第20話 エモいってなんだ
「そーだよ。アタシが女子目線でチェックしてあげる。これもコンサルの一環だから!」
まあ……確かに、女子の視点でのフィードバックは有用だ。
俺1人で行っても、店の雰囲気が女子ウケするかどうかなんて判断できないしな。
黒豹が居ればそれも可能になるというわけか……
「わかった。じゃあ、今度の休みに行くぞ」
「おっけー。やった~! 楽しみ~!」
……やけに嬉しそうだな。
「遊びに行くんじゃないからな? あくまで下見だということを忘れるなよ」
「はいはーい♪」
おいおい、コイツほんとにわかってるのか?
楽しむためじゃないんだぞ。データ収集のためだからな!
休日になり、俺たちは商店街にあるレトロな純喫茶へ下見に来ていた。
赤レンガ作りの外観に、木の看板。
黒板に手書きされたメニューに、ステンドグラスのガラス。
外観からして、昭和の匂いが全開だ。
「うわー、エモい! なにここ超かわいいんだけど!」
「エモい……? エモいってなんだ」
わからん。ド◯えもんの親戚か?
「エモいはエモいだよ。何か胸がキュンとする感じ? 雰囲気がいいってこと!」
「もしかして、エモーショナルのことか?」
「エモーショナル……ってなに?」
おかしい。合ってそうなのに、話が通じないぞ?
「ふーん、まあいいや。入ろうか?」
こいつ流しやがったな……まあいい。
よくわからんが、黒豹のリアクションを見る限り、この店は女子ウケも良さそうだな。
店内に入ると、予想以上に落ち着いた空間だ。
革張りののソファー。木目のテーブルと床。壁にはアンティークっぽいランプ型の照明。
BGMはお落ち着いたジャズときた。
これは……悪くないぞ。お洒落に詳しくない俺でも、雰囲気がいいことはさすがにわかった。
「すっごーい! めっちゃいい。雰囲気最高じゃん!」
黒豹がキョロキョロと店内を見回している。
黒ギャルが純喫茶ではしゃいでいる図は、正直ミスマッチもいいところだが……まあ、楽しそうなら何よりだ。
ん……何だ…………今の考えは?
別に何よりではないだろ。本命は星城院さんだからな。
案内された席に着くと、黒豹がメニューを開いた。
だが、俺はメニューなど事前にリサーチ済みだ。
「星城院さんの好きなぜんざいだが、ここには『白玉ぜんざい』と『珈琲ぜんざい』の2種類がある」
「へぇ~、さっすがよく調べてるぅ!」
「そうだろ? 俺は喫茶店ならではのメニュー『珈琲ぜんざい』を注文しようと考えている」
「えー。もう決めてんの? 全然メニュー見てないじゃん」
「俺が調べに来たのは店の雰囲気と、ぜんざいの味だからな。黒豹には『白玉ぜんざい』を頼んでもらいたいんだが」
「え~やだよ。アタシ、クリームソーダが飲みたいんだけど……あ、これめっちゃ気になる」
黒豹がメニューの端を指差して見せてくる。
「あんこと白玉って追加でトッピングできるみたいだよ?」
「ぜんざいを増量するのに使うんじゃないか?」
「決めたっ。クリームソーダにトッピングしよっと!」
「はぁ!? ……クリームソーダにあんこと白玉だと? なんだその邪道は? バチがあたるぞ……」
「いーじゃん、いーじゃん! こういうのはノリだって。邪道とかどーでもいいし」
まったく、自由なやつだな。
「すみませーん、クリームソーダにあんこと白玉トッピングお願いしまーす!」
「おい! 本当にそれで良いのか!? 腹壊しても知らんぞ……」
「へーきへーき……ほら、真面目くんも早く頼みなよ」
「……珈琲ぜんざいでお願いします」
しばらくすると、俺たちのテーブルにそれぞれの注文が届いた。
俺の珈琲ぜんざいは、お洒落な器に上品に盛られているが、見た目は正統派のぜんざいとほぼ変わらない。
一方、黒豹のクリームソーダは……メロンソーダの鮮やかな緑色の上に白いバニラアイスと黒いあんこが浮かび、その横にもっちりした白玉が3つ並んでいる。
「なんだ…………その見た目はっ?」
「うわぁ~! アイスとあんこの組み合わせ、意外とかわいいんだけどっ!」
のんきに黒豹がスマホで写真を撮っている。
わからん……食べ物にかわいいとかあるのか?
「食べ物は味だろ。見た目とかどうでもいいんじゃないか?」
「え~、見た目って大事だよ? 星城院ちゃんだってSNSくらいやってるでしょ。そしたら見た目がかわいい方がポイント高いに決まってんじゃん!」
「そ……そうなのか?」
「そーだよ。見た目と味の両立。これがほんとの最大化ってやつだよ!」
くっ、俺の言葉を使いやがって。
だが……確かにそうかもしれないな。
視覚的なインパクトも、デートにおいては重要な要素かもしれない。
俺はノートに「視覚的インパクト=好感度」とメモした。
「真面目くん、それなに書いてんの?」
「もちろん攻略メモだ。忘れないようにしないとな」
「うわぁ、役に立たなそう……」
「うるせえな」




