第41話 俺はパス
「ちょっとぉ、せっかく人が褒めてんのに無視する気? ねえってば」
「あ、あぁスマン。少し考え事を、な……」
間違ったことは言っていない。
色々と考えていたのは事実だ。
おそらく、この神社は「ラッキースケベの神」でも祀られてるのだろう。
全く持って恐ろしい神社だ。
黒豹は俺の腕を離したが、しばらく肩が触れ合う距離で歩くしか無かった。
さっきの柔らかな感触のせいで、やけにドキドキする。
これも全て、参道が混みすぎているのが悪いのだろう。
「あ、やっと本殿ついた!」
「ところで黒豹。なぜ並んでまで募金活動をするんだ?」
「募金って、もしかして賽銭のこと?」
「そうだ。賽銭など募金と同じだろう?」
「ぎゃははは! また変なこと言ってるぅ~www」
黒豹は爆笑しているが、なにかおかしなことでも言っただろうか?
――わからん。
そうこうしていると、ようやく俺たちの順番になった。
賽銭箱を前にした黒豹は、五円玉を投げ入れてパンパンと勢いよく柏手をした。
そして目を閉じ、熱心に何かを祈っている。
――残念だが、作法が間違っているぞ。
神社は「二礼二拍手一礼」が基本だ。
いきなり金を放り込むなど、狂気の沙汰でしかない。
俺はというと……神など信じていないので、黒豹の隣に並んでただ立っているだけだったりする。
「神様、アタシのお願い聞いてくれるかなぁ?」
祈り終わった黒豹が、満足げな笑顔で振り返った。
「分からんが……お前、何を祈ったんだ?」
「えっ、内緒だよ♡ 言ったら叶わなくなるっしょ!」
「へー。そういうものか?」
「そうだよ。ガッチーはどんなお願いしたの?」
「……俺は、なにも祈らなかった」
「えぇー!! なんでよ? ここまで並んでお祈りしないとか、意味わかんないんだけど!」
俺からすれば、参拝の基本を知らずにここまで来た黒豹も意味が分からんのだが……
「せっかく来たんだから成績アップとか、星城院ちゃんとうまくいくようにとか、お願いすることあるじゃん」
星城院さんと、うまくいくように……か。
数ヶ月前の俺なら、そう祈っていたかも知れない。
だが、今は違う。
「今は……神頼みが必要な状況じゃないからな」
「そうなの?」
「勉強は自力で出来るし、星城院さんに関しては黒豹がサポートしてくれるだろ? わざわざ不確実な存在にすがる理由などない」
これは紛れもない、俺の本心だ。
特に困っていることなどないのだから。
「そ、そんなにアタシのこと頼りにされちゃうと、ちょっと困るけど……」
「もっと胸を張っていい。お前は努力家だし、自分が思っているより優秀だぞ?」
「…………」
「もちろん、同居人としても信頼している。一緒にいて飽きないし、毎日おもしろいからな」
「……ガッチー」
毎晩の勉強を教える時間。
文句を言い合いながら食べる時間。
恋愛ドラマを見せられる修行の時間。
――あれ?
よく考えたら、俺って何気に苦労してるような……
まあいい。
それでも俺は、黒豹がいる日常に不満などないのだ。
今が充実しているのに、わざわざ神に頼む意味がわからない。
黒豹はキョトンと惚けていた顔をしていたが、それから覚悟を決めたように言った。
「そっか……私……ガッチーのために、恋愛コンサル……がんばるねっ!」
いつも通り明るい声だが、妙な決意のような含みのある笑顔だった。
◆
「やっぱ初詣っていえばおみくじでしょ! やろうよ、ガッチー!」
「俺はパスだ」
「ダメだよ! 強制参加だし〜! ほら、百円貸してあげるから!」
「いや、金ならあるって……」
結局、強引におみくじを買わされてしまった。
手にあるのは小さな紙切れ。
しかし、こんなものが百円もするとは……意味が分からん。
「じゃ、同時に開けようね!」
同時の理由が謎だが、とりあえずおみくじを開封していく。
「やったー! アタシ『小吉』! うん、まあまあじゃん。学問『努力すれば報われる』だって。よーし、がんばるぞぉ〜!」
隣では、黒豹がはしゃぎながら自分の結果を読み上げている。
失せ物がどうとか、恋愛がどうとか……こんな紙に何が分かるというのか。
「ガッチーはどうだった? やっぱり大吉とか引いちゃう系?」
「…………」




