第45話 あの時の埋合せ
今日は日曜だが、テストが近いということで星城院さんから勉強会に誘われている。
本来は黒豹の学年末テスト勉強をする予定だったのだが……
黒豹が「アタシはあとでもいいから、星城院ちゃんを優先しなよ」というので誘いを受けることにしたのだ。
だがよく考えたら、俺抜きで黒豹の勉強がまともに進むと思えない。
とはいえ……星城院さんからの誘いをOKしてしまっているわけで。
……どうするべきか。
俺たちの目的を達成するためならば、星城院さんを優先するのが正解だ、ということは分かっている。
黒豹の勉強は平日に振り替えればいい。
ただそれだけのことだ。
そう、なのだが……
リビングでは、黒豹がテーブルで教科書を開いている。
「あ、ガッチー。今から星城院ちゃんとの勉強会でしょ? 行ってらっしゃ~い」
いつもの笑顔だが……声が少し震えている。
一緒に暮らし始めて、黒豹が無理してるかどうか分かるようになってきた。
この反応は、無理をしている時のものだと直感が告げている。
「……やっぱ、やめた」
「え?」
俺は……一体、どうしたんだ。
「星城院さんには別の日にしてもらうことにしよう。お前のテスト勉強のほうが大事だ」
俺は、なにを言っている?
「いいって、別に。勉強くらいアタシひとりでも出来るし……」
ほら、黒豹だってこう言っているのに。
星城院さんを落とす目的で、黒豹と契約したはずだろ?
「星城院さんはもともと勉強はできるが、お前は違う。絶対に俺がいた方が点数が上がる。それは今までのデータで実証済みだ」
「まあ……そうかもだけどさ」
「それに、お前を進級させるのは俺の契約でもあるんだからな」
なぜ……俺はこんなことを言っているんだ?
頭では星城院さんを選ぶのが正しいと分かっているのに。
どうしても、黒豹を放っておけない。
理由は分からない。
「大丈夫だ、心配しなくていい。星城院さんには謝罪の連絡をしておく『できれば平日の放課後に振り替えさせてもらえませんか』とな」
「……ありがと。ガッチ―」
「さあ、やるぞ!」
「うん……」
こんなの、全然論理的じゃない。
それなのに、不思議と心は晴れやかだった。
◆
放課後の図書室で、俺と星城院さんは向かい合わせの席に座っている。
そう、埋合せの勉強会だ。
「なるほど……そういう思考法で解くんですね。画地野くんの説明、すごくわかりやすいです。さすがですね」
「いえ、これは基礎を組合せて応用するだけですから。でも、これを押さえておけば、大抵の問題はカバーできますよ」
星城院さんは元が優秀なだけあって、理解が早い。
俺の説明を聞く毎にどんどん吸収していく。
さらに「すごいです」「さすがですね」と、微笑みながら俺を称賛してくれるのだ。
光を反射する長い髪と、ノートを取る上品な手つき。
まさに『憧れの女性』の姿がそこにある。
女神のように美しい笑顔で言われると、デコが地面にめり込むほど、頭を下げたくなる。
だが「それだけは止めて」と黒豹に釘をさされている。
頭を下げたくなるのを必死に抑えて涼しい顔で受け流しているが、なかなかに大変なのだ。
「あ、この問題は普通に解くと計算がかなり面倒なんですが、ちょっと視点を変えるだけで一発で解けるんですよ。ほら、ここをこう置き換えて――」
俺がノートに書き込みながら説明をすると、星城院さんは「まあっ」と上品に驚いて応える。
だが……俺の頭の中では別の声が再生されていた。
『はあ!? 視点を変えるってなに!? その視点ってどこから出てきたの!? 意味わかんないんだけど!』
黒豹なら、絶対にそう言って文句を言い出すだろうな…
それで俺が「まずは落ち着け。一旦受け入れろ」と言い返すんだ。
だけど黒豹は、すぐに頭がパンクしそうになって、途中でポテチを食べ始めちゃうんだよな……
ったく、勉強を教えるこっちの身にもなって欲しいんだが。
「――地野くん? 画地野くん?」




