第36話 めりいくりすます
「………………」
どうしたのじゃねぇよ。言葉が出ないとはこのことだ。
なんだそのスカートの丈は……短すぎだろ
その前に、なぜオフショルダーなんだよ!
肩や胸元が危なっかしいくらいに露出してるけど大丈夫か。ポロリしそうだぞ?
いやその前に、寒くないのか?
「……その不埒な格好はなんだ? どこかで怪しいバイトでもして来たのか?」
「今どき『不埒』なんて言わないよ、何時代の人だっつーの! つーか、これクリパの衣装だし!」
「なるほど、パーティー用の服か」
「そう、可愛いでしょ〜♪ これ着て女子会で写真撮りまくってたんだ!」
「女子会……? 女子会だったのか……?」
思わず、小さな声が漏れてしまった。
「ん? なんか言った?」
「……いや、なんでもない。とにかく……そんなに肩を出してたら寒いだろ、服を着ろ」
「えー、せっかくだからガッチーにも見せてあげようとしてるのに~。どう似合う? ねえ似合うでしょ!?」
黒豹が俺の目の前でクルリと回った。
短いスカートの裾が遠心力でふわりと広がって——
「って、うぉい! あぶないぞ!!」
俺は咄嗟に目を逸らした。
「見てって言ってるのに……目逸らすとか、ひどくない!?」
「いや、今パンツ見えるところだったんだが……」
「別にいーじゃん。ガッチーだし……」
……なんだその理屈は?
俺を男として見てないってことか?
「意味が分からんが、まあいい。とにかくその服は危険だ……いや情報量が多すぎて目のやり場に困る。風邪引く前に着替えてくれ」
「あ、もしかして照れてる? 照れてるよね、ガッチー! 耳赤くない?」
「照れてない! こ、これは……暑いだけだ。もしかして『しもやけ』かもな」
何だよその目は。ほんとうだぞ!
うそじゃない。さっきから顔が熱いんだからな!
「はいはい、素直じゃないないなぁ。そういうことにしといてあげるぅ~」
黒豹はニヤニヤしながら、手に持っていた白い箱をテーブルにドンと置いた。
「じゃ~ん、これお土産でーす! クリパで余ったケーキなんだけど、ガッチーのために確保してきたんだよ」
「おお、ケーキか! さすが黒豹だな。開けていいか?」
「もっちろ~ん!」
箱を開けると、中には大きめのショートケーキがひとつ入っていた。
真っ白な生クリームの上に、大粒のイチゴが2つ乗っている。
「うまそうだが、結構大きいな……」
「そうでしょ~。ガッチ―と一緒に食べようと思って!」
そうか、だから大きいのか。普通のショートケーキ2個分くらいありそうだ。
「ん? お前、パーティでケーキ食べなかったのか?」
「食べたよ~。でもアタシもちょっと小腹空いちゃってさ。だから半分こしよ?」
俺は黒豹の提案を素直に受け入れた。流石にこの大きさをひとりで……というのは食べすぎだ。
しかし、わざわざ切るのも面倒ということで、ひとつのケーキをそのままつっつき合うことにした。
「メリークリスマス!!」
「めりいくりすます……」
だが、なぜ俺までこの謎セリフを言わにゃならんのだ?
俺にとってのクリスマスは、なんてことのない日常なのに。
ちなみに黒豹は、まだエロサンタコスのままだ。
「うまっ! 深夜のケーキってなんでこんな美味しいんだろ」
「深夜のケーキという背徳感が調味料なんだろうな」
艶めかしいデコルテラインを出したエロサンタが、ケーキを美味そうに頬張っている。
寒いから早く着替えろと言ったのに「めんどー」のひと言で拒否しおって。
……ったく。心配して言ってやっているのに、風邪引いても知らんぞ。
「わぁ! うまいこと言うね、ガッチー!」
「だが……明日、体重計に乗って絶望するなよ?」
「え~もう、やだ! 今その話しないでよ」
なぜ体重の話題になったらプリプリするんだ?
黒豹は太ってるわけでもないし、何の問題もないと思うのだが。
俺は改めて黒豹に視線を移した……目の前に露出度の高い黒ギャルがいるというこの状況。
その中で平常心を保ちながらケーキを食べるというのは、極めて高度な精神的修練になる。
明日には、悟りが開けるかもしれん。
「とか言ってさぁ。ガッチーも食べるペース早くない? あ、ちょっと、今クリーム多めのとこ取ったでしょ!」
「ふっ、早い者勝ちだ。食べるのが遅い黒豹が悪い」
「なにその理屈、最低っ! あ、じゃあイチゴは2つともアタシがもらうからね! ショートケーキのイチゴは女子の憧れなんだから!」
いや、お前こそ意味の分からん理屈を言ってるじゃないか。
「随分とメルヘンチックな妄想だが、そんなものは知らん!」
俺はフォークを光速で動かし、ケーキの頂点に鎮座しているイチゴのひとつにブっ刺して、速攻で自分の口に放り込んだ。
「ああっっ!! アタシのイチゴがぁぁ――!!!」




