第21話 素直なお前は気持ち悪い
黒豹にかまっていてもしかたないので、俺は珈琲ぜんざいを一口食べた。
「これは……美味いな!」
珈琲の苦さと甘さが調和していて、思っていたより数段美味い。
「ほんと? こっちも甘くて美味しいよ!」
黒豹がクリームソーダの白玉をスプーンですくって、嬉しそうに頬張っている。
「真面目くんも1個食べてみる?」
「いや、いい。俺にも白玉はあるからな」
「あっそうだね。じゃ……アイスクリームどう?」
「それもいらん」
「えー。せっかくシェアしようとしてるのに……わかった。アタシとシェアするの恥ずかしいんでしょ?」
「そういう問題じゃない。口の中で珈琲ぜんざいと喧嘩しちまうだろ」
「そんなことないのに。じゃあ、そっちのぜんざい一口ちょうだいよ」
「断るっ!」
「真面目くんのケチっ! そんなこと言ってると星城院ちゃんに嫌われるからね!」
「くっ、仕方ない……やるよ」
結局、俺は珈琲ぜんざいを1口あげて、クリームソーダ味に染まった白玉を1つもらった。
「真面目くんの珈琲ぜんざいも美味しいじゃん!」
「そうなんだよ。珈琲の風味がいいだろ?」
「でも、アタシのも美味しいでしょ~?」
「邪道だと思ったが……クリームソーダにあんこと白玉は、意外と合うんだな」
悔しいことに、結構うまいんだよ。
俺の入念な調査より、黒豹の思いつきの方が美味いなんて……どうなってるんだ?
よく分からんが、負けた気がする。
俺はノートを開き、「純喫茶:採用。備考:クリームソーダの白玉トッピングは邪道だが、味は本物」と書き足した。
◆
「今日の会計だが、下見の経費として俺が全額持つから」
「え、いいよ。割り勘にしよ?」
「お前、金なんかあるのか?」
「あ……まだ、振り込んでもらってない」
ほれみろ。無理すんな。
「気にすんな。ここは素直に奢られておけ」
「うん……ありがと」
なんだ、急にしおらしいな。
いつもの軽いノリの「あんがとー!」とだいぶ違うじゃないか。具合でも悪いのか?
「ん? どうした。気持ち悪いな」
「うるさいな~。せっかく素直に感謝したのに~!」
「素直なお前は気持ち悪い」
「ひっどぉぉー!!!!」
「いッて! こらやめろっ」
バシバシ叩くんじゃない。腕が折れるだろうがっ。
さっきの「ありがと」は乙女みたいな感じだったのに。
速攻でいつものテンションに戻りやがって。
◆
「あそこの純喫茶は良かったな。雰囲気もいいし、ぜんざいも美味かった。これなら星城院さんも気に入るだろうな」
「だねー。すごくいい店だったじゃん。また来たいな~」
「また? これは下見だぞ。そう何回も下見するものじゃないだろ」
「……ああ、そっか。そうだよね」
どうした? 急に元気ないじゃないか。
黒豹のトーンが落ちたように感じたが、気のせいか?
「また来てもいいけど、今度は黒豹が奢れよ」
「え~! 女子にたかるとか最悪なんだけど~」
「お前が次回奢ることで割り勘になるだろ?」
「うえ~、何その計算……キモ」
「なんにせよ、今日の下見は成功だったな。純喫茶のデータは十分に取れたし」
「ねえねえ、まだ時間あるじゃん? この後映画でも見に行こうよ」
「お前……金ないって言ってたくせに何いってんだ?」
「いーじゃん。経費で落としてよ。ねっ?」
「あのなぁ……経費っていっても、これは俺たちの生活費なんだぞ」
「デートで行くかも知れないじゃん? 映画館……」
なるほど、その考えはなかった。
映画館といえばデートの鉄板スポットだもんな。その可能性は大いにある。
「たしかに。じゃあついでに、映画館も下見しておくか」
「やったぁ~!」
「ったく、調子の良いやつだな……」
だが、黒豹のおかげで星城院さんとのデートプランが着々と形になりつつあるのも事実。
俺ひとりではここまで出来なかったわけだし、映画代くらい出してやってもいいだろう。
よく分からないが、さっき黒豹が言った「また来たいな~」が耳に残っているのはなぜだろう?




