第44話 喜んだはず
「……それと、夕ご飯はアタシの分気にしなくていいから」
「それは、これから毎日外で食べてくるという意味か?」
少しツッコミすぎな気もするが……これは食費の計算に関わることなのだ。
ハッキリさせておかねばならない問題なわけで。
このくらいの追求は当然だろう。
「うん、そうだけど……」
「……そうか」
ということは、これからは夜飯はひとりで食べるのか。
――まあ、黒豹が来る前に戻るだけの話だが。
「ガッチーはさ、これから毎日星城院ちゃんと勉強会するんでしょ?」
「予定では、今日だけだがな」
「せっかくだから毎日やりなよ。うまくいくといいね!」
たしかに毎日できればいいのだろうが、そう上手くいくか?
「先のことは分からんが、やれるだけのことはやる。だからお前も、気を抜きすぎて留年しないようにしろよ」
「わかってるってば。じゃ、ごちそうさま!」
そう言って黒豹は食器を流しに片付けた。
◆
1日限りだと思っていた星城院さんとの勉強会だったが、好評のようで毎日とは言わないが、定期的にやることになった。
これは奇跡であり、俺にとって願ってもないことだった。
お陰で、彼女との距離も縮まりつつある。
平日の放課後は星城院さんとの勉強会。夜は黒豹との勉強。
ただ……黒豹が帰ってくる時間が日に日に遅くなっているのが気がかかりだ。
勉強を始める時間もずれ込むこともあるし、一体どうしたというのだろうか。
そんな日々がしばらく続いたある日。珍しく黒豹が早く家に帰ってきていた。
どうやら、キッチンで何かを作っているらしい。
部屋中にやたら甘い匂いが充満している。
「何作ってるんだ?」
「え? チョコだよ〜。明日バレンタインじゃん!」
そういえば、異性にチョコを送るという習慣があったな。俺には関係のない話だから完全に忘れていたが。
「バレンタインか。気にしたことなかったが、そういう時期なんだな」
「ガッチーって、バレンタインに縁が無さそうだもんね〜」
どういうことだ……なぜ俺がチョコをもらったことが無いと分かった?
「まあな。ところで……チョコはいつも手作りしてるのか?」
「ううん。いつもは買ってきて済ませちゃうけど、今回は特別だから……」
「特別か……で、誰にあげるんだ?」
「それは、秘密♡」
いつも遅くまで遊んでいる「友達」とやらにあげるのか……?
黒豹が「今回は特別」と言った、誰かに渡すための手作りのチョコ。
よほど、そいつのことが気に入ってるのだろうが、黒豹の恋愛事情など俺には関係ない。
それがなぜ……こんなにも気になる?
そもそも俺はバレンタインに縁が無い男だ。
黒豹のチョコなんて気にしてる場合じゃない。
俺は星城院さんを落とすことだけを考えていれば良い。それなのに……黒豹がチョコを誰に渡すのか、こんなにも気になってしかたがない。
◆
翌日、学校で星城院さんからチョコを受け取った。
「画地野君、いつも勉強教えてくれてありがとうございます。これ、よかったらどうぞ」
上品なリボンで飾られた、かわいい包装の小箱。
まさか星城院さんからチョコをもらえると思っていなかったので、俺は素直に嬉しかった。
「……ありがとうございます」
俺の人生で一番まともに女子にお礼を言えたはずだ。気分は浮き立っていた。
だが、帰宅してテーブルの上に置かれていたものを見た瞬間、星城院さんのチョコのことは頭から消し飛んだ。
テーブルには、ハートのラッピングが施された赤い箱と、手紙がおいてあった。
手紙には「ガッチーへ」とかいてある。
『これガッチーの分ね。いつも勉強教えてくれるお礼。義理だからね。変な意味ないからね! アゲハ』
「……義理か」
そうか、義理か。
そこで、ホッとしている自分がいることに気がついた。
――ん? なぜだ。
義理とはいえ……俺にもチョコをくれたからか?
ということは、黒豹からチョコをもらえなかったら……俺は、ガッカリしたのか?
――違うな。
異性からチョコをもらったから嬉しいだけだろう。
そう……例え相手が誰であったとしても、俺は喜んだはずだから。




