第13話 パパ活してるのか?
「いや……真面目くん、いつも偉そうにしてるのに『ありがとう』は素直に言えるよね」
「感謝すべき時は感謝する。それが真理ってものだ」
「あはは。真面目くんっぽいね」
黒豹は笑って、友達の方に走っていった。
「あげはー! なにしてたの~?」
「なんでもない~! ちょっと電話してただけ!」
とっさの嘘も違和感ない。諜報員として素晴らしい才能だ。
……今後の黒豹の手腕にも期待できそうだな。
◆
黒豹との夜の勉強を終えた俺は自室に籠もっていた。
机に向かって、今日の情報をノートにまとめたいからだ。
その名も「星城院さん攻略ノートverII」だ。
初代攻略ノートは「犯罪の証拠」だと言われたのでとうに処分してある。
願わくば、このノートが同じ運命を辿らないことを。
「どれ……まとめていくか」
黒豹が持ってきた情報をノートに書き込んでいく。
読書好き。図書室。
ぜんざい好き。駅前の純喫茶……と。
この情報から星城院さんにアプローチする計画を練るとするか。
まずは図書室で接触を図るのが無難だろう。
俺も本は好きだし、図書室に行くのはなんら不自然なことじゃない。
問題なのは会話のきっかけだが……星城院さんが本好きなら、やはり本の話題だろう。
今読んでいる本について質問する。そこから会話を広げていこう。
……問題は、俺の会話が続かないことだ。
憧れの星城院さんを前に、まともに話せる自信がない。
だいたい、あの天使と何を話せば良いんだ?
――今日も美しいですね。
違うな。
――おや、天使がこんなところで何を?
こんなことを言ったらキモいナルシストみたいだな。
ダメだ。ろくな言葉が浮かばない。
ここはコンサルである黒豹に相談すべきだな。ついでに会話の練習も必要かもしれない。
扉の向こうから、小さな音が聞こえる。
まだリビングにいるみたいだな。
俺は部屋を出ると黒豹に話しかけた。
「黒豹、少し相談なんだか……」
黒豹は真面目な顔でスマホの画面を眺めている。
なんか様子が変だ。
「どうした?」
「パパに相談してみたんだ」
「パパ? まさか……パパ活してるのか?」
「ううん。そういうのじゃなくて……アタシの本当のパパ」
「…………」
なるほどな。どおりでいつのもの調子じゃないわけだ。普段ならもっと元気なのに、暗いというか覇気がない。
でも、こんな時にどう接すれば良いのかよく分からない。
「アタシ、ママに追い出されたじゃん? お金ないって言ったら、アタシの口座に直接養育費振り込んでくれるって」
「そうか。じゃあ、金の問題は解決だな」
「うん……」
今までは母親の口座に振り込んでいたのだろう。
黒豹は母親から追い出されたのだから、振込口座の変更は妥当だろう。
だが、無一文で娘を放り出すとは……なんと言う母親か。信じられん。
「ねえ……アタシっていらない子なのかな?」
なんだ……この胸の奥がギュッとなる感覚は。
俺はこういう時、何と言えばいい?
よく分からないが、黒豹の言葉を黙って聞き流してはいけない気がする。
何か、何か言わないと!
「そんなことはない! 少なくとも俺にはお前が必要だ。いてくれないと困る存在だ」
「まあ、契約してるもんね……」
「それだけじゃない。お前がいると、家が賑やかで……いい」
これはお世辞じゃない。俺がそう感じていることだ。
「ふーん。じゃあさ、星城院ちゃんからアタシに乗り換える?」
「俺は清楚な人がタイプだから、それはないな……」
「あっはっは。真面目くんは本当に真面目だね!」
何だその笑い方。なかなか良い返しをしたと思ったのにつまらなかったか?
黒豹はスマホをチェックし始めてから、ちょっとだけ間を置いて「……まあ、知ってたけどね」と呟いた。
その声が、あまりにも小さかったのは……俺の返しがあんまり面白くなかったからだろうか?
黒豹の様子がおかしかったのはあの時だけで、次の日はいつもの様子に戻っていた。
それから数日が過ぎ、気がつけば同居生活が始まって1週間程が経っていた。
この頃にはテレビや風呂の問題も、なんとか折り合いがついてきた。
慣れというのは恐ろしいものだ。
諦めただけという説もあるがな。
後日、元に戻った黒豹に星城院さん攻略について相談したところ、シンプルな提案をもらった。




