第35話 冬休み突入
水族館の下見以降、俺たちの間には不思議な空気が流れていた。
決して気まずい関係になったわけじゃないのだが……
大水槽の前で黒豹が言った「これ、本番は星城院ちゃんとだもんね」という言葉が離れないのだ。
あの時の寂しそうな表情と声が……俺の頭の片隅でずっと引っかかっている。
「ガッチー、冬休みって予定とかあるの?」
「特に。これといってないな」
「ふーん」
「なんだ?」
「別に……ただ聞いただけ~」
冬休みに入ったいうこともあってか、俺たちの生活リズムは少しばかりスローペースになっている。
学校がない分、家にいる時間も増える。
すると当然のように、黒豹と顔を合わせる時間も増える。
だから顔を合わせる度に、余計なことを思い出してしまうのだろう。
◆
そして訪れた12月24日。
世間はクリスマスイブというお祭りムードで浮かれまくっている。
「ったく、クリスチャンでもないというのに……不思議な連中だ」
俺はそんな世間とは無関係に、ひとりで部屋の机に向かい参考書と格闘していた。
黒豹は家にいない。
アイツは夕方くらいになって「友達とクリパしてくる!」と言って出かけていったからだ。
普通に「そうか」で終わる話だ。
俺たちは同居はしているが、特別な関係じゃない。俺には黒豹を止める権利もなければ、その資格もないのだから。
そもそも黒豹はそういうイベントごとが好きな陽キャ属性だし、友達も多いからな。
イベントがある日にパーティーに参加するのは当然の成り行きだろう。
それに、黒ギャルがクリスマスイブの夜に家で大人しくしている方が不自然だ。
これは当然のこと……
それなのに、俺はさっきから集中力が散漫になっている。
「ふう…………」
リビングは静かで、集中するのにもってこいな環境であるはずなのだが。
いつもなら、リビングからは恋愛ドラマを見ている音に、お菓子の袋を開けるガサガサという音が聞こえてくる。
それに加えて「ねえガッチー見て! これウケるんだけど!」という底抜けに元気の良い声が聞こえてくる時間帯だ。
だが今はそれがない。
論理的に考えれば、静かで勉強に適した「最高の環境」であるはずだ。
それなのに……
「ダメだ。内容が全然頭に入らん!」
さっきから、数式が俺の頭を素通りしていく。
「……これじゃ効率が悪すぎるな」
勉強が全く身に入らず、何事にも集中できないこの感じ……前にも経験がある。
たしか、黒豹とギクシャクした時もこんな感じだったな。
こんな状況で勉強しても時間の無駄だ。
俺は軽くため息をついて、シャーペンを置いた。
黒豹は今頃、どこで誰と騒いでいるんだろうか。
陽キャが集まるクリスマスパーティか……男もいるんだろうか?
「いるだろうなぁ……」
あれだけスタイルも良くて。
派手で。
目立つギャルだ。
顔だってかわいいし、言い寄ってくる奴なんて山ほどいるだろう。
だが……俺には関係のないことだ。
そう自分に言い聞かせているのに……水族館で見た、あのどこか寂しそうな横顔がチラついて消えてくれない。
「ほんとうに……俺はどうしてしまったんだ??」
そうこうしているうちに、時計は深夜零時を回っていた。
諦めてそろそろ寝るかと考えていた時、「ガチャリ」と玄関のドアが開く音がした。
「ただいまーっ!! ガッチー起きてるぅー!?」
静寂をぶち破る、ヤケにハイテンションな声……黒豹が帰ってきたようだ。
あの雰囲気だと、返事をせずに放っておいたらさらに騒ぎ出しそうだ。
やかましくなる前に、俺は急いでリビングへと向かった。
「おう、帰ってきたか黒豹」
「あっ、ガッチー起きてた?」
「起きてるぞ、だが……もう少しボリュームを下げてくれ。もういい時間だからな」
「あはは、ごめんごめん! ついテンション上がっちゃってさ!」
リビングの電気をつけると、そこにはとんでもない格好をした黒ギャルが立っていた。
「なっ……!?」
白いファーの縁取りが付いた赤いミニワンピース。頭には三角のサンタ帽。
黒豹が……サンタクロースのコスプレをしているだとぉぉ!!!
「なにガッチー。どうしたの~?」




