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好きな子を落とすために拾った黒ギャルに恋愛コンサルしてもらったら、なぜか俺にだけ激重で困っている件  作者: ちくわ食べます


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第54話 聖女さま

 俺と星城院さんは、二回目のデートに来ている。


 場所は黒豹と下見に来た、ぜんざいが美味しい喫茶店だ。

 

 俺の正面には、俺がずっと望んでいた理想の彼女がいる。


 そのはずなのだが……俺の頭の中は、黒豹のことでいっぱいだった。


「……画地野くん。どうしました。元気がないですよ?」


 上品にぜんざいを食べていた星城院さんが、ふと尋ねてきた。


「そんなことはないです。少し、受験のことで考え事をしていただけで」


「……そうですか。なにか心配なことでもあるんじゃないですか?」


 星城院さんは聡明な女性だ。


 おそらく、俺の変化に気がついているのだろう。


 星城院さんは、その聡明な瞳で俺をジッと見つめてくる。


「じゃあ、画地野君に問題です。私が食べているぜんざいの種類はなんでしょうか?」


「………………」


 そういえば――星城院さんはなんのぜんざいを頼んだのだろう? 


 この喫茶店にあるぜんざいは「普通のぜんざい」か「珈琲ぜんざい」の2種類。見た目はほぼ同じで、食べないと判断がつかないくらい似ている。


 俺は、彼女がどっちのぜんざいを注文したのか、覚えていないのか?


 この程度のことを覚えていないとか……まずいだろ。


「すいません、考え事をしていて覚えてなくて」


「ふふ、やっぱり」


「じゃあ、質問を変えますね。画地野くんは、水族館で何が一番楽しかったですか?」


「それは……クラゲとタッチプールで――」


 俺の脳裏に浮かぶのは、クラゲを「パリピ」と言った時のアイツの顔と、タッチプールで重ねた黒豹の手の温もりだった。


 星城院さんとの本番よりも、黒豹と行った時の方が……楽しかった。


 どう考えてもおかしい。俺が好きなのは、星城院さんのはず。


 清楚で、可憐で、誰にでも優しくて、理想の女子。


 俺の気持ちは本物だった。ずっと星城院さんに憧れていた。


「……すみません。正直に言うと、下見の時の方が……楽しかったかも、しれません」


 その……はずなのに、俺はずっと黒豹のことばかり考えている……


「それは、誰と行った下見ですか?」


「そ、それは…………」


 頭の中に浮かぶのは、あの黒ギャルだ。


 決して品が良いとは言えないが、底抜けに明るい笑いかた。


 リビングでポテチを食いながら、恋愛ドラマにツッコミを入れ。


 分量調整の出来ない、フードファイター向けの料理を作る、あの女子。


 俺が崩れそうになった時も『いーじゃん』のひとことで助けてくれた。


 文句を言いながら初詣に行き、おみくじを引いた時も俺のことをフォローしてくれて。


 そして――不意に見せたあの泣き顔が、頭からこびりついて離れない……


「それは……その……」


 だめだ。答えられない。


「画地野君は、その人のことが本当に好きなんですね」


「…………え?」


 ――俺は……あいつが好きだったのか。


 だけど、俺はずっと星城院さんに憧れていて……


 いや……「憧れて」いただけだったのか。


 もしかしたら、好きじゃなかったのかもしれない。


 俺がずっと好きだったのは……


「……星城院さん。俺、最低なことを言っていいですか」


「……聞きます」


 星城院さんは、怒ることも取り乱すこともなく、静かに俺を見つめていた。


「俺には好きな人がいます。星城院さんじゃ、なくて」


「…………」


「最低なのはわかっています。それなのに、星城院さんの優しさに甘えてしまいました。本当に申し訳——」


「最低ですね」


 星城院さんが突然、俺の言葉を遮った。


 だが、その顔に怒りの感情はない。


 どこかホッとしたような、柔らかい微笑みが浮かんでいた。


「でも……やっと気づいたんですね。よかった」


「えっ?」


「画地野くん、ずっと心ここにあらずでしたから。私と一緒にいる時も、違う誰かのことを想っているのが、痛いくらいに伝わってきました」


「……星城院、さん?」


「……そのために、私は画地野君と付き合うことにしたんですから」


「…………!?」


 星城院さんは、初めから全て分かっていた……というのか?


「画地野くんは真面目すぎて、自分でも気づかないうちに本当の気持ちに蓋をしてしまうんですよ。だから、一度他の人と付き合わないと、気づけないと思ったんです」


 なるほど、俺の心は……その頃には黒豹に向いていたんだな。


 自分でも分からなかった「本当の気持ち」を自覚させるため——ただそのためだけに、俺の告白を受け入れてくれたのか。


 悪役になることを承知の上で、俺の背中を押そうとしてくれていたなんて……まさに「聖女」さま。


「……本当、星城院さんには敵わないです」


「ふふ。早く行ってあげてください。私から言えるのは、それだけです」


 完璧で、優しくて。俺の憧れだった人。


 彼女は最後まで、正真正銘の『聖女』だった。


「あーあ、本当に私って損な役回りですね……」


「えっと……今、なにか言いましたか?」


 なにかをボソッと呟いていたようだが……


「いいえ。彼女も待っていると思いますよ」


「星城院さん。今までありがとうございました!」


 ――黒豹が、待っている。


 俺は深々と彼女にお辞儀をして、店を後にした。


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