第22話 黒豹の独り言
デートコースの下見は続行だ。
俺たちは黒豹の提案でシネコンまでやってきた。
映画館はデートスポットとしてあまりに有名だからな。下見しておいて損はないだろう。
星城院さんの好みのジャンルは不明だが、図書室で読んでいた本から推測するに……フランス映画のような文学作品が好みかもしれない。
「じゃあ、このあたりでも見ておくか……」
「え、こんな映画にすんの~? ムリ~! 絶対寝るんだけど」
俺が提案した映画のポスターを見た黒豹が「イヤンイヤン」言いながらに駄々をこねまわしている。
落ち着きねぇな、まったく。お前は子供かよっ!
「あのなぁ。星城院さんの好みに合わせるんだぞ。我慢しろ」
「真面目かよっ! これ下見でしょ? だったら別に映画の内容なんてなんでもいいじゃん。大事なのは……映画館の雰囲気とか席の感じとかなんだからぁ!」
「くっ、それは……そうだが……」
くそ、正論だ。黒豹のくせにまともなことを言うじゃないか。
「でしょ? じゃあ、こっちの恋愛映画にしようよ。アタシこれ見たい」
「なんでお前の好みなんだよ」
「だって下見なんだから、映画の内容はなんでもいいって言ったじゃん。はい決定! もう決めました! これにします!」
「………………」
ほんとに強引なやつだなコイツ。
アタシが見たいからって……どんな謎理論だよ。無理やり押し切リやがって。
かといって、俺が見たい映画とか無いし……まあいいか。
結局、俺たちは黒豹の選んだ恋愛映画を観ることになった。
◆
俺の人生において、恋愛映画などというものは黒豹と関わるまでは自発的に観たことがなかった。
最近は家で黒豹に強制的に見せられているが、映画館でなんてもちろん見たことない。
はっきり言って、今見ているやつと家で見せられているやつで何が違うのか、よく分からなかったりする。
スクリーンの中のではお決まりのように男女が見つめ合い、手を繋ぎ、すれ違い、また惹かれ合う。
相変わらず非効率だな、と思う。
好きならさっさと「好き」言えばいいだろうに、なぜコイツらは揃いも揃って回りくどいことをするのだろうか?
隣にいる黒豹は異常なほど真剣に画面を見つめている。
普段見ているものとそんなにも違うのだろうか?
敷いて違いをあげるとすれば、この映画の主人公がヒロインをとても大切にしていることだろうか?
雨の中で自分のコートをかけてやったり、彼女の夢を全力で応援したり。
あんな献身的なやつ、現実にいるのか?
甘すぎる展開に砂糖を吐きそうになるんだが。
それなのに……隣の黒豹は、なにかに憧れるような目でジッとスクリーンを見ている。
よく見てられるな、と思っていると黒豹は「……いいなあ」と呟いた。
ほとんど聞こえないくらいの声だが、俺にはちゃんと聞き取れた。
「私も、あんな風に大切にされたい……な……」
なんだって……聞き間違いか?
だってお前は……男子からモテまくりのギャルで、クラスでも屈指の超絶陽キャで、コミュ力お化けの黒豹だろ?
そんなお前が「大切にされたい」って言ったのか?
彼氏だっていっぱい居たことがあって……俺なんか目じゃないくらいに異性との経験があったんじゃないのかよ?
それなのに、黒豹の横顔は冗談を言っている雰囲気じゃなかった。
映画のヒロインに、本気で憧れている?
もしかして……お前。今まで男に大切にされたことがないのか?
どういうことだ。男からの人気は高いはずだろ?
それなのに……なんで「大切にされたい」とか言うんだ。
……お前の今までの恋愛って、いったいどんな感じだったんだよ。
そこからは、映画の内容がまったく頭に入らなくなった。
スクリーンの映像よりも、隣の黒豹のことばかりが気になってしまった。
こいつの過去に何があったのか。どんな男と付き合って、どう扱われてきたのか。
そんなことは……聞くべきじゃない。俺たちの契約とは何の関係もないことだ。
分かっているのに……気になって仕方がなかった。




