第51話 元気づける方法
「なんでよっ! なんで……そんなこと言うのっ!」
えっ……どうして怒り出したんだ?
てっきり喜ぶかと思っていたのだが……
まるで、信じられないものを見たような目になっている。
「すまん……俺はただ、進路に悩むお前をなんとかしてやりたくて……」
ただそれだけなんだ……怒らせるつもりはなかったんだ。
「ガッチーには星城院ちゃんがいるじゃん! 変にアタシに優しくしないでよ! 勘違いしちゃうっつーの!」
「勘違いってなんだよ? どういう意味だ……」
まてまて、今は進路の話だろ。どうして星城院さんの名前がここで出てくる?
いや、それよりも。
なぜそんなにも、泣きそうな顔をしているんだ。
「怒鳴ってゴメン……なんでもないから。さっきの忘れて」
黒豹はそう言い捨て、俺に目を合わそうともせずに自室に入っていってしまった。
パタンと閉められたドアと、残された俺。
「おい……」
なんなんだよ。
俺は良かれと思って言ったんだが……
静寂が戻ったキッチンには、冷や飯が虚しく鎮座している。
「何がなんだかわからん」
勘違いって、一体なんのことだ。
誰か教えてくれ……
◆
ただでさえ、ここ最近おかしかった俺たちの関係。
昨日の一件で、黒豹との日常はさらにぎこちないものへと変貌してしまった。
リビングで顔を合わせても、黒豹はずっと伏し目がちで俺の方を見ようとしない。
会話は最低限の事務連絡のみ。会話を続けようとしても続かない。
勉強の時間になっても家に帰ってこなくなってしまうことが増えた。
帰ってきても「今日は疲れたから」とすぐに自室に籠もってしまう。
黒豹は、将来に希望が持てずに落ち込んでいるのかも知れない。
――なんとかしてやりたい。
このままではせっかく上がってきた学力も下がってしまう。
だがコミュ力0の俺には、どうやって黒豹を励ませばいいのか分からなかった。
「分からないのなら、調べるまでだ!」
俺はパソコンを開いて、ネットで「友人を元気づける方法」と検索してみた。
だが画面に表示されるのは「話を聞く」や「一緒にいる」など……すでに試したものばかり。いい方法が出てこない。
「他にはないのか? どうにか元気づけてやりたいんだが」
ページをスクロールしていくと「ものを送る」という項目が目に入った。
「……これだ!」
クリスマスケーキを食べた時。黒豹はイチゴが好きだと言っていた。
あの時の黒豹は、見るからに幸せそうな顔でケーキを食べていた。
ならば、イチゴのケーキをプレゼントすれば元気になるんじゃないか?
そう考えた俺は、財布を用意すると急いでケーキ屋に向かった。
店のショーケースの中には、色とりどりのケーキが並んでいる。
ちょうどイチゴフェアをやっているらしく、様々なイチゴケーキがこれでもかと揃っている。
「これはいいそ。タイミングが良かったな」
ただ、黒豹の好みのケーキがどれなのか、よくわからない。
どのケーキを送ればアイツは元気になるんだ?
ダブル苺ショコラケーキ、苺モンブラン、プレミアムショート。
レアチーズ苺タルト、苺ショコラパフェ、フルーツボンブケーキ。
苺のフルーツバトン、フロマージュショコラ、イチゴムース、苺のミルフィーユ。
とにかくイチゴを使ったケーキの種類が多い。
それともここは、和風のイチゴ大福がいいだろうか?
「うーむ。わからん……だが!」
悩んでいても仕方ない。
こういう時は全部買ってしまえばいいのだ!
「すみません。ここからここまで全部ください」
「ええっ!? 全部……ですか?」
店員が驚いて目を見開いているが、俺は特に気にしない。
俺にとっての最重要項目は、アイツが喜ぶかどうかなのだから。
「はい、全部でお願いします」
当初考えていたよりも、大幅に金がかかったが、これは必要経費だ。
同居人のメンタルケアは、家主である俺の仕事だからな。
それに黒豹との関係が良くなれば、生活環境の安定に直結する。
出費としては痛いが、投資として見れば安いものだ。
店員からケーキがパンパンに詰まった箱を渡された時、背後にいた親子が「みんなでパーティーでもやるのかな……」と囁いているのが聞こえてきた。
残念だが、ウチは2人しかいない。
この量はアイツを喜ばせるためのものであって、パーティをするわけじゃないのだ。
だが、パーティが出来る位のケーキがあるのは事実。
これだけあれば、さすがの黒豹も元気になるはずだ。
黒豹には大事な用があるから、早く帰ってこいと伝えてある。
準備はバッチリだ。
早く帰ってきた黒豹に、俺はこう切り出した。
「黒豹、今日はお前にプレゼントがある」
「プレゼント……アタシに?」
「そうだ。これを見ろ!」




