第47話 告白の練習とタイミング
なんとなく、声のトーンがいつもより低い気がしたが、多分気のせいだろう。
「アタシが星城院ちゃんの代わりやればいいんでしょ? ほら、やってみなよ」
いや、偉そうに腕組みをしてるけど……星城院さんはそんなキャラじゃないぞ?
――まあいいけど。
俺は軽く咳払いをして、喉のコンディションを整えた
「ひとつ確認だが。台本を事前に決めておいた方がいいか?」
「え〜、そんなのアドリブでやりなよ。告白なんてその場のノリじゃん!」
「ノリだと!? 事前準備なしに告白出来るものなのか?」
「だから~それを今からやるんでしょーが。いーからほら、早くやってみよ」
さすが黒豹。ノリで生きてる奴は強いな。俺も見習わないと。
――じゃあ、行くぞ!
「……星城院さん。俺と、付き合ってくれませんか?」
「なにそれ〜。つまらなそうなんだけどぉ。なんかの罰ゲームみたいじゃん。もっと気持ち込めてみてよ」
せっかく人が気合い入れたってのに「罰ゲーム」っておい……
「仕方ないだろ。俺だって緊張してるんだ」
なにせ告白なんて、今まで一度もしたことがないのだ。
緊張するなって言う方が無理だろ。
「大丈夫、アタシだってば! ほら、ちゃんともう一回やってみよう! 星城院ちゃんの顔思い浮かべてみて〜」
黒豹がパンと手を叩いて「はいどうぞ!」と陽気に仕切りだす。
ホントにコイツは、いつも明るいな。
だが、俺も集中が足りなかったかもしれん。目を閉じて集中しなおそう。
深く息を吸いこんで、ゆっくりと吐き出す。
そして星城院さんの顔を頭に思い浮かべる。
綺麗で。
上品で。
完璧な彼女。
俺がずっと憧れていた、理想の女性。
「よしっ……」
目を開け、目の前にいる黒豹の顔を見据えた。
金髪の黒ギャルが微笑んでいる。
今だけは黒豹を星城院さんだと思え!
「……好きだ」
どうしたことか?
ひとこと言っただけなのに。俺の心臓がドクンドクンと、やけにうるさく鳴りはじめてきた。
相手は黒豹だぞ?
元気があって派手で、星城院さんとは似ても似つかない、対極にいる存在なのに。
俺は黒豹の目を真っ直ぐに見つめて、言葉をぶつける。
「ずっと好きだった。俺と、付き合ってほしい……頼む」
なぜ、こんなにも緊張して声が震えてしまうのか。
落ち着け、これはただの練習だろ?
「………………」
予想していた「キモっ」や「微妙~」というツッコミは来ない。
黒豹はどういう訳か、固まっていた。
目を大きく見開いて、瞬きもしない。ただ黙って俺を真っ直ぐに見つめている。
それは……どういう反応なんだ?
静かなリビングで、俺たちは無言で向き合うという不思議な状態が続く。
4秒、5秒、6秒…………いやいやいや。
さすがにこの沈黙は不自然すぎるだろ。
「……おい、どうした。もしかして微妙か? キモいのか?」
堪えきれなかった俺の方から声をかけた。
黒豹は一瞬ビクッとし、たどたどしく答えた。
「……ん。うん。よかったん、じゃない。それで……」
歯切れが悪いな。微妙みたいな感じに聞こえるんだが……
やっぱり、何かマズかったのだろうか?
「すまんが……もっと具体的にアドバイスをくれると――」
「よかったって言ってんじゃんっ!!」
「……黒……豹……?」
突然どうした。大声を出して……
「アタシ、出かけてくるから」
「はあ!? 出かけるって……今からか?」
おいおい、夜の九時だぞ。本当に出かけるのか?
黒豹は部屋からコートを引っ張り出してきて、真っ直ぐに玄関に向かっていく。
「……いつもの奴の所か?」
「別に……なんでもいいじゃん」
たしかにそうだ。
俺は、黒豹の恋愛事情に関係ないし、口を出す権限もない。
――だけどな。同居人として、心配したって構わないだろ。
黒豹は俯いていて、どんな顔をしているか分からないが、ただ事じゃないのは俺でも分かる。
声だって、感情がまるでのってなかった。明らかに普段と違う。
なにかあったなら言ってくれてもいいと思うのだが……
「そうか……気をつけろよ」
「…………うん」
玄関のドアが閉まり、静まり返ったリビング。居るのは俺ひとりだけ。
俺は……なにかを間違えたのか?
告白の練習は変じゃなかったはずだ。
ダメ出しを受ける覚悟だってしていたんだが。
なぜ黒豹はあんな顔で黙り込んだ?
そして、なぜこのタイミングで出ていった?
「クソっ……わからん!」
俺はソファーに力なくぶっ倒れた。
どれだけ論理的に思考しても、全然答えが出ないんだが。
黒豹が俺に背を向けた瞬間、圧倒的なほど『拒絶』の空気だけは分かった。
その姿を思い出すと……妙に胸が苦しくなった。




