせると 狂気としか思えない量を作ってしまうからな。
そのかわり、洗濯は黒豹に任せた。下着とか見られてくないだろうし、俺なりの配慮だ。
多少の分担を決めてみたものの、いきなり他人と一緒に暮らすとなると色々と問題も出てくるものだ。
実際の生活は、物語みたいにそう簡単にはいかない。
忘れていたが、俺たちは「陰キャ」と「陽キャ」……全く別世界の住人だったのだ。
考え方から何から何まで、全てにおいて相容れない。
簡単に言うと「画地野論理主義共和国」と「黒豹自由主義アゲアゲ王国」による全面戦争が勃発した。
――まず勃発したのは風呂の順番問題だ。
「アタシが先に入るね」
「待て。俺が先だろ?」
「えっ……なんでよ?」
「俺の家だからだ。いやなら風呂キャンセルでもしろ」
「はぁ? 女子を優先するのがマナーでしょ? 真面目くんってマナー重視してるくせに。そういうこと女の子に強要する感じ?」
「くっ…………お前が先に入るといい」
ここでも自分の発言がブーメランになった。
息子の暴挙を「マナー」という言葉で誤魔化すのは二度としないぞ。
俺が風呂の順番で揉めているのには、れっきとした理由がある。
問題なのは黒豹の風呂が長いことだ
異常に長い。平気で1時間は出てこない。
「おい。もう1時間以上経つけど、なにしてんだよ」
風呂場のドア越しに声をかけた。
「女子には色々あんの! ボディケアとか、ヘアトリートメントとか、スキンケアとか忙しいんだから」
「それ……全部風呂場でやる必要あるのか?」
「あるんだよ~!」
「ほんとはスマホ弄ってるだけじゃないのか?」
「……もしかして覗いてるの? 真面目くんのエッチ! 変態っ!」
「覗くわけねーだろ!」
意味がわからない。どうしてセックスが良くて覗きがダメなんだ?
――いや、覗いてないしセックスもしてないけど。
「下着の匂いとか嗅がないでよね!」
「誰がそんなもん嗅ぐかっ!!」
俺をなんだと思ってるんだ……
洗濯カゴに黒豹の脱いだ下着があるのは知っている。
極力見ないようにしてるけどな。
「えっ!? 匂い嗅がないの?」
「フリかよっ! わかりにくいわっ!」
そんな風に言われたら「あれ? クンクンした方がいいのかな?」っておかしな思考になるだろうが!
いや、気のせいだ。全然気にならない。嗅いでなるものか。
――次に、リビングの私物化だ。
翌朝、目覚めてリビングに向かったら地獄が広がっていた。
テーブルの上にはコスメが散乱し、ソファーには雑誌が置いてある。
おい……なんだ、そのギラギラしたピンク色の液体は?
怪しい薬じゃないだろうな?
「なあ、ウチのリビングが女子部屋みたいになってるんだが」
「え? そんなの普通じゃん」
「普通じゃねえよ。黒豹には部屋を割り当てただろ。何でわざわざリビングで店広げてるんだよ」
「店? 別に商売なんてしてないよ?」
「リビングをめちゃめちゃにするなって言ってるんだ!」
「いーじゃん。こっちの方がやりやすいんだも~ん」
「…………」
たしかに黒豹に割り振った親父の部屋には、テーブルがなかったな。
……リビングの方がこういったメイクとかはやり易いかもしない。
だがっ!!
「せめて……ちゃんと片付けてくれよ」
「はーいはい」
こいつ、絶対聞いてないだろ……
だが――極めつけはテレビ問題だった。




