第48話 告白の報告
「どうしたんですか画地野くん。今日は勉強の予定じゃないはずですけど……」
俺は今、人気の少ない校舎の裏手で星城院さんと向き合っている。
まさか自分が告白されるとは思ってもいないのだろう。
呼び出された星城院さんは、不思議そうに首を傾げている。
対する俺はというと……めちゃめちゃ緊張している。
脈拍がいつもの1.74倍速く、手にはしっとりと汗が滲んでいる。
――俺は今日、星城院さんに告白する。
この場所を選んだのは黒豹だ。
『ここなら放課後は誰も来ないっしょ。周りの生徒もアタシが足止めしとくから、ガッチーは安心して決めてきて!』
そう言って、黒豹は俺の背中をバンっと叩いた。
昨日の夜は雰囲気がおかしかったが、今朝はいつもの調子に戻っていた。自信たっぷりに「アタシに任せな!」と笑っていた。
俺は、その笑顔に背中を押されて、今ここに立っている。
「……星城院さん。今日は、勉強の件じゃないんです」
「えっ……そうなんですか?」
星城院さんは周りをキョロキョロしたと思うと、少しだけ顔を赤らめて俯いた。
聡明な彼女のことだ。
この人気のない場所で俺が今から何を言おうとしているか、察したのだろう。
「………………」
俺は、何度も頭の中で練習したセリフをゆっくりと口にしていく。
「星城院さん、好きです。ずっと前から、あなたのことが好きでした。俺と……付き合ってください!」
言った……噛まずに全て言い切った。練習通りに言えたぞ。
星城院さんは、俯いて何も答えない。
まるで何かを考えているようだ。
その無言の時間が永遠にも等しく感じる。
そして、星城院さんがゆっくりと顔を上げた。
「…………はい。私でよければ、よろしくお願いします」
おお……マジか!?
長かった片思いが、ついに実を結んだ。
俺と黒豹による『完璧な計画』が、今ここに完璧な結果を引き寄せて現実となったのだ。
「ありがとうございます……!」
「ただ……もし画地野君の気持ちが途中で変わったら、ちゃんと教えてくださいね。私は、ちゃんと受け入れますから」
「えっ? なぜそんなことを……」
星城院さんが発した謎の言葉に、俺は少し戸惑ってしまった。
告白した後に「気持ちが変わったら教えてください」と言うのが礼儀だったりするのだろうか?
異性と付き合った経験のない俺には、全く予想できなかった言葉だが……
「ふふ、なんとなくです。……これから、よろしくお願いしますね」
星城院さんが微笑む。女神のような、とびきり美しい笑顔だった。
細かいことは気にしなくていいか。
恋人同士の礼儀作法など、恋愛経験のない俺には分からないことだ。それは、これから学んでいけばいいことだろう。
重要なのは目標を達成したという事実。
俺はようやく、憧れの星城院さんとお付き合いすることが出来たのだ。
星城院さんと別れ、校舎へと戻ろうと角を曲がったところで、壁に背を預けて立っている黒豹を見つけた。
「黒豹!」
おお、ここで待っていてくれたのか!
俺たちの計画が成功したことを報告しないとな。
「うまくいったぞ! 星城院さんが、オーケーしてくれたぞ!」
「…………」
黒豹は無言で壁から背中を離すと、少し伏し目がちに俺の方を向いた。
「そっか……おめでと。良かったじゃん!」
なんだ? 笑ってるくせにつまらなそうだな……むしろ泣きそうに見えるんだが。
もっと喜べよ。俺たちの作戦がうまく行ったんだぞ?
「ありがとな。……お前のおかげだ」
「当たり前でしょ。誰だと思ってんの。アタシの実力なめんなっつーの」
「まったく、黒豹は有能なコンサルだよ。感謝してもしきれない。後は俺の方の契約を履行しないとな!」
「いーよいーよ。それより早く帰ろよ。今日めっちゃ寒いし」
「今日は出かけないのか?」
「まあ、ガッチーの記念日だしね……」
そうか……今日は俺にとって、星城院さんと付き合うことが出来た記念すべき日というわけか。
って、もう歩いてるし。俺をおいていくなよ。
「ほらガッチー! なにボーッとしてんの! 置いてくよ!」
「あ、ああ、今行く」
俺は慌てて黒豹の後を追いかけたが、それ以降の会話はなかった。
アパートに帰ってからも、俺たちの間に会話はほとんどない。
黒豹はリビングのソファに座ってテレビを眺めているが、どこか興味なさそうな顔をしている。
ポテチを食べることもなければ、テレビにツッコむこともない。
「……ねえ、ガッチー」
「なんだ」
「星城院ちゃんと付き合えて、良かったね」
なんでそんなに元気ないんだ?
まったく「良かった」と思ってなさそうに聞こえるが。
「……ああ、そうだな。後はお前が留年回避できれば、俺たちの契約も無事終了だ」
「…………そう、だね」
ぎりぎり聞こえるくらいの、小さく押し殺したような声。
黒豹のやつ、最近どうしたんだ?
「全部……お前のおかげだ。心から感謝してるぞ」
「…………うん」
計画通り、星城院さんと付き合うことになった。
これは喜ぶべきことで、今夜は祝杯をあげてもいいくらいのはず。
――未成年だから、ジュースで乾杯だろうけど。
なのに、なぜそんなに暗いんだ。
俺の頭に浮かぶのは星城院さんの笑顔ではなく、黒豹の泣きそうな作り笑いだった。
「……俺は、また何かを間違えたのか?」
計画を完璧に達成したはずなんだが……俺の心のモヤモヤは、全然晴れなかった。




