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第11話「覇王の策謀」

第5部

エイベル1689銀河団、王宮。


ヴァルビィが帝国との交渉に向けて

準備を進める一方、

王宮には

ガルド、リュージュ、ベイロンの

三人が残っていた。


「さて……」


覇王ガルドが、二人の王を見渡した。


「ヴァルビィの交渉を援護する」


「どうやって?」


リュージュが尋ねた。


ガルドは、

王宮の中央に広がる

銀河団の星系図を指した。


「銀河団の総軍を挙げて、

守備につかせる」


「……」


リュージュは、内心で肩をすくめた。


(なんだ、そんなことか)


ベイロンも、

表情には出さずに考えていた。


(大した策でもないな)


二人の反応を見て、

ガルドは口元をわずかに歪めた。


「そして、敵の艦隊が現れたら……」


「……」


リュージュは、

ガルドの言葉の続きを待った。


(総攻撃でもするってのか?)


ベイロンも鼻を鳴らした。


(ふん!)


ガルドは、

二人の反応など意に介さず、

星系図の表示を切り替えた。


そこに映し出されたのは、

銀河団を構成する無数の

居住星系だった。


「砲門を、

銀河団の内部に向けるのだ」


「な……なんという……」


リュージュの顔色が変わった。


「ま……まさか!」


ベイロンも、

ようやくガルドの意図を理解した。


「銀河団民を人質にする」


ガルドは、冷然と言い放った。


「帝国軍が攻めてくれば、

我々は自らの領域を守るために戦う。

だが、帝国軍が我々の要求を拒み、

攻撃を続けるならば、

砲門は銀河団民に向けられる」


「しかし、陛下……」


リュージュが口を開いた。


「それでは、

我々自身が銀河団を

破壊することになります」


「分かっている」


ガルドの返答は、

あまりにもあっさりしていた。


「だからこそ、交渉材料になる」


ベイロンが、

ゆっくりと椅子から身を乗り出した。


「つまり……帝国軍に、

我々を攻撃すれば銀河団民が

犠牲になると思わせるわけか」


「そうだ」


ガルドは頷いた。


「交渉材料は、わが銀河団民だ」


大広間に、重苦しい沈黙が落ちた。


「帝国軍が、

どれほどの戦力を

持っていようと関係ない。

攻撃すれば、

守るべき民が犠牲になる。

その事実を突きつけるのだ」


ガルドは、二人の王を見た。


「ヴァルビィが

交渉の席についたとき、

帝国軍が我々の要求を

無視できない状況を作っておく。

これが、

交渉を援護するという意味だ」


リュージュは、星系図を見つめていた。


「……帝国軍が、

我々の脅しに屈するでしょうか?」


「屈するかどうかは、

やってみなければ分からん」


ガルドは言い切った。


「だが、

何もせずに交渉を申し入れるよりは、

相手に

考えさせる材料があるだけましだ」


ベイロンは腕を組んだ。


「……なるほどな」


その声には、

先ほどまでの軽侮はなかった。


「全軍を守備につかせ、

砲門を内部へ向ける。

帝国軍が接近すれば、

いつでも銀河団民を

犠牲にできると示すわけか」


「そうだ。

各王国の艦隊に命令を出せ。

銀河団の全軍事力を、

主要星系の防衛配置につかせる。

各艦隊は命令を厳守し、

独断で行動してはならん」


「承知した」


リュージュが答えた。


ベイロンも頷く。


だが、二人の胸中には、

別々の思惑が渦巻いていた。


銀河団民を

人質にするという策が、

帝国軍にどこまで通用するのか。


そして、交渉が決裂した場合、

誰がその責任を負うのか。


その答えは、まだ見えていなかった。


     *


一方、

帝国へ向かうヴァルビィの艦内では、

まったく別の思惑が進行していた。


交渉使節のために整えられた会議室。


ヴァルビィは一人、

窓の外に広がる星々を眺めていた。


やがて、

誰もいないことを確かめるように、

扉へ視線を向ける。


そして、小さく笑った。


「……この機会に、

銀河団は俺のものにしてやろう」


その声には、

王宮で見せた

冷静な交渉役の面影はなかった。


「あの三人を帝国に引き渡して、

銀河団の委任統治を

俺に任せてもらえばいいのだ」


ヴァルビィは、

指先で卓上の星系図をなぞった。


ガルドは覇王として君臨し、

リュージュとベイロンは、

それぞれの軍事力を背景に

勢力を維持している。


四人の王が並び立つ現在の体制では、

ヴァルビィが銀河団全体を

支配することは難しかった。


だが、帝国軍との交渉ならば、

その構図を変えられる。


「俺は最初から、

帝国を攻めることには

反対だったんだ。」


誰に聞かせるでもなく、

ヴァルビィは呟いた。


もちろん、

それは事実の一面にすぎない。


帝国との戦争に

反対していたことと、

銀河団全体を自分の支配下に

置きたいという野心は、

矛盾しない。


むしろ、

戦争に敗れた今だからこそ、

彼には好機が訪れていた。


「帝国にとっても、

四人の王が

いつまでも争い続けるより、

一人の統治者に

任せたほうが都合がいいはずだ」


ヴァルビィは、

帝国側の反応を想像した。


自分がガルド、

リュージュ、ベイロンの三人を

引き渡す。


その代わり、

帝国はエイベル1689銀河団の

自治を認め、

ヴァルビィに委任統治を任せる。


帝国軍の圧倒的な軍事力を前に、

三人の王が抵抗を

続ける意味は薄れている。


ならば、

自分が帝国と手を結び、

新たな秩序を作ればいい。


「……悪くない話だろう?」


ヴァルビィは笑みを深めた。


ただし、彼はまだ知らなかった。


ガルドもまた、

交渉を単なる和平の

申し入れとして考えては

いないことを。


銀河団民を人質に取るという、

危険な策を進めていることを。


そして、帝国軍が、

四人の王の思惑を超える判断を

下す可能性があることを。


ヴァルビィの艦隊は、

帝国領へ向けて航行を続けていた。


表向きの目的は、和平交渉。


その胸中に秘めた目的は、

銀河団の支配権を手に入れること。


同じ銀河団の未来を語りながら、

覇王ガルドとヴァルビィは、

すでに別々の道を歩き始めていた。

11/2 8:10 に投稿します。

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