第29話 これからはガッチー
黒豹が、バッと両手を上げた。
なんだ……どういう意味だ?
「……やったよ! 全教科赤点なし! 1個もなかったよ!!」
黒豹が大きくピョンっと飛び跳ねた。
「おぉっ!! やったなっ黒豹っ!!」
お前はやれば出来ると信じていたぞ……
いや、すげー心配してたけど……それは置いておこう。
「いえ~い!!」
黒豹が俺の前に両手を出してきた。
……なんだハイタッチか?
「……いや、ちょっと恥ずかしいだろ」
「いーじゃん! 早く! ほらほらっ!」
「マジか…………」
俺は周りをチラッと見た。数人の通行人がこちらを見ている。
まあ、俺たちは……っていうより黒豹が騒いでるから目立っているのだろう。
「ほらよ…………」
仕方なく俺は手を上げた。
パンッ、と乾いた音が響く。
黒豹の手のひらは、思ったより小さくて柔らかかった。
「やったぁ! ガッチー、ありがとう!」
「…………ガッチー?」
それ、俺のことか?
「うん! もう真面目くんは卒業でしょ! これからはガッチーで決まりだよ! 画地野だからガッチーっしょ!」
「つまり、あだ名か。つーか誰がそんなあだ名を許可したんだよ……」
「いーじゃん。許可とか必要ないし! だってガッチーだもん。そんな感じだし。ガッチー、ガッチー! うぇ~い!」
「ったく……好きにしろ」
そんなに嬉しそうにクルクル周って……なんだか犬みたいだな。
アハハと笑いながらピョンピョンしてるけど……なんで「ガッチー、ガッチー!」と連呼してるんだ?
……テストの結果を喜べよ。俺をあだ名で呼ぶことの方が嬉しいみたいに見えるぞ?
「ガッチーのおかげで赤点回避出来た〜!!」
「いや、お前も頑張っただろ……」
黒豹は、俺のツッコミなんて聞こえて無いのか上機嫌で「ガッチー!」と連呼している。
「ったく、おかしな奴だな……」
よくわからんが、「黒豹と一緒に達成した」というこの感覚。
案外……悪くないかもな。
「テスト頑張ったご褒美欲しい~! 焼肉食べたい~!」
その夜。
ご褒美に黒豹が焼肉に行きたいと駄々をこね始めた。
「なるほど、ご褒美か……」
たしかに黒豹は、苦手な勉強をめげずに頑張った。何回も逃げ出しそうになったけど、ちゃんと向き合って結果を出した。
そこは褒められる部分だろう。
まだ留年回避が確定したわけじゃないが「打ち上げ」的なものをやってもいいかも知れない。
「じゃあ、お前の奢りでどうだ?」
「はぁ? そこはガッチ―の奢りでしょ!」
「焼き肉を食べたいのは黒豹だろ? なぜ俺が奢る必要がある」
「ケチっ……ガッチ―のケチ! そんなんじゃ星城院ちゃんに嫌われるからね!」
「くっ……」
何かあればすぐに星城院さんを持ち出しやがって。
「いーじゃん、奢ってくれたって。アタシのご褒美なんだから……」
「そう、だな……仕方ない、奢ってやるよ。だが今回だけだ。今日だけだからな!」
「イエ~イっ!! 奢りの焼肉ぅ~!!」
結局、俺の奢りで焼肉屋に行くことになってしまった。
店はアーケード街にある食べ放題の焼き肉屋にした。とてもじゃないが単品で頼むような所は経済的にムリだからな。
「お手軽コースでいいよな?」
「ねえガッチ―。アタシ、牛タン食べたいなぁ~」
「なんだとっ?」
お手軽コースはいちばん安いだけあって、牛タンはなかったはずだ。
急いでメニューを確認すると……おっ、豚タンならあるぞ。
「豚タンで我慢してくれ……」
「やだやだ~。アタシ牛タン食べたいっ!」
ぐぬぬ……プンスカしやがって。
スタンダードコースは高いんだぞ。
でも今日は黒豹が頑張ったご褒美なわけだし、少しくらい奮発してもいいのか?
「わかったわかった。じゃあスタンダードコースにするか」
「イエ~イ!!」
まったく、嬉しそうにしやがって。
と思っていたのだが……
席に着いた黒豹は、カルビを山のように注文した。
Why!?




