第14話 図書室大作戦
「まず図書室で偶然を装って隣に座る。んで、本の趣味を聞いてみよう!」
「偶然を装う……わざわざそんな非効率的なことを? 接点がない相手の隣に突然座るのは不自然すぎないか? 共通の話題を用意してからアプローチすべきだと思うが」
「だからぁ~。その話題を作るために座るんでしょうが。恋愛ってのはね、効率なんてどうでもいいの。大事なのは雰囲気なんだよ」
反論しようとしたが、黒豹は恋愛に関しては優秀なコンサルタントだ。
恋愛弱者の俺が反論するのは意味がないかも知れない。
ココは黒豹の提案を飲むことにした。
そして――放課後
俺は図書室の扉を開けた。
やはり図書室というのは特別だな。学校の中でも静かでいい。
本の多い場所というのは、俺に取って落ち着く空間なのだが、さっきからまったくもって落ち着かない。
俺は星城院さんを探す。
あくまで自然に……だ。決してキョロキョロしてはいけない。
さりげなく歩いていると、窓際の席に星城院さんを見つけた。
どうやら薄めの文庫本を読んでいるようだ。
サラリとした長い髪が肩にかかって、太陽の光を反射する様は完璧だった。まるで絵画の中から飛び出してきた聖女。
俺は落ち着いて深呼吸をすると、家で練習してきた「自然な歩幅」と「自然な視線」を意識しながら、彼女の隣の席へ向かった。
椅子を引いて座る。ココまでは無言だ。
そしてカバンを置く。
後は偶然を装って、自然に話しかけるだけ。
星城院さんからは、黒豹の甘ったるい香水とは違った、清楚で落ち着く香りがする。
よし落ち着け俺……台本通りに行くぞ。
俺は黒豹と練りに練った台本を思い出す。
まあ、練ったのは俺で黒豹はダメ出ししてただけなんだが……
「あ、あの」
俺が声を掛けると、星城院さんが本から顔を上げた。
そしてこちらに視線を向けてくる。
目が合った……透き通るような、綺麗な瞳に胸が高鳴る。
ヤバい! 思考が、吹き飛んでしまう!
その前に話しかけろっ!
「…………その本、面白いですか?」
ああ……最っっっ悪だ!
声が裏返ってるし、完全に棒読み。しかもセリフを飛ばしてしまった!
街角の怪しい勧誘よりも俺の方が100倍怪しい。
星城院さんは少し驚いたように目を瞬かせたながらも、優しく答えてくれた。
「え? あ、はい……面白いですよ」
だが、顔は困惑している――そりゃそうだよ。
同じクラスとはいえ、今まで話したことのない陰キャのクラスメート(俺のこと)だ。
たくさん席が空いている図書室で突然隣に座ってきたと思ったら、お経みたいなトーンで話しかけてきたんだからな。
だが、ここから巻き返せ、俺っっ!
「そう、ですか。それは、効率的な時間の使い方ですね」
「……え? 効率的ですか?」
ぬあぁぁぁ……何を言ってるんだ俺はぁぁぁぁ!!!!!
テンパりすぎて、わけのわからないワードが出てきた。
「あっ、いや、失礼しました。その、データ収集を……ですね」
「データ……ですか?」
星城院さんが首を傾げている。
無理だ。これ以上は……無理だぁぁ!!
「すいません、ちょっと急用を思い出したので失礼しますっ!」
俺は椅子から立ち上がり、カバンを掴むと、急いで図書室から逃亡した。
なんだこれっ、まずいぞ。失敗だ!
完全に不審者として印象付けてしまったぁぁぁぁぁぁぁぁ!
◆
「ぎゃはははっ!! なにそれ!! 効率的な時間の使い方ぁぁwww」
帰宅するなり、報告を聞いた黒豹は腹を抱えてソファーを転げ回っていた。
「笑うな。俺はこれでも真剣だったんだ……」
「真剣なのはわかるけどさ! そんなこというやつ聞いたことねぇ~~!!」
笑い転げる黒豹を見た俺はため息をついて、リビングの床にへたり込んだ。
「……だから言っただろ。俺にはコミュニケーションのレベルが絶対的に足りてないんだよ」
「でもお笑いのレベルは上がったはずだよ。ほんとに最高のネタなんだけどぉぉぉ! ぎゃははははっ」
よほどツボに入ったのか、黒豹は涙を流しながら笑っている。
「くっ……いいからアドバイスをくれっ!」
黒豹は「ふぅふぅ」言いながら、涙を拭くとゆっくりと起き上がった。
「真面目くんさ、力みすぎなんだって!」
「力むだろ。相手は憧れの星城院さんだぞ。天使か女神かって存在なんだ!」
「あのさ、星城院ちゃんだって普通の女の子なんだよ? 人間なんだから」
「だが俺にとっては神聖な存在だ……」
「はいはい、キモいキモい。じゃあ真面目くん……ちょっと、会話の練習しよっか」
「会話の練習だと?」
黒豹が俺の正面に座り直した。とはいえ、あぐらをかいて頬杖をついているが。
「アタシが星城院ちゃん役やるからさ。真面目くん、アタシに話しかけてみてよ」
「はぁ!? ……お前が星城院さん役だとっ?」




