第33話 計画の崩壊
期末テストが終わると、すぐに冬休みに入ってしまうものだ。
黒豹の通信簿からは奇跡的に「1」が無くなっていた。黒豹は飛び跳ねて喜んでいたが、油断せずに勉強はこのまま続ける方針だ。
必ず3年生に進級させるという契約だしな。
そして黒豹の恋愛コンサル契約も続行だ。
次の作戦は、知的な星城院さんが好きそうな水族館への下見だ。
もちろん俺は入念に計画を立てていた。
水族館のフロアマップを入手し、効率的な回り方を時間配分まで含めて完璧にスケジューリングした。
今、水族館の目玉は「深海生物特別展」らしい。
星城院さんは生物が好きだから、この特別展で知的な会話ができるはずだ。
これこそがパーフェクトプランだ。
――と思っていたのだが。
「なに……特別展が終わってるだと?」
水族館の入口に貼られた告知。「深海生物特別展は12月15日をもって終了しました」。
「……マジか」
「あちゃー。メインイベント消失だね」
さらに、館内を進むと。
「申し訳ございません。本日のイルカのショーは、機材トラブルのため中止とさせて頂きます」
「は…………」
俺の綿密な計画が、ガラガラと音を立てて崩れていく。
特別展終了にイルカショー中止。俺の組んでいたプランの中核とも言える2つが……パァだと?
来る前にネットで最新情報を確認しておくべきだった。俺の調査が甘かった。
「計画が……全部……」
俺はフロアマップを握りしめたまま、立ち尽くした。
「ガッチー、そんな顔すんなって。いーじゃん、計画なんかなくてもさぁ」
「よくない。これは……事前調査を怠った俺の責任だ」
「は? 責任とかどうでも良いっしょ。ほら、こっちこっち!」
黒豹が嬉しそうに俺の腕を引っ張った。
「見て見て。あっちにパリピいるよ」
「パリピ……?」
黒豹が指差した先には、クラゲのコーナーがあった。
暗い通路の中、大小様々な水槽が青や赤い光を放っている。
その中には触手をキラキラと発光させながらクラゲがゆらゆらと漂っていた。
「もしかして……パリピってコイツか?」
「そうだよメッチャ光ってるじゃん! ピカピカじゃん。どう見てもパリピだよ。海の中にもテンション高い奴いるんだね!」
「これは、盛り上がってるから発光してるってわけじゃない気がするが……」
でも黒豹の言いたいことがなんとなく分かる。ちょっとパーティっぽく見えなくもない。
クラゲコーナーはあまり調べてなかったが、黒豹に導かれるまま回ってみると意外にも面白かった。
水槽は照明の演出が凝っているし、クラゲのフワフワしている様は見ていて癒やされた。
次に向かったのは、直に生き物にさわれるタッチプールだった。
ここではネコザメやウニに触れるらしい。
黒豹がウニを持ち上げて「これガッチーに似てない? トゲトゲだし」と笑っている。
だが、俺はウニじゃない。
そんなにトガッていないからな。どっちかと言うとホヤあたりだと思っている。
「ほら、ガッチーも触ってみなよ~」
「俺に似てるんだろ。なんか触りたくないな……」
「え~! ……じゃあサメだっ!」
黒豹が俺の手を掴んで、無理やりネコザメの上に乗せた。本物の鮫肌はザラりとした感触だった。
「なんだこれ……ヤスリみたいだな!」
「あはは! ガッチー、今の顔最高だよ!」
驚いた俺の顔がそんなにも面白いのか、黒豹が笑いながら俺の手を離した。
タッチプールから離れても、さっきまで黒豹の手が重なっていた感触が……なんとなく残っていた。
次に行ったペンギンのエリアでは、1羽だけ群れから離れて端っこに立っているペンギンがいた。
「みてあれ! どうみてもガッチーでしょ! ボッチだよ!」
「うるせえっ、ボッチ言うな!」
「ガッチーペンギンだー! かわいー!」
「あれは俺じゃない。そして俺もペンギンじゃない」
……俺の計画は完全に崩壊したのに、俺たちは完全に笑っていた。
予定通りの完璧なコースじゃなくて、行き当たりばったりの無計画な順路。
なのに。
こんなにも――楽しい。




