第12話 星城院さんの新情報
寝ていいとは言ったけどさ、もうちょっと片付けしろよ。
と思いながら、仕方なく俺は教科書をまとめてテーブルの端に積んだ。
……別に、片付けたかったからじゃない。散らかってると気になるだけだ。
「まったく、どんだけ寝るの早いんだよ。の◯太かよ」
つーか、何も掛けないで寝たら風邪ひくだろ……。
俺は黒豹の部屋から毛布を持ってきてそっと掛けた。
普段のキラキラしたギャルっぽい雰囲気と違って、無防備で表情も妙に幼く見える。
「何で俺がお前の世話しなきゃなんねえんだよ……」
俺はリビングの電気を消して部屋に戻ることにした。
黒豹は気持ちよさそうに寝ている。
まあ、それだけ勉強を頑張ったってことだよな……
「おやすみ、黒豹」
どうせ聞こえてないだろうけど、声を掛けてから自室に戻った。
◆
教室を出て歩いていると、人気のない廊下の隅で黒豹が俺にコソッと近づいてきた。
「ねぇねえ真面目くん。こっちこっち」
「……なんだよ。学校では関わらないって話だっただろ?」
「いーからっ。ほら耳貸して、いい情報仕入れたんだから」
「……情報?」
「そっ、星城院ちゃんの情報……」
「なにぃ!」
それを早く言えっ!
俺は黒豹に吸い寄せられるようにスッと耳を近寄らせた。
「星城院ちゃんね、読書が好きらしくて。図書室で結構見かけるんだってさ」
「……読書好き、だと?」
「うん。放課後に学校の図書室よく行ってるらしいよ。あの子の仲良しグループの子から聞いたから間違いないっしょ!」
「そうか……でかしたぞっ、黒豹!」
星城院さんは読書好きか……
何を隠そう、俺も読書は好きだ。
つまり、俺たちは共通の趣味があるってことだ。
これは接点を作りやすいんじゃないか?
「あと、甘いもの好きって話だけど。和風のやつなんだって」
「和風……大福とかか?」
「うーん。なんて言ったかな……おしるこ。じゃなくて……あ、ぜんざいだ。駅前の純喫茶でぜんざいを食べてるらいしいよ」
「ぜんざい……これはまた古風だな」
「最近流行ってるのかな? 真面目くん、知ってる?」
「知らんな……俺がスイーツの流行りとか知ってるわけないだろ……」
SNSさえやってないというのに分かるわけないだろ。
むしろ、そういうスイーツとかは黒豹の方が詳しいんじゃないのか?
「そっか~。じゃあ純喫茶は行ったことある?」
「当然ないな……うーむ、これは調査が必要かもな……」
「はい、質問~。ぜんざいとおしるこって何が違うの?」
「おしるこが小豆を裏ごししたもので、ぜんざいは粒をそのまま残したもの……だったはずだ」
「真面目くん物知りぃ~!」
地域によって定義は変わるらしいが、そこまでは詳しくは知らない。俺が知っているのは情報だけだ。
俺は頭の中でノートを広げた。
星城院さんの情報としてこの件をメモしておかなければ。
読書好き。図書室に行く習慣がある。
ぜんざいが好き。駅前の純喫茶に通っている。
これは俺ひとりでは手に入らなかった、貴重なデータだ。
「黒豹、お前さすがだな……コミュ力だけでなく、情報収集能力まで高いとは」
「なにそれ~。人をスパイ扱いすんなっつーの」
「スパイ? 違うな……情報屋だ」
「急に小物感出たんだけどっ! スパイの方がカッコいいじゃん!」
黒豹が口を尖らせてぷんすかしている。
スパイ扱いされたくないのか、それともスパイがいいのか……何考えてるか分からん。
だが、そんなことはどうでも良い。
「読書好きか……。図書室に行けば星城院さんと会えるかもしれないってわけか」
「あ、もう作戦立て始めてる。早いね〜」
「情報が入ったら即座に戦略を更新するのは基本だろ」
「戦略って……恋愛をゲーム攻略みたいに言うとか……キモっ」
いいか? 俺はキモくない。
論理的に行動してるだけだ。
だが……
「ゲーム攻略か……」
確かに恋愛をゲーム攻略だと思えばわかりやすいかもな。
好感度を上げるイベントを探し、フラグを立てる。
そのために情報を集めて最適なルートを選択するというわけだ。
「ま、とりあえず情報は渡したからね。チャンスを活かしなよ、真面目くんっ!」
「ああ。ありがとう」
「……へぇ」
黒豹が少し驚いた顔をした。
「なんだ?」




