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好きな子を落とすために拾った黒ギャルに恋愛コンサルしてもらったら、なぜか俺にだけ激重で困っている件  作者: ちくわ食べます


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第55話 大バカ野郎

 俺は急いで家に帰った。ただひたすらに全力で走った。


 計画も段取りもなく、黒豹に何を言うかも考えているわけじゃない。


 だが、俺の足は迷いなく、アパートへと向かっていた。


「黒豹!!」


 アパートの扉を空けたが、リビングは静まり返っていた。


「……黒豹?」


 部屋を見渡すとアイツの痕跡が何もない。


 朝、テーブルの上にあったはずの派手なコスメポーチも、重ねられたファッション誌もない。


 よく見るとテーブルの中央にメモ用紙が一枚、置かれていた。


『今までありがとうガッチー。

 星城院ちゃんとお幸せに。

 ガッチーと過ごした時間が

 人生で1番楽しかった 


 さよなら

        ――アゲハ』


 ――遅かった。自分の気持ちに気づくのが遅すぎた。


 黒豹が、家を出ていってしまった……!


「俺はあああ! 大バカ野郎だっ!!」


 このままじゃ……あいつ二度と会えなくなる。本当に俺の前からいなくなってしまう。


 クソっ、視界が滲んでくる。


「ふざけるなよ……勝手に終わらせたりなんか、させねえからな!」


 俺は震える手でスマホを取り出し、黒豹の番号にコールした。


 プルルル、プルルル――


 ――ダメだ。出ない。


 ……あいつには多分、男がいる。


 毎日遅くまで帰ってこなかったし、休日はそいつの家に泊まりに行ったりもしていた。


 ――わかってる。わかっているのに。


 アイツを諦めきれない。


「……論理的に考えても、俺の行動はおかしい」


 それでも、どうしてもアイツに伝えないといけない言葉がある。


 何回もしつこく掛け続け、延々と続くかと思ったコール音の果てに、ようやく繋がった。


『……なに?』


「おい黒豹! 今どこにいる! 出ていくとか勝手に決めるな!」


『手紙、見たんだね……もう3学期のテストも終わったし、契約条件はクリアしたから。私がいたら星城院ちゃんとの邪魔になるでしょ。だから、出てくことにした……』


「まて黒豹!! 俺はお前に――」


『さよなら、ガッチー……』


「おい! 黒豹っ!! 黒豹!?」


 くそっ、通話を切りやがった。取り付く島もなしかよ!


 もう一度掛け直したが、帰ってきたのは『電波の届かない場所にいるか——』という無機質なアナウンスだけ。


「ああっ!!! クソッ!!」


 俺はスマホを握りしめ、リビングに立ち尽くした。


 黒豹は多分、友達のところに行くはずだ。


 だが、あいつの交友関係は広すぎて、場所が絞りきれない。


「どうする。どうやって探す?」


 焦りから呼吸が浅くなる。息が苦しい。


 ……こんな時こそ、落ち着け。


 考えろ。考えろ。考えろ。

 深く、より深く思考するんだ。


 俺の武器はこれしかないんだからな。


 さっきの短い通話の中で、何が聞こえた?


 脳を……極限まで使い倒せ。


 背後に聞こえていた環境音はなんだ?


 やけに騒がしかったな。人通りの多い大通りか?


 もっと思い出せ……どこかにヒントがあるはずだ。


 微かに何かが聞こえたな。あれはアナウンスか。


 ……『間もなく、3番線に――』


「電車。駅か……!」


 俺は過去の記憶データを猛スピードで検索した。


 黒豹がよく「友達」と遊びに行くと言っていた繁華街がある、その最寄り駅。


 そこで流れるのは、特有のジャズアレンジが効いた発車メロディだった。さっきの音と一致する。


「……あの駅だ!!」


 俺は急いでアパートを飛び出した。


 走っているうちに、空から冷たい雨が降り始めてきた。


 だが、そんなものは関係ない。


 俺は全力で駅へと向かって走った。


 服が次第に濡れていき、冬の冷気が俺の体温を奪っていく。


 全力疾走して熱いくらいだったから、身体を冷ますのにちょうどいいくらいだ。


 通行人が奇異の目で俺を見ているが、そんなことはどうでもいい。体面なんかクソくらえだ。


 ――俺は……ただ、あいつにもう一度会いたい。


 あの底抜けに明るくて元気な声を、もう一度聞きたいんだ。


 ◆


 駅に着いたが、いくら探しても黒豹の姿はなかった。


 電話をかけても、当然のように繋がらない。


 だが、絶対にこの近くにいるはずだ。


 俺は雨に打たれながら、あいつが「よく行く」と言っていた繁華街へ向かって走り出した。


『はいはい、キモいキモい』


 ――走れ。


『これからはガッチ―っしょ!』


 ――もっと。もっと走れ。


『いーじゃん!』


 ――黒豹、俺は……お前を!


 クソ、酸素がたりねえ。呼吸が苦しい。

 けど、もうそんなことは。

 どうだっていい。


『アタシ……ガッチーのために、恋愛コンサル……がんばるねっ!』


 俺は、なんてことをしてしまったんだ!


 あの笑顔を……失いたくない。


 今の俺は、以前バカにしていた恋愛映画の主人公と全く同じだ。


 雨の中を傘もささずに、全力で疾走している。ただのバカだ。


 息も絶え絶えになり、全身ずぶ濡れになりながら走っている。


 なんて頭が悪いんだ。これが俺か?


 こんな非論理的で感情的で、何も考えていないのが俺だっていうのか。


 信じられないことだが――思ったより悪くない。


 アイツに会えるなら……俺はどんなバカになったって構わない。

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