第42話 小さいピースサイン
「え、なに? 何て書いてあるの? 見せてよ!」
「まあ、見なくていいだろ……」
「いいから見せてよ! って、マジ!? ……あはははははっ!! ウケるんだけど!!」
俺の手からおみくじを奪い取った黒豹が、腹を抱えて爆笑し始めた。
俺がひいたおみくじには、見事な太字でこう書かれていたのだ。
――『大凶』と。
「はははっ! マジで持ってるねガッチー! 最高!!」
「……………」
こら、黒豹。涙を流して笑うな。
泣きたいのは俺の方なんだぞ……
「つーか、おみくじに大凶なんて本当に入ってんだね。どれどれ『待ち人:来ず。学問:芽が出ない。恋愛:終わる』ひ、ひどすぎる! ガッチーの人生マジで終わった~!」
「うるせぇ! そんなものは、ただのくじ運だ。単純な乱数による確率論だ!」
「でたーっ! ガッチー節、ウザー!!」
ウザくねぇしっ!
クソっ、腹立ってきた!
「だいたい、こんな紙切れに俺の人生の何が分かる。貸せ、黒豹。こんなもの捨ててやる」
「あー、待って待って!!」
俺がおみくじをまるめて捨てようとした時、黒豹が腕を掴んで止めた。
「ダメダメ、捨てちゃダメだよ。おみくじはね、神社に結ぶの! そうすれば神様が厄落してくれるんだから!」
「そんなの迷信だろ。こんなものはリサイクルしてトイレットペーパーにでもなればいいんだ」
「いいから! ほら、アタシが結んであげるから貸してみなよ」
「……………」
こんな不幸な紙は尻でも拭いて、水に流したほうが役に立つだろ……と思っていたが、黒豹の表情を見たら気が変わった。
俺はおとなしく、大凶のおみくじを黒豹に渡すことにした。
おみくじを受け取った黒豹は、そのままおみくじ掛けの紐へと向かっていく。
下の方は結ぶ場所が埋まっているため、少し背伸びをして上の空いているところに結びだした。
その後ろ姿を見ていてたら、不思議とイライラが収まっていく。
「これで、いいっしょ!」
おみくじを結び終わった黒豹が、こっちに振り返り、小さくピースサインを作った。
いい笑顔してんな……こいつ。
「ああ……悪いな」
「いい? ガッチー。大凶は不幸になりますって意味じゃないんだってさ。それを回避するために、行動を改めてがんばれってことらしいよ?」
「そうなのか……ヤケに詳しいな、黒豹」
「まあね。女子はこういう占いとか大好きなんだよ!」
「そういうものか……」
おみくじは占いとは違うと思うが……まあいい。
「それに、アタシが神様にガッチーの不運持っていってください、って頼んどいたから。もう大丈夫っしょ!」
「…………」
「ほらガッチー、『ありがと』は?」
「ああ。ありがとな黒豹」
「ふふ。いーよー」
本当、黒豹が居ると毎日が飽きない。
◆
神社から少し離れると、人混みも落ち着いてきた。
家路に向かい2人で並んで歩いていると、黒豹のスマホからピコピコと着信音が鳴った。
「あ、ちょっとごめん、電話だ!」
俺が止まると、黒豹は少し俺から離れてからスマホをタップした。
「もしもーし。あ、うん、あけおめー!……え、今日? うん、そうだよ、ヒマっちゃヒマだけど?……え、遊び行くの?」
黒豹の声が、普段より少し高い気がする。
会話の内容から察するに、どうやら遊びに行くらしい。
陽キャは正月から忙しいな。
ふと、相手が誰なのか気になってしまう。
女子の友達か?
それとも……
「あ、でもねー……」
黒豹がスマホを耳に当てたまま、横目で俺の方を見た。
遊びたければ遊んでくればいいと思うが……どうした?
「今日はちょっと無理かな。……うん、ごめんね。ちょっと……家でゆっくりしたいから」
どうやら、遊びに行かないことにしたらしい。
まあ、初詣で疲れたのかも知れないな。
「うん、また今度ね! じゃあねー!」
通話を終えた黒豹が、小走りで追いついてくる。
「ごめんごめん、待たせたね!」
「もしかして俺に気を使ったのか? 別に遊んできても構わなかったが」
「いーのいーの。正月くらい家でゆっくりしたいじゃん?」
「お前はいつもゆっくりしてるだろ」
「そんなことないっつーの!」
いつも恋愛ドラマ見ながらポテチ食ってるが……あれは、「ゆっくり」じゃないとでも言うつもりなのか?




