第56話 クソダサい本気の告白
アーケードを抜け、人通りの多い交差点に差し掛かった。
喫茶店の軒下で、大きめのスーツケースを傍らに置き、ビニール傘を差してスマホを見つめている――見慣れた金髪の横顔を見つけた。
「黒豹っーーー!!」
俺の叫び声に、金髪の背中がビクッとしたのが見えた。
間違いなくアイツだ。
ゆっくりと振り返った顔は、驚きに見開かれた目だった。
「うそっ……真地?」
なんだよ。
信じられないものを見るような顔しやがって。
しかも今、俺のことを名前で呼んだような……
「ガッチー、なんで……こんなとこにいんの?」
「なんでって……ハアハア……お前を……探しに、来たんだよ……」
「つーか、ガッチ―。ずぶ濡れじゃん」
「そう……みたいだな。だが、そんな細かいことは……どうでもいい。俺はお前を――」
「……は? 何言ってんの。彼女いるクセに何してるの。私なんか追いかけてる場合じゃないじゃん?」
それはごもっともだ。
ただし、俺に彼女が居れば――の話だがな。
「星城院さんとは、さっき別れてきた……」
「…………え?」
驚くのも無理はない。なにせ、俺が一番驚いてるくらいだ。
「別れたって……なんでよ……アタシがどんな思いをして、アシストしたと思ってんのよっ!」
「それについてはすまない。だが、やっと気づいたんだ……」
「まったく意味わかんないんだけど……」
俺は雨に濡れたまま、黒豹の真正面に立った。
傘も差さずにずぶ濡れになっている俺のせいで、周りの通行人がジロジロと見ているが、この際もうどうでもいい。
「俺は……お前じゃないと、ダメなんだ」
「……え?」
「お前が隣にいてくれないと、ダメなんだよっ!」
「…………えぇッ!?」
「勉強会も、喫茶店も、水族館のクラゲだってな。お前がいないと全部つまらないんだよ……『いーじゃん』って笑い飛ばしてくれる奴がいないと、だめなんだよ」
「なに……それ…………?」
「俺を『キモい』って、たまに罵ってくれる奴がいないと……生きていても、物足りないんだよ!」
「さっきから何いってんの……ガッチ―?」
「俺は……お前のことが好きだ。ずっと好きだったんだ! さっきそのことに、ようやく気がついたんだ……」
「う……そ……」
黒豹の目から、大粒の涙が溢れ出した。
「お前に好きな人がいるのはわかってる。毎日遅くまで一緒に遊んで、泊まりに行くような『男』がいるんだろう。……それでも! 俺は……お前が、お前が好きなんだよ!」
恥ずかしいくらいの大声で、腹の底から叫んだ。
これまでの俺の人生の中で、最も非論理的で、最も感情的で、最も恥ずかしい、クソダサい本気の告白だった。
流れたのは沈黙。
黒豹は呆然と俺を見つめたまま、ポカンと口を開けていた。
どーいう反応だよ、それ?
「……ぷっ。あはははははっ!!」
突然、腹を抱えて大爆笑し始めたんだが……何故に?
「な、なんだよ! 俺は、これでも真剣に——」
「だって、だってさ! あははは……っ、ガッチー、バカじゃないの!? そんな人、いないよっ!」
「……は?」
「アタシに男なんていないしっ。『いい人がいる』ってのは嘘だもん。ずっと前から……アタシが好きなのは、ガッチーだけだったんだけど!」
「……なっ、なんだと!?」
状況が飲み込めんぞ。
頭が真っ白になるとはこのことか。
再起動に失敗したパソコンみたいになったんだが。
あれ、でも……
「お前は毎日遅くまで帰ってこなくて……それに、友達の家に泊まると……!」
「友達って誰のこと言ってんの!? もしかして、ミカのこと!? 普通に女友達なんだけど」
「…………女?」
「そうだよ! 男の家になんて泊まりに行くわけないじゃん! ガッチーが星城院ちゃんと上手くいってるから、アパートに居づらかったんだし! だからしょーがなく、ミカの家に転がり込んでただけじゃん!!」
「……………………俺の……勘違い……か?」
うわっ……ダッサ。
めちゃめちゃ恥ずかしいんだが。
ただの『女子会』を『親密な男との逢引』だと勘違いして、勝手に嫉妬したあげく、情けなく絶望して、ずぶ濡れになってここまで走ってきたのかよ。
「っ……ギャハハハ! あーお腹痛いっ! ガッチー、最高にダサい! キモい! でも……大好きなんだけどぉ♡」
黒豹が、俺の胸に、勢いよく飛び込んできた。
スーツケースも傘も放り出して真っ直ぐに。
「わぷっ!!」
「アタシもガッチーが好き。……ずっと、ずっと好きだったよ」
首に腕を回されて、柔らかい感触が口にあたる。
あのですね……いきなり積極的すぎませんかね?
今の……俺の初チューなんだけど。
……まあいいか。
俺は、黒豹の細い背中に腕を回し、強く、強く抱きしめ返してやった。
「……もう、どこにも行くなよ」
「うん」
「俺がお前の夢をアシストするから。絶対に保育士にしてみせる。絶対にだ」
「うん」
「だから、ずっと……俺の側にいてくれ」
「うん」
近すぎて顔は見えないが、黒豹は泣き笑いしているみたいだった。
「じゃあ、帰るか。……俺たちの家に」
「うん」
さっきから「うん」しか言わねえな……コイツ。
お前の語彙力どこいった?
まあ、別にいいけど。




