第23話 奇跡
映画が終わり、場内の照明がゆっくり明るくなると、黒豹が「う~ん」と伸びをした。
「はー、すっごい良かったぁ。途中で泣きそうになっちゃった」
「誤魔化すなって……お前、泣いてたろ!」
「泣いてないし! カラコンがズレただけだし! それかゴミが入っただけだし! 泣いてないし!」
なんだそのわかりやすい嘘。そもそもラストシーンの時にお前の方から「ズズッ」って鼻をすする音が聞こえてんだが。
つーか、涙拭いてるのも見てたんだが……まあいい。
「この映画どうだった? 真面目くん」
「……まあまあだったんじゃないか?」
「えー、まあまあって言った? 真面目くんってハートが死んでるの? めっちゃいい映画だったじゃん!!」
「お前と違って、恋愛映画とかイマイチよく分からねぇんだよ。だからそのなんだ……『まあまあ』っていうのは好評価だと思ってくれ」
「なにそれ、素直じゃないなー。そんなんじゃ人生損するよ? そろそろ真面目くんも恋愛について分かってきたんじゃないかな~って思ってたのにさ……」
「まあ……それなりには分かってきたよ」
どっちかって言うと映画より、お前の恋愛事情の方がよっぽど気になったけどな。
こんなこと言えないけど。
黒豹は「それなりってなんだよ」って言いながらも妙に嬉しそうだった。
放課後になり、昇降口で靴を履き替えていると、誰かにいきなり後ろから腕を掴まれた。
振り返ると、やっぱり黒豹だった。
「ちょっと真面目くんっ。今から友達と合流すんだけど、一緒に来て!」
「はぁ? なんでだよ」
「いーから! 星城院ちゃんもいるんだよっ!」
「なん……だとぉぉぉ!?」
星城院さんがいると言ったのか?
それってもしや……
「ちょっと待て。心の準備が出来ていないぞ!」
「準備とか待ってらんないし。いいから自然にしてね。偶然会いましたって感じで行くからね」
「お、おう……」
黒豹に引きずられるように連れて行かれた俺は、校門の近くにいた女子のグループに合流した。
4、いや5人の女子たちがいる中に……女神がいた。そう星城院さんがいるのだ。
他の4人など一瞬にして霞むほどの美しさ。俺の目には星城院さんしか入らない。
「はいは~い。待たせちゃったかなぁ~?」
黒豹が手を振りながら自然に輪に入っていく。
おい黒豹。これ……俺はどうしたらいいんだ?
「あげはー! おっそいよー」
「ごめんごめん、トイレ行ってた。この人さ、アタシと同じクラスの画地野くんっていうんだけど、そこで一緒になってさ」
「え、画地野くん? あー、頭いい人だよね! 知ってる~」
「そうそう、クソ真面目なの。でも画地野くんって、めっちゃ本詳しいんだよ。星城院ちゃんと趣味合いそうじゃない?」
おいおい。ちょっとあからさますぎないか。攻めすぎじゃないか?
だが、星城院さんがこちらを見た。
「画地野くん、図書室でたまにお会いしますよね。どんな本が好きなんですか?」
おおー! 星城院さんから話しかけられた。しかも俺を覚えてもらっている。
図書館作戦の努力が報われたぞ!
「ええ、そうですね。本はよく読んでいます。主にミステリーとかSFが好きですかね」
落ち着け。普通に話せば大丈夫だ……。
黒豹との修行を経た俺は、以前の俺じゃない。
星城院さんとだって、まともに話せるようになっているはずだ。
緊張さえしなければ、大丈夫だ。いける!
「そうなんですね。私もミステリー好きですよ。最近は、東野山圭三の作品を読んでます」
「東野山圭三ですか……! 俺も読みました。叙述トリックの使い方が秀逸ですよね」
「わかりますか!? あの伏線の回収が本当にすごくて毎回驚かされます……」
おお……なんだこの奇跡は!!
あの星城院さんと会話が弾んでいる……だと?




