第18話 黒豹の変化
翌日、学校で少し困ったことが起こっていた。
黒豹が、教室や廊下で俺に嬉しそうに近づいてきては、こまめに星城院さんの情報を耳打ちしてくるのだ。
「今日のハンカチは猫柄……」
「星城院ちゃん、さっきトイレ行ったよ」
星城院さんの情報をくれるのは嬉しいことだが、問題なのはその頻度だ。
休み時間の度に俺に近寄ってくるんだが?
おいおいどうした? あきらかに回数多いだろ。
本人はさりげないつもりらしいが……距離近すぎだし、めちゃくちゃ目立ってるぞ!
急になにがあったというんだ?
昼休みになり、俺が自分の席で昼飯を食べようとしていると、後からポンと肩を叩かれた。
振り返るとやっぱり、黒豹だった。
「ねえ真面目くんっ。星城院ちゃん今日お弁当忘れたっぽいよ。購買に行くってさ」
「なにっ!? 本当か!」
星城院さんは弁当派なので、購買に行くことなどほとんどない。
これは……星城院さんの趣向を知る絶好の機会だ!
購買での行動は分析したことがないからな。ぜひ調査しなければなるまい。
「うん、急ぎなよ。もう購買行っちゃうよ?」
「よし、すぐに行く! ……と、その前に言いたいことがあるんだが」
「なになに……もしかして感謝の言葉かな?」
「違うわっ! 今日はやけに絡んでくるよな。学校であんまり絡まないって話だっただろ?」
「はぁ~? せっかく情報渡してあげてるのにその態度はないでしょ。マジ最低~」
「あのなあ……周りに見られたらどうするんだよ」
「いーじゃん。見られたらなんだっつーのよ?」
「……噂になるだろうが」
なんだよ。そんな冷めた顔して……
俺みたいな陰キャと噂になったら、お前だって困るだろ?
お互いのためなんだぞ?
「……ふーん。アタシと噂になったら、そんなにマズイわけ?」
「そりゃそうだろ。星城院さんの耳に入ったらどうするんだ。俺たちの作戦が失敗するぞ。それでもコンサルか?」
「そんくらい問題ないっつーのっ!!」
黒豹はプクーっとホッペを膨らませて、振り返りもせずにプリプリしながら去っていった。
……なんだアイツ?
俺、何か気に障ること言ったか?
イマイチよく分からないが、とにかく急いで購買へと向かうぞ。
星城院さんの生態を調査するチャンスだ。せっかくもらった情報を無駄にするわけにはいかない。
購買に着くと昼飯を求める人ですでにごった返していた。
しかも星城院さんの周りには友人もいる。とてもじゃないが声をかける隙などなかった。
残念だが、離れたところから彼女がパンを買う姿を眺めることしか出来ない。
とりあえず星城院さんが買った「チョコチップメロンパン」を脳内ノートにメモしておく。
声すらかけられなかったが……まあいい。
やはり星城院さんは甘い物が好きで間違いない。これがわかっただけでも収穫だ。
とはいえ、黒豹にはちゃんと注意しておかないとダメだろう。
今日はヤケに目立ってしまったからな。
何回も黒豹と話しているせいか、クラスの数人が不思議そうな顔をしていたことだし。
陰キャで真面目な俺と、陽キャで黒ギャルな黒豹。
組み合わせとしてはあり得ないほどに不自然だ。その2人がコソコソ話をしていたら目立って当然だろう。
……気をつけないといけない。
あくまで俺と黒豹の関係は契約上のパートナーであって友人ではない。
同居していることがバレたら問題になりそうだし、学校ではなるべく接触を控えるべきだろう。
教室に戻ると、黒豹は友達に囲まれていつも通りキャッキャと笑っていた。
さっきは妙に機嫌悪そうだったが、あれはなんだったんだ?
……俺の気のせいか?
家にいる時は単純なくせに、学校での黒豹は考えが読めない。




