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第12話「交渉の裏側」 

第5部

エイベル1689銀河団、王宮。


四王の命令を受けた各艦隊が、銀河団全域で防衛配置につき始めていた。


数百万の艦艇が、主要恒星系を取り囲む。


その砲門は、外敵ではなく、銀河団の内部へと向けられていた。


「これで、帝国軍も簡単には手を出せまい」


ベイロンが満足げに言った。


「銀河団の民を巻き込めば、帝国とて攻撃を躊躇するはずだ」


リュージュは腕を組み、作戦図を見つめていた。


「問題は、帝国が交渉に応じるかどうかだ」


「応じさせるのだ」


ガルドが答えた。


「こちらには、まだ銀河団全域の軍事力がある。帝国がどれほど強大でも、無傷で勝利することはできぬ」


「ならば、交渉の条件は?」


ベイロンが尋ねた。


ガルドは、しばらく沈黙した。


「帝国軍の撤退。そして、エイベル1689銀河団の自治権を認めさせる」


「自治権だと?」


ヴァルビィが鼻で笑った。


「帝国が、そんな条件を呑むと思うのか?」


「だからこそ、交渉が必要なのだ」


ガルドはヴァルビィを見た。


「お前が帝国へ赴き、交渉する。こちらは全軍を防衛配置につけ、その交渉を支える」


「わかった」


ヴァルビィは即答した。


「俺が帝国を説得してやる」


その言葉に、ベイロンとリュージュは顔を見合わせた。


先ほどまで交渉を押しつけ合っていた男が、急に乗り気になったのだ。


しかし、二人は深く考えなかった。


ヴァルビィが帝国へ向かうことは、三人にとっても好都合だった。


少なくとも、交渉が失敗した場合、その責任をヴァルビィに負わせることができる。


ガルドだけは、ヴァルビィの表情を注意深く見ていた。


「ヴァルビィ」


「なんだ?」


「交渉中、独断で軍事行動を起こすことは許さん」


「わかっている」


「本当に、わかっているのだな?」


ヴァルビィは笑った。


「覇王ともあろう者が、俺を信用できないのか?」


「信用の問題ではない。銀河団全体の命運がかかっている」


「ならば、結果を見ていろ」


ヴァルビィは踵を返した。


王宮を出る直前、その口元から笑みが消えた。


(愚かな連中め)


彼は心の中で呟いた。


(まだ、自分たちが王でいられると思っているのか)


ヴァルビィは、最初から帝国との戦争に勝てるとは考えていなかった。


鳳凰δが戦場に現れた瞬間、彼は理解していたのだ。


帝国との正面戦争を続ければ、いずれエイベル1689銀河団そのものが崩壊する。


ならば、敗北を前提に、次の支配者になる道を探せばいい。


(ガルド、ベイロン、リュージュ。お前たちは、もう終わりだ)


ヴァルビィの思考は冷徹だった。


(俺が三人を帝国に引き渡す。戦争を主導した責任をすべて押しつけ、俺だけは最初から和平を望んでいたことにする)


帝国が求めるのは、無益な戦争の終結だ。


四王のうち三人を差し出し、自分は帝国の統治に協力する。


その見返りに、エイベル1689銀河団の委任統治権を手に入れる。


(そうすれば、銀河団は俺のものだ)


ヴァルビィは、再び笑みを浮かべた。


(帝国に従うふりをして、実権は俺が握る。いずれ帝国の目が届かなくなれば、そこから先は俺の自由だ)


彼にとって、銀河団の民は守るべき存在ではなかった。


王位を得るための資産であり、帝国との交渉に使う材料だった。


そして今、その民を人質にするというガルドの策さえ、ヴァルビィにとっては利用価値のあるものだった。


一方、王宮の作戦室では、ガルドが二人の王に向き直っていた。


「ヴァルビィが交渉に成功すれば、それでよい」


「失敗したら?」


ベイロンが尋ねた。


「そのときは、次の手を考える」


ガルドは答えた。


「ただし、決して忘れるな。我々が相手にしているのは、単なる大国ではない」


彼の脳裏に、漆黒の宇宙を進む鳳凰δの姿が浮かんだ。


「敵は、我々の軍勢を見ても動じなかった。数で押し切れる相手ではない」


リュージュは黙って頷いた。


ベイロンも、今度は反論しなかった。


三人は、それぞれ違う思惑を抱きながらも、一つの事実だけは認めていた。


帝国との戦争は、これまでの戦争とは違う。


そして、次に動くヴァルビィが何を持ち帰るかによって、銀河団の未来は大きく変わる。


その頃、帝国側では、エイベル1689銀河団からの通信を受ける準備が進められていた。


交渉の使者が現れることは、すでに予測されていた。


だが、帝国が知る由もないことが一つあった。


使者は、銀河団を救うために来るのではない。


銀河団を自分のものにするために、やって来るのだった。


11/9 8:10 に投稿します。

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