第39話 明と暗
「じゃあ、今まで好きになった人とか……いたの?」
「ないな。興味がなかった」
もちろん俺は即答した。事実だからだ。
俺にとって恋愛など非論理の極みであり、学生の本分である学業の妨げでしかない。
星城院さんに出会うまでは、本気でそう思っていた。
「だよねぇ~。そうだと思ってたよ」
「お前はどうなんだ黒豹。いっぱいいたんだろ、彼氏だってさ。あの……こないだあった奴も含めてだが」
言うつもりはなかったのに、ドブカスの元カレをふと思い出して、つい口から出てしまった。
黒豹は気にした様子もなく、ポテチの袋をガサガサさせながら「ふぅ」と軽くため息を吐いた。
「たしかにね……いっぱいいたけどさ」
「…………」
「あんまり記憶にないっていったらいいのかな……」
「……覚えてないのか?」
「だって私が居るのに、他の女作る奴のことなんて覚えたくないじゃん? でも、うっすらとは覚えてるよ。どんなこと話して、どこに行ったかとは……ほとんど記憶にないかも」
黒豹が小さなポテチをまとめて口に放り込む。
笑いながら言っているが、その目はどこか遠い所を見ているようだった。
空虚で何も映してない――そんな寂しい目。
「誰もね、アタシの内面なんて見てなかった。……アタシの体とか、ノリとか都合の良さとか、そういうのしか見てなかったんだろうね。だからアタシもあいつらのことなんて、まともに見てなかったのかも」
なんだよ急に……
いつも明るくて、騒がしくて、誰とでもうまくやっていける陽キャだと思っていたのに。
その明るさの影で、実は誰よりも孤独を抱えてきたってのか?
親に大切にされず、彼氏にも大切にされなかった黒豹の……心の孤独。
「大切にされたい」——映画館で黒豹がこぼしたあの言葉。
その言葉の本質が、今言った内容から来てるのか?
「……なら、もう変な男に引っかからないようにしろよ。お前は、自分を安売りしすぎる傾向がある」
「わかってるって。アタシももう、あんなの懲りごりだし」
黒豹がこたつに突っ伏すように顔を乗せた。
「……でもさぁ。やっぱり彼氏は欲しいなぁって思うよ。また誰かと付き合ってみようかなぁ」
――彼氏。
黒豹のその言葉が、なぜか俺の胸に刺さった気がした。
恐らく、黒豹は心の隙間を彼氏で埋めようとしていたのだろう。
埋めることが出来なかったみたいだが……
それでも、求めずにはいられないのかも知れない。
「誰かってのは?」
「ん~、まだわかんない。でも、次はちゃんと私のことを……中身を見てくれる人がいいな~。なんちゃって♡」
はぐらかすようにして笑って、黒豹はテレビに視線を戻す。
俺にはその言葉が、嘘には聞こえなかった。
「……そうか」
俺たちは一緒に住んでいるが恋人じゃない。黒豹が誰と付き合おうが自由であるべきだ。
それなのに……どうして変な感じになるのだろうか?
もしかしたら、黒豹に彼氏ができてしまうと恋愛コンサルをやってくれなる。とでも心配しているのか?
黒豹が途中で投げ出すような奴じゃないことは、俺が1番知っているはずなんだが……
◆
「そろそろ年越しカウントダウン始まるよ~」
黒豹に言われて時計を見ると、針が0時に近付いていた。
「もうこんな時間か」
「そう。そろそろ今年も終わりだね」
年越しカウントダウンか。陽キャっぽいイベントだな。
俺は別に構わないのだが……
「いいのか。まだこのアニメ途中だろ?」
「いーのいーの、イベントの方が大事だよ」
「よくわからんが、そういうものか」
「じゃあ変えるね!」
恋愛アニメから地上波に切り替えてしばらくすると、テレビの中でカウントダウンが始まった。
「きたきた~!」
3.2.1…………
カウントダウンが終わると同時に「ハッピーニューイヤー」の文字がバァーンと表示された。
「あけおめ~、今年もよろ~!! 幸せ案件多めでいこ~♪」
黒豹がニコッと笑い、元気に手を振ってきた。
「……ああ、おめでとう。今年もよろしく頼む」
「ちょっと、ガッチー固すぎぃ! もうちょっと新年のおめでたさ、出していこうよっ!」
「そう言われても、俺にとって新年は暦の切り替わりに過ぎない。なんてことのない日常の延長だ」
「もう相変わらずだなぁ……ガッチーってば」
その時、テレビから歌が聞こえてきた。




